CHAR、ルイズルイス加部、ジョニー吉
長のクールで粋なセンスに脱帽! P
INK CLOUDの『KUTKLOUD』はスリーピ
ースバンドの域を超える名盤だ。 

本屈指のギターヒーロー、CHARが1978年に結成したジョニー・ルイス&チャー。彼らがのちの1982年にPINK CLOUDと改名し、リリースしたのがアルバム『KUTKLOUD』である。彼らにあまり触れる機会のなかった人はCHAR、ルイズルイス加部、ジョニー吉長という大御所揃いの顔ぶれに難解でハードルの高いロックをやっていたのでは?というイメージを持つかもしれないけれど、彼らの音楽はスリーピースバンドが好きな人には特に聴いてほしい。ギター、ベース、ドラム、それぞれの楽器に存在感があり、ユニゾンの醍醐味や、ジャムセッションのようなスリルがたっぷり味わえるし、ロックというカテゴリーにも縛られずに自由にシンプルに音楽を楽しむ3人のキャパシティのデカさにも触れられる作品だからだ。もちろん、ジョニー・ルイス&チャー時代にも傑作はあるのだが、このアルバムに収録されている曲は当時、ライヴでよく演奏されていたし、ライナーノーツによるとのちにCHARは“シングルの集まり”と評していたようだ。なお、『KUTKLOUD』は2001年にデジタルマスタリングが施され、再発売されている。

ジョニー・ルイス&チャーとの出会い

個人的な思い出を書くと、ジョニー・ルイス&チャーとの出会いは1枚のポスターだった。3人が映っているモノクロのシンプルな写真だったと思うが、これがめちゃくちゃカッコ良かった。情報薄の時代だったこともあって、どういう経緯でバンドが結成されたかは知らなかったが、この人たちがダサい音楽をやっているはずはないと思った。振り返ってみると1970年代はバンド名だったり、野生のカンだけを頼りに音楽を探していたように思う。携帯はないが、頭のアンテナはバリバリに立っている感じだったのだろうか。そう思うと今はすぐに検索してしまうから、頭が圏外になっていることが多いのかもしれない…とこの文章を書いて反省しているところである。
さっそく彼らのライヴを観に行って、ぶっ飛んだ。もちろん、CHARはソロ時代にテレビで観ていたし、音楽も聴いていたのだが、音源と同じ音色が目の前で鳴らされた衝撃は今でも忘れられない。さらに話はさかのぼるが、子供の頃は都内の文京区に住んでいた。歌謡曲全盛の時代だったけれど、ロック好きのクラスの子から「大田区から天才ギタリストが出てきたんだって」と言われたのを覚えている。それがCHARであり、のちに代表曲「Smoky」が収録されているアルバム『CHAR』(1976年)が世に出た時、「あの時、友達が言っていたのはこの人のことだったのか!?」と思ったものだ。PCも携帯も当然、SNSもない時代にこういうふうに噂が伝わってくるのは、よっぽどのこと。文字通りのギターヒーローの出現であった。
生で観たCHARのギターはアグレッシブかつファンキーなギターのキレ味もすごかったが、個人的に驚いたのはアルペジオや伸ばす音の美しさや深みかもしれない。「どうしたら、こういう音が出せるんだろう?」という素朴な疑問が頭の中で渦巻いていた。涼しげな顔でクールなフレーズを繰り出すルイズルイス加部のベースにも驚いたし、ジョニー吉長のドラムソロにも釘付けになった。正直、彼らのライヴを見るまではドラムソロとか長いギターソロには関心がなかった。なぜかというと飽きてしまったからである。しかし、ジョニー吉長のドラミングはシンプルでありながら、グルービーで、理屈は分からないけれど「スゴイ!」と思った。場所はどこかの大学の文化祭。それがジョニー・ルイス&チャーとの出会いだった。
ちなみにジョニー・ルイス&チャーはCHARが1978年に元イエロー、金子マリ&バックスバニーのドラマーであったジョニー吉長と元ゴールデン・カップスのベーシスト、ルイズルイス加部と共に結成したバンドで、2人ともCHARの先輩格。ルイズルイス加部にCHARが電話をかけて口説いたと記憶している。翌年の夏に日比谷野外音楽堂で行なわれた無料ライヴ『Free Spirit』は当時のロックファンの間ではもはや伝説だろう。その頃の洋楽ファンは日本のロックバンドをなかなか認めない傾向があったが、そんなことは関係ないと言わんばかりの涼しげなアティチュードで、すごい音を鳴らしている彼らが垣根を超えてリスナーからひと目置かれる存在であったことは言うまでもない。彼らはジョニー・ルイス&チャー名義でアルバム『Tricycle』、『OiRa』をリリース。レコード会社移籍をきっかけにバンド名をPINK CLOUDに改名。その第1弾アルバムが『KUTKLOUD』である。
なお、ジョニー吉長は惜しまれながら2012年に死去。息子である金子ノブアキとKenKen、CHARの息子であるJESSEがのちにバンド、RIZEを結成し、活躍しているのはご存知の通り。その素晴らしいDNAは彼らに受け継がれている。

アルバム『KUTKLOUD』

CHARの歯切れのいいカッティングリフで始まりジョニー吉長がリードヴォーカルをとるナンバー「Would You Like it」は、PINK CLOUDのシンプルでピースフルなメッセージが凝縮された曲であり、この曲でアルバムは幕を開ける。レコーディングがハワイで行なわれたことも、本作に流れる開放的な空気感につながっているのかもしれないが、3人が顔を突き合わせて音を鳴らしている絵が浮かぶようなマジカルな演奏がパッケージされている。スリーピースならではのスリリングなテイクが堪能できる「Cat n’Rats」は、たぶんメンバーが共通して聴いていたであろうクリームのカッコ良さに通じるロックナンバー。ハードロック好きの血を騒がせるヘヴィな質感の「Low’n Top」のような曲(間奏の展開も聴きどころ)も収録されているが、CHARのファルセットが光るソウルフルな「CloseYour Eyes」や、ギターの美しいイントロ(ライヴで驚いたのはこの曲で出している音色だと思う)から持っていかれる「Only For Love」ボサノヴァのリズムが心地良いインスト「Little Harbor」など、本作にはロックのみならず、ファンク、R&B、ジャズなど様々な要素がブレンドされている。今、聴くとめちゃめちゃ踊れるアルバムでもあると思うのだが、どうだろうか?
そして、全編に流れているのは3人の“粋なセンス”である。「俺たちはロックバンドだぜ!」みたいな気負いはなく、英詩にときどき日本語が混ざるところも遊び心たっぷり。やんちゃな面と大人の色気が混在しているのも本作の魅力である。スピーディで衝動的な「Be My Lady」やロックンロール「She’s Waitin’ For You」など最初から最後まで飽きさせない。こんなに身がたっぷり詰まっていて全16曲、約38分。名盤!!

著者:山本弘子

OKMusic編集部

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