RCサクセションのラストアルバム
『Baby a Go Go』の豊潤と“らしさ”

『Baby a Go Go』('90)/RCサクセション

『Baby a Go Go』('90)/RCサクセション

RCサクセションのアルバム中で最高セールスを記録した19thアルバム『Baby a Go Go』が、6月7日にデラックス・エディションとなって発売された。LP2枚組に加えて(これが初アナログ化!)、最新リマスターCD、さらにはCDサイズだった同梱写真集がLPサイズになって復刻。ジャケットは当時プロモーション限定で配布された幻の14面ギミックジャケットとなっているなど、ファン垂涎のコレクターズアイテムと言える。今週はこのリリースにあわせて、本作を取り上げる。RCのアルバムの中で最も売れたこともよく分かる、今なお古さを感じさせない名盤である。

RCサクセション最後のアルバム

以前、当コーナーで『シングル・マン』を紹介した際、いわゆるブレイク期のRCサクセション(以下RC)の音源はよく聴いたが、遡って聴いた初期のRC(1stアルバム『初期のRCサクセション』、2nd『楽しい夕に』、3rd『シングル・マン』)は、当時お子ちゃまだった筆者にはピンとこなかったと書いた。今回もうひとつ白状する。実は『COVERS』(1988年)以降の作品もあんまり聴けていない。RCの新作が出れば当然のようにチェックしていたので、まったく耳にしなかったということはなかったけれど、リピート率は高くなかった。具体的に言うと、9th『HEART ACE』(1985年)、10th『MARVY』(1988年)、そして、今回紹介する11th『Baby a Go Go』(1990年)である。同時期に出たライヴ盤『the TEARS OF a CLOWN』(1986年)はめちゃくちゃ聴いていた記憶がはっきりとあるので、RC自体に飽きていたわけではないし、RCが自分の好きなバンドの上位にいたことは間違いない。ただ、上記3作品のイメージはしばらくの間、おぼろげなものだった。

理由はいろいろと考えられる。1980年代半ばまでは、まだまだバンドシーンの市場規模は小さかった。そこでの筆頭はRCであっただろうし、YMOもブレイクしていたものの、あとのメジャーどころと言えばサザンオールスターズくらいなもので、大袈裟に言えば一般的にも知名度の高いバンドはそういなかったように思う(マイナーなバンドは無論たくさんいた)。ロックバンドがメインストリームに踊り出たのはその後、1985年のレベッカのブレイクであり、BOØWYのブレイク以降である。また、LAUGHIN' NOSE、THE WILLARD、有頂天らの出現によるインディーズブームの象徴と言われるNHKで放送された番組『インディーズの襲来』の放送も1985年で、この頃から多様化も進んでいった。要するに、1980年代半ばにはRC以外にも聴くべき音楽が続々と出てきたのである。MTVの隆盛も大きかった。調べたらUSA for Africaの「We Are The World」も1985年だったので、それ以前からMichael Jackson、Madonna、Cynthia Lauperも自然と耳にしていた。小林克也MCの『ベストヒットUSA』もよく分かってないのに分かったような顔をしながら観ていたと思う。1980年代半ば、洋楽邦楽問わず、一気に刺激があふれ出したのだ。

当時の筆者はまだ20歳になったかならないかの頃。我がことながら、移り気なのは仕方がなかったと思う。前述した通り、RCも聴くには聴いていたが、上記のバンドたちも聴いていたし、洋楽ヒット曲もそれなりに聴いていた。先頃、再結成したTHE STREET SLIDERSも好んで聴いていたことも思い出す。新しい音楽もメディアでどんどん紹介されていったし、日々それをチェックするのが大変だったのだろう。10th『MARVY』に関して言うと、その半年後に発売された(というか、いったん発売中止になった)カバーアルバム『COVERS』の衝撃が強くて、割を食ったようなところはある。振り返れば、当時はやはりRCや忌野清志郎のことを、刺激を与えてくれる存在と見ていたのだろう。『COVERS』をよく聴いた分、その前作『MARVY』は早々に過去作になってしまったのである。また、『Baby a Go Go』に関して言えば、その前年に放送が始まってバンドブームを巻き起こした『三宅裕司のいかすバンド天国』の影響があったことは間違いない。1990年は雨後の筍の如く、バンドが世に出てきた。RCを聴いている暇はなかったと言っていいかもしれない。自分もまだ若かった。特に『Baby a Go Go』のようなアコースティックサウンドも少なくないアルバムは畢竟リピートされなかったのは、今思っても当然だったように思う。

OKMusic編集部

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