今年9月に約3年振りとなるオリジナルアルバム『SHAAAA !!!』を発表したばかりのTOMOVSKY。大木知之のソロプロジェクトである。文字通りのソロ形態“ひとりTOMOVSKY”、バンド形態の“バンドTOMOVSKY”とそのスタイルも問わないばかりか、今年もまた、ワンマンはもちろんのこと、対バン、フェスとあらゆるライヴに出演。活動をスタートさせてから大凡四半世紀、齢50歳を超え、ますます精力的な大木である。今回の当コラムは彼のキャリアのスタートと言えるバンド、カステラにスポットを当ててみたい。

“その他大勢”のパンクバンドではない

カステラのメジャーデビューは1989年6月。第二次バンドブームの象徴と言える人気テレビ番組『三宅裕司のいかすバンド天国』、通称“イカ天”の放送が89年2月~90年12月だったから、まさにブーム真っ只中でのメジャー進出であった。ブームに功罪があるというのはよく言われるところで、功=その手柄はそのシーンが底上げされることだろうし、罪=責められる点はピンからキリまで十把一絡げにされてしまうことであろう。カステラも、多くの人にとっては「ああ、いたねぇ、そんなバンド」と“その他大勢”として括られる存在かもしれないが、だとしたらブームというのは本当に罪深い。今回、本稿作成のため、『世界の娯楽』を聴き直して、彼らは“その他大勢”レベルで語られていいバンドではないし、もっと評価されてしかるべきバンドであると認識を改めた。そりゃあ、カステラはメジャーデビューアルバム『世界の娯楽』をチャート3位に叩き込んだわけだから、リアルタイムでそれなりのレスポンスを得てはいるが、現状でのカステラへの評価と彼らが残した音楽のクオリティーとは均衡が取れているとは言い難いと思う。
カステラのメンバーは大木知之(Vo)、長谷川裕(Gu)、福地伸幸(Ba)、福田健治(Dr)の4人(福田は92年に脱退)。スタンダードなバンド構成で、当時のアーティスト写真を見ると基本はノーポーザーであり、出で立ちはビジュアル系辺りとは対極にあった。肝心のサウンドは、これまたシンプル…というと若干語弊があるが(この辺は後述するが)、決してゴージャスな音作りを標榜するタイプではなかったことは間違いない。だが、そのメロディーには独特のポップ感があった。カステラを推す理由のひとつはそこにある。ベースはあくまでもパンクであり、ロックンロールであるのだが、モロに洋楽的というわけでも、和風でもない、面白いバランスを持っていたと思う。概ねサビには突き抜けるようなキャッチーさがあり、陰陽で分ければ明らかに陽気なのだが、独特のウエット感を備えている。M2「太陽テカテカ」やM6「歯が抜ける」等、哀愁を感じさせるナンバーもあるが、それもメランコリックになりすぎていない印象がある。この辺は間違いなく大木のヴォーカルによるところが大きいと思う。彼のハイトーンヴォーカルは極めて個性的だが、それがロック特有の臭みを消しているような感じだ。おそらく他のバンドがカバーしたら楽曲全体のニュアンスは変わるのではないだろうか。それだけこのバンドにはオリジナリティーがあったと思う。

実は味わい深さ満載の歌詞世界

もっとも特筆すべきは歌詞だろう。カステラの歌詞は、当時は“ほとんど意味がない”と評されていたような気はするし、代表曲とも言えるM9「ビデオ買ってよ」にしても、“意味がない”とは言われないまでも、一部“ショタコン”の方を除いては、“世の中を舐めてる”といった捉えられ方が多かった気がする。しかし、今聴いてみると、いやいや、どうして、なかなか味わい深い。『世界の娯楽』に関して言えば、確かに《朝はあさあさ 昼はひるひる/夜はよるよる やだなあ》(M8「ヤダヤダ」)辺りは大して意味を成していないようだが、短い言葉の連なりの中に物語が感じられるものもある。
《深いキスしたり/かたく抱き合ったり/血を流したり/かみついたり》《これからもずっと/していきたいのに/もうできないって/女は言った》(M2「太陽テカテカ」)。
《今日まで文句も言わず/ついてきてくれた/いつもいっしょだったのに/ポロリとおちた》《歯が抜ける 歯が抜ける/大事な歯が抜ける》(M6「歯が抜ける」)。
《あなたを思うと/胸がはりさける/だけどあなたは/すごくわがまま》(M14「ワガママ」)。
自由律俳句のようだと言うと流石に誉めすぎかもしれないが、主人公の心情を深読みしたくなるような内容ではないだろうか。また、こんな歌詞もある。
《もっとちょうだい中国製/MADE IN CHINA!/MADE IN CHINA!/もっとちょうだい韓国製/MADE IN KOREA!/MADE IN KOREA!》《資本主義は夢の島/何でも安くなる/有り金はたいて何でも/山盛り買ってやる》(M4「やすくなる」)。
《あいまいな父 帰りがおそい/あいまいな母 料理がまずい/あいまいな兄 部屋にとじこもる/うちの家族は あいまいまい》(M5「アイマイ家族」)。
《いじめられっ子/いつも同じ/どうしてだかぼく知らないよ/みんな楽しむ/それでいいけど/オトナになって/仕返しされる》(M11「セミの唄」)。
M4「やすくなる」はバブル崩壊後のデフレ状況を予言していたようだし、M5「アイマイ家族」は家庭崩壊を描いている。M11「セミの唄」はズバリいじめ問題だ。社会派である。かと思えば──。
《身もココロも/ボロボロだけど/心の唄は/忘れていない》《夜明け 夜明け/日本の夜明け/世界の夜明け/チュンチュンチュン…》(M1「夜明け」)。
《頭の輪あるいいやつが/政治のうたばかり うたってる~》(M10「頭の輪あるいいヤツ」)。
意外と…と言っては失礼だが、このようなメッセージ性の強い歌詞もある。既存のカテゴライズを嫌い、自らを“ポコチンロック”や“バカロック”と称する一派があったが(この辺は説明すると長くなので、詳しくはLÄ-PPISCH『WONDER BOOK』の回を参照願います)、カステラもそれらのグループに含まれていたような記憶がある。彼らが自発的にそこに入ったのかどうか分からないが、周りから変に色を着けられることを嫌がったのは確か。それゆえにか、『世界の娯楽』を聴き直すまでは、主張が激しいバンドである印象はまったくなかったのだが、こうして分析してみると結構、硬派な論客でもあったようだ。この辺にはもっとスポットが当たっても良かったと思うし、そうであったなら周りからの見られ方も変わっていたような気もする。
メジャー進出後、シングル5枚、アルバム5枚(『世界の娯楽』を含む)を発表したカステラは93年に解散。その直後に大木、福地、長谷川がドラマーを加えて新バンドを結成していることから、解散理由は少なくともメンバー間のトラブルではなかったようだ。それ以外の何かだろう。結局、その新バンドも長続きせず、わずか1年で解散した。その後、大木はソロユニット、TOMOVSKYとして活動を開始。その他のメンバーは他のバンドで活動したが、それらも解散し、いずれも音楽業界から離れてしまった。スタンダードなバンドスタイルだったとは言え、M2「太陽テカテカ」でレゲエ、M4「やすくなる」とM6「歯が抜ける」ではスカ、M8「ヤダヤダ」ではサイケデリックな音作り、さらにはM15「温室育ち」ではノイジーなギターが全編を支配するプログレ風のロッカバラードを披露していたりする。決して所謂パンク一辺倒ではなく、バンドアンサンブルもなかなか興味深い。パンクはパンクでも、セックス・ピストルズではなく、ザ・クラッシュに近いと言ったらいいだろうか。これは完全に想像の域を出ないが、当時の邦楽ロックシーンが今に近いかたちで成熟していて、送り手にも受け手にも多様性があったら、カステラの評価はもう少し違ったものだったと思う。しかし、そればかりは詮なきこと。今も残る音源で彼らの雄姿を愛でるのが、彼らへのせめてもの手向けだ。

著者:帆苅智之

OKMusic編集部

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8コメント
  • hanazukinchang
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