【ライヴアルバム傑作選 Vol.8】
THEE MICHELLE GUN ELEPHANT
らしいライヴの空気が
頭から最後まで詰まった
『CASANOVA SAID “LIVE OR DIE”』
彼ららしい無加工のライヴ音源
あと、本作は無加工音源というのも実にTMGEらしい。本作がリリースされた2000年頃には音楽の現場ではPro Toolsは当たり前に使われていたようにも思うので、当時、ライヴ音源の加工は普通に行なわれていたように思う。その辺、筆者は現場の人間ではないので、勘違いがあるかもしれないが、もしPro Toolsがポピュラーでなかったにせよ、PAから録った各パートの音をのちにミックスしたり、一部足したりすることはできたはずである。無加工音源とは、そういうことをしなかったということである。聴けば分かるが、無加工がゆえに、音が左右に分かれていたり、動いたり、どれかひとつのパートの音量が大きくなっているところはない。ステレオ録音のパキッとしたサウンドに慣れている人には、その音像はクリアーなものに聴こえないかもしれない。もし汚い音と受け取る人がいても、その人がおかしいわけではなかろう。しかし、無加工だからこそ、その音が一塊となっている印象を極めて強く受ける。時々聴こえてくる観客のシンガロングやレスポンスもサウンドと一体となっている。ライヴの様子を収録しただけではなく、その日その場の空気、熱、テンションといったものをまとめてパッケージしているかのようだ。TMGEのライヴの録音としてはこれがベストな方法だったことは間違いない。
M1「プラズマ・ダイブ」の冒頭では、当時ライヴのオープニングSEだった『ゴッドファーザー 愛のテーマ』を確認できて、それもまた“ああ、そうだったな”と懐かしく思ったのと同時に、そこから改めてTMGEの楽曲を聴き、彼らが映画『ゴッドファーザー』をフェイバリットに上げていたことにも納得したというか、さもありなん…と思った。『ゴッドファーザー』は映画史における名作中の名作で、物語、劇伴、役者の演技、カメラワークといった映画を構成する要素のひとつひとつが画期的で、それらが合わさった作品と言われている。
冒頭で述べた、一線級である各パートが合わさってTMGEとなるところは、映画と音楽では単純比較はできないけれど、妙に符合する。とりわけ映画『ゴッドファーザー』は、色調や陰影など画作りが芸術的で、どのシーンを切り取っても絵画や写真作品のように見えるという評価がある。TMGEにもそういうところがあるように思う。それはチバの歌詞世界と楽曲への乗せ方だ。TMGEの楽曲は、タイトルもそうだし、歌詞にしても、はっきりと意味が分かるようなものではない。本作で言えば、M5「コブラ」やM9「シルク」、M10「アッシュ」はその言葉の意味は分かるが、少なくとも筆者はその歌詞にはっきりとした物語性を見出せない。M1「プラズマ・ダイブ」とか、M11「ベガス・ヒップ・グライダー」とか、M16「ピストル・ディスコ」とか、それまで聞いたことがなかったし、TMGE以降もそれに近いワードセンスはほとんど見聞きしたことはないだろう。だが、はっきりと意味は分からないながら──もしかすると、意味が分からないからこそ、チバがそれをシャウトすると、容赦なくロックを感じられるのではなかろうか。そんな風にも思った。それもTMGEの画期的なところだったのかもしれない。仮にセンスやテンションを可視化して1枚の画にできるようなテクノロジーがあったとして、それでチバ独特のワードセンスやライヴでシャウトする熱を1枚の画に仕上げたら、それは今、映画『ゴッドファーザー』の1シーンを画像化した時のように、否応なしにアートを感じるものになるのではないか。いろんな想いが去来した『CASANOVA SAID~』である。
TEXT:帆苅智之
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