19の1stアルバム『音楽』の歌詞とサ
ウンドは堂々たるロックだ!

1990年代後半、世紀末も押し迫った時期。CDバブル絶頂期でもあったこの頃、“ネオフォーク”や“ニューフォーク”と呼ばれたジャンルがあった。19はそのカテゴリーで人気を博したデュオ・グループである。2ndシングル「あの紙ヒコーキ くもり空わって」で大ブレイク。5枚目のシングル「水・陸・そら、無限大」がシドニーオリンピックの日本代表選手団公式応援ソングになるなど、その活動期間中、彼らは間違いなく邦楽シーンの頂点を彩った。そんな19の音楽性をデビューアルバム『音楽』で検証してみた。

 とある高名な評論家が「ロックは単なる音楽ではなく、若い世代の時代意識やイデオロギーを反映したメッセージである」が言っていた。これは以前、別稿でも引用させていただいた言葉だが、正鵠を射た論評であると思うのでまた引用させていただく。19の音楽は当時“ネオフォーク”とか“ニューフォーク”とか呼ばれていたそうだ。岡平健治岩瀬敬吾のデュオというスタイルからするとフォークという形容が分かりやすかったのだろうし、同時期にゆず、コブクロ、唄人羽ら、他にも人気のグループがいたので、そうカテゴライズするのも無理はなかっただろう。それはそれでいい。が、今回、彼らの1stアルバム『音楽』を聴き直して、「これはロックでいいじゃん」と素直に思った。19が発したメッセージは、しっかりと“若い世代の時代意識やイデオロギーを反映した”ものだし、何よりもここに収録されている音はロックそのものである。
 M1「言葉」は朗読、M2のデビューシングル「あの青をこえて」はイントロのブルースハープと特有のハーモニーは確かにフォークソング的な印象はあるが、これ以後、サウンドがどんどん変化していくのが『音楽』の興味深いところ。M3「テーマソング」はバンドサウンドを前面に出した明らかなロックチューン。70年代風のオルガンの音色、エレキギターのモジュレーション系エフェクトのゆらぎもいいし、スネアドラムの硬質の音もカッコ良い。何と言っても、深めのリバーブがかけられたシンバルとハイハットの音色が素晴らしく、リスナーの耳朶にへばりつくようなアシッド感は特筆ものである。歌メロのキャッチーさ、ポピュラリティの高さがそれを補ってバランスをとっているような格好だ。M4「恋」もストリングスアレンジが効いたミディアム・ロックチューンで、M5「春流れる」はフレンチポップス風だがエレキギターの鳴りが重いところにこれまたロックを強く感じさせるナンバーだが、要注目はM6「西暦前進 2000年 → ~新~」。デビューシングルのカップリング曲のリミックスだが、同期をベースにしたループミュージック風の楽曲で、ヴォーカルにもデジタルエフェクトがあり、全体にはスペイシーな雰囲気もある。楽曲後半には逆回転っぽい音も入っており、これは十分に所謂、サイケデリックロックに分類されるものだろう。
 アコギ2本とハンドクラップによるM7「階段」とバンドセッションのM8「三分間日記」とは、タイプは異なるものの、ともに一発録りで、いい意味のラフさが光る佳曲。続く、19最大のヒット曲で出世作のM9「あの紙ヒコーキ くもり空わって」も、印象的なサビメロに耳が奪われがちかもしれないが、サウンドは重めで、演奏は抑制されつつも、しっかりとグルービーである。M10「まばたき」もM12「ビルはほど遠い街」もバンドサウンドで構築されているし、M13「瞬間概念」に至っては明らかにサイケデリックロックの音作り。オルガンとストリングスの使い方がビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」辺りへのオマージュを感じさせるし、「このふたり、実は早くからサウンド指向だったのか!?」という発見もあった。M14「『スピーカーの前の君へ…。』」は前半は朗読パート、後半はM1「言葉」の詩《音楽で話そう 言葉なんて追い越してさぁ… この地球(ほし)の音楽(ことば)で…。》をメロディーに乗せた演奏パートで構成された楽曲で、M1へつながる所謂円環構造を持って本作は締め括られる。このコンセプトアルバム的な容姿もロック的で好感が持てるところだ。(M11「『ガソリン』」はスタイルこそアコギ2本で、パッと聴きフォーキーな印象はあるだろうが、このメロディーと歌詞の持つ雰囲気は──彼らがそれを意識したことはないだろうが、個人的には初期のRCサクセションにも近いものを感じたことを付け加えておく)。
 『音楽』はこれほど分かりやすくロックテイストを持ったアルバムであり、その後の19の活動、また19解散後の岡平、岩瀬両名の活動を見れば、決して彼らがフォーク指向でなかったことは明らかだが、これはその時代性を考えれば致し方ないことだったろうとも思える。19がデビューした1998年はCDバブル絶頂期。CD生産枚数が日本国内史上最高を記録した年で、代表的なところで言うと、GLAYのシングル「誘惑」「SOUL LOVE」同時リリース、L'Arc〜en〜Cielのシングル「HONEY」「花葬」「浸食 〜lose control〜」同時リリース、あるいはB'zのアルバム『B'z The Best "Pleasure"』『B'z The Best "Treasure"』がリリースされて、それぞれ500万枚、400万枚を越えるセールスを記録した年だ。また、ビジュアル系バンドも盛り上がっていた時期でもあり、あまたの勢力との差別化を図るために、“ネオフォーク”や“ニューフォーク”との形容した、メーカーやマネジメントサイドの判断も“むべなるかな”であっただろう。ただ、今となっては、そうカテゴライズするのはもったいないというか、彼らの評価を狭めているような気がして、老婆心ながら強調させていただく。19はロックである。
 冒頭で述べた通り、19ならではのメッセージは“若い世代の時代意識やイデオロギーを反映した”ものであり、ロックそのものであると思う。これはこの楽曲がヒットしている最中にも思っていたことだが、M9「あの紙ヒコーキ くもり空わって」の《夢を描いた テストの裏 紙ヒコーキ作って 明日になげるよ。/いつか… このくもり空わって 虹を架けるはずだよ? みんなをつれてくよ?》には、日本の若者が感じる閉塞感とそれを払拭せんとする姿が描かれている。これは日本のロックの正統なる系譜に連なるものだろう。また、《「自分らしく…。」なんて口にするたび何もしてない自分に気付く/追いかける自由(ぎむ)に自分を忘れ遠く…青をみつめてた》(M2「あの青をこえて」)や、《善(シロ)と悪(クロ)の決められた 横断歩道(くりかえし)に生きるより/君は自分で探してほしい楽じゃないけど楽しい道を…》《「ひとり×ひとり」の「僕ら」になろう 僕ら一緒に歩いてく/まったく別の方向へ 楽じゃないけど楽しい道を…》(M3「テーマソング」)等は、後の青春パンクにも通じるポジティブさを湛えている。この辺りは、誰か明確なフォロワーを生んだ…ということではなく、現在まで連綿と連なる日本のロックに少なくない影響を与えたと思う。
 初期19の歌詞世界の構築は、ビジュアル面のプロデュースも行なっていたイラストレーター、326(ミツル)によるところも大きい。『音楽』収録曲の歌詞は、日常の何気ない風景を描いたものと、外に向かっているようなメッセージ性を持つものに大別されるが、概ね前者は岡平、岩瀬それぞれの作で、後者は326作である。つまり、19の“若い世代の時代意識やイデオロギーを反映した”世界観の裏に326の存在がある。確かなメッセージを発信しつつ、それでいてポップなイメージを前面に打ち出せたことも多大な功績であろう。326は1999年にグループを脱退。この顛末に関しては醜聞も付いているようだが、イラストレーターが音楽グループに参加した意義は大きかったと思われる。YMOは当初横尾忠則をメンバーに加える構想があったものの、実現に至らなかったという。19はそれを実践したのだから、この点も称えられるべきではなかろうか。19は2002年に解散。その後、岩瀬はソロ活動を、岡平はバンド、3B LAB.☆Sでの活動を経て、ソロ活動を展開している。外野からは事あるごとに再結成の話が上っているが、両名とも、それには否定的なようではある。再結成した場合、各々のソロ活動での経験がいいケミストリーを生み出す気もするが、こればかりは想像しても詮なきこと。何か動きがあるとすれば、デビュー19周年で岡平、岩瀬両名が19歳から19年目を迎える2017年だろうか──根拠は何もないけど。

著者:帆苅竜太郎

OKMusic編集部

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