『爆裂都市(BURST CITY)
オリジナルサウンドトラック』は、
陣内孝則、大江慎也らが
自ら音をかき鳴らした規格外の劇伴

『爆裂都市(BURST CITY)オリジナルサウンドトラック』('82)/V.A.
“映画の暴動”と呼ばれる
カルトムービー
登場人物たちの背景や相関関係が分かりづらい。正直言って、一回観ただけでは掴み切れないのではないかと思う。観ている側にそれを想像させる箇所もなくはないけれど、従来の映画にとらわれていない手法が連続していて、我々になかなかその余地を与えてくれない。よって、物語も一応あるにはあるようだが、少なくとも簡単にカタルシスを得るような展開は訪れないと言っていい。近未来と言えば聞こえはいいが、そこから退廃だけを抽出したような美術や衣装。メインの役者たちはほとんど俳優ではないため、演技らしい演技は望むべくもない。台詞らしい台詞もなくはないが、強く印象に残るのは登場人物たちの叫び声のほうだ。それらを手持ちのカメラで撮影しているので、概ね映像はブレブレな上、あえて8ミリで撮影したことで相当に粗い画面も多々ある。細かくカットを割った──というか、短くカットをつなぎ合わせたシーンもあって、何と言うか、観ているこちらの気持ちも忙しない。そんなふうに映画の概形を分析するだけでも、ローポジションの固定カメラでとらえた笠智衆がゆっくりと原節子に語り掛けるような映画と、最も離れたところに位置する作品であることが分かる。
メインの役者たちはほとんど俳優ではないと書いたが、そこまで役者経験がなかったミュージシャンが大半を占めている。ザ・ロッカーズの陣内孝則(Vo)、鶴川仁美(Gu)。ザ・ルースターズの大江慎也(Gu)、池畑潤二(Dr)。町田町蔵(現:町田康)。そして、遠藤ミチロウ(Vo)、タム(Gu)、杉山晋太郎(Ba)、乾純(Dr)という1981年頃のザ・スターリンのメンバー。この時すでに役者として注目されていた泉谷しげるも、もともとはミュージシャンとして世に出た人である。話は前後するが、陣内孝則は『爆裂都市 BURST CITY』が映画初出演。ザ・ロッカーズは本作公開後の1982年6月に解散しており(のちに再結成)、陣内が俳優業を本格化させたのは本作の後だ。その他、ミュージシャン以外でも、コント赤信号の3人や作家の戸井十月(戸井氏は石井監督、泉谷と並んで本作の原案を担ったひとりでもある)、プロレスラーの上田馬之助、芸術家の篠原勝之、イラストレーターの南伸坊、ヴィジュアリストの手塚眞らもキャストに名を連ねている。麿赤兒や室井滋など、役者もそれなりに配されているものの、メインどころは上記メンバー。今となれば主人公が陣内孝則という映画は不思議でも何でもないけれど、前述の通り、これが彼のデビュー作である。配役だけも石井監督は普通の映画を作ろうという気がなかったことはよく分かる。
ちなみに、この時にはザ・ロッカーズもザ・ルースターズも町田町蔵のINUもメジャーデビューしていたが、ザ・ロッカーズは前述した通り、公開後に解散(鶴川はその前年に脱退)。INUは公開前に解散している。なので、バンドを売り込むために彼らをキャスティングしたわけではなかったことも分かる。ザ・スターリンは公開年の7月にメジャーデビューしているけれど、劇中での役どころとその顛末を考えれば、これもまた彼らを売り込もうとかいう意図がなかったこともよく分かる。