『メシ喰うな!』/INU

『メシ喰うな!』/INU

町田町蔵率いるINUが
ポストパンクサウンドに宿らせた
日本人としてのアイデンティティ
『メシ喰うな!』

パンクと紹介されることが多い町田町蔵率いる大阪の4人組、INU。しかし、彼らが残した唯一のオリジナルアルバム『メシ喰うな!』では脱パンクに挑むことで、唯一無二の存在であることをアピールしていた。閃きに満ちた歌詞・曲ともに、そのクオリティーの高さには今一度、注目しておきたい。

日本のパンクを語る際に
絶対外せない作品

高校の時、クラスにワルい奴がいて、「あれも聴け」「これも聴け」といろいろ聴かされ、とうとうこんな人間になってしまった。そいつがある日、「めんたいロックが好きなら、これも聴いたほうがいい」と持ってきたのが、ザ・スターリンの『trash』とINUの『メシ喰うな!』(のカセットテープ)だった。めんたいロックからいきなりハードルが上がったなんて、もちろん当時は思うはずもなく、家に帰って、早速聴いてみたところ、それまで聴いたこともない音が鳴り出して、これは親には聴かせられないと思い、慌ててボリュームを下げた。この人たちは本当に××××なんじゃないかと戦慄した。頭がビリビリとシビれるような衝撃があった。自分の理解を遥かに超えていたため、正直、これっぽっちもいいとは思えなかったものの、不思議と拒否反応は起こらず、今思えば、当時の筆者にとっては、それが世の中に対する反抗(もちろん反抗と言うにはあまりにもささやかなものではあったけれど)だったのだろう、理解できないなりに聴きつづけ、いつしか虜になっていた。
現在、作家として活躍している町田康が“町田町蔵”と名乗ってやっていた大阪のパンクバンド、INU。実質3年間しか活動していなかったその彼らが残した唯一のオリジナルアルバムがこの『メシ喰うな!』である(解散後の84年、ライヴ盤『牛若丸なめとったらどついたるぞ!』が発売されている)。現在では日本のパンクを語る際、絶対外せない作品のひとつに数えられ、パブリック・イメージ・リミテッドやバースデイ・パーティをはじめとするポストパンク~ジャンクロックバンドの影響が窺える高い音楽性が評価されているが、そんな海外のバンドからの影響を指摘することがばかばかしくなるほど、INUのサウンドを独自のものにしていたものが、町蔵が独特の言語感覚を駆使して紡ぎだした摩訶不思議な言葉の数々だった。

OKMusic編集部

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