原石の輝きを放つスーパーカーの1st
アルバム『スリーアウトチェンジ』

1997年にデビューを果たし、同年にデビューしたくるりやNUMBER GIRL、中村一義とともに新世代の鋭い感性を持ったロックバンドとしてシーンの熱い注目を集めたスーパーカー。後にテクノ、エレクトロニカ指向のサウンドへと進化していったこともあって、スーパーカーを聴き始めた時期によって好きなアルバムは異なるだろうし、映画『ピンポン』(主題歌、挿入歌を担当)で彼らの存在を知った人も多いのかもしれない。が、やはり、原石のような輝きを放つ1stアルバム『スリーアウトチェンジ』抜きにはスーパーカーを語れないだろう。今なおファンからの支持が高く、ギターバンド好きのツボを突きまくりのみずみずしい楽曲がたっぷり収録されている。

希望と諦めがブレンドされたSUPERCAR初
期の青臭さ

スーパーカーは青森出身のロックバンド。メンバーはナカコーの愛称で親しまれ、近年ではソロ名義のライヴでスーパーカーの楽曲も披露している中村弘二(Vo&Gu)、バンド解散後は9mm Parabellum Bulletやチャットモンチーのプロデューサーとしても活躍のいしわたり淳治(Gu)、後にソロとして活動する紅一点のフルカワミキ(Ba)、田沢公大(Dr)の4人で、1997年にデビューした時には平均年齢が10代という若さ! 音楽にも表れてはいるが、ガツガツした感じはなく、青森在住のまま、途中まで活動を行なっていた。今でこそDTM時代ということもあり、上京という選択をしないバンドは珍しくないが、バンドが今よりブームだった時代だったこともあり、マイペースなスタンスが雑誌などで取り上げられていた記憶がある。
当時、スーパーカーは青春バンドとか、スニーカー系と形容されていた。が、彼らがさわやかで前向きな曲を歌っていたかというと、決してそうではなく、むしろ希望と諦めがゆらゆらと混ざり合っている印象だ。“青春”にみなぎっているイメージを抱くとスーパーカーの曲を聴いたら肩透かしを食らうかもしれないが、“夢”とか“愛”とか“友情”とか口にすること自体、抵抗がある季節こそがむしろ、“青春”なんじゃないかと思ったりする筆者にとっては、スーパーカーの青臭さはどストライクである。ドキドキワクワクする感じというよりも、ざわざわする感じのロックミュージック。たぶん、この時にしか鳴らせない音が『スリーアウトチェンジ』には真空パックされている。

アルバム『スリーアウトチェンジ』

イントロのギターのフレーズからしてキュンとくるスーパーカーのデビューシングル「cream soda」で幕を開けるアルバム。気怠いナカコーのヴォーカルとノイジーなギターサウンド、ポップなメロディーの混ざり具合が絶妙だ。続く「(Am I)confusing you?」も疾走するサウンドが何とも心地良いナンバー。《こんな僕が変われるなら 今しかないっていう気がするんだよ。》という決意ともとれる歌詞を脱力して歌っているのがいかにもスーパーカーだ。そして、重ためのリフが引っ張っていくミドルチューン「smart」では醒めた視点で今を切り取ってみせる。1stアルバムにして全19曲、CDの容量ギリギリまで曲を収録した本作はジーザス&ザ・メリーチェインやマイ・ブラッディ・バレンタインなどに影響を受けたシューゲーザー的アプローチの曲が多く、夏へと向かう今の季節にかなりはまるのではないだろうか。
個人的には新緑の中、漏れる光を見ながら、もしくは誰も泳いでいないプールの水の揺らぎをボーッと見ながらヘッドホンで聴いたら、相当、インナートリップができるのではないかと思う。スーパーカーの甘酸っぱいメロディーを際立たせるフルカワミキがヴォーカルをとるアコースティックな「DRIVE」(シングル)や、ナカコーとフルカワのツインヴォーカルがなぜか学校の校舎を思わせる「Lucky」(シングル)はひときわキャッチーでアルバムの中にふわっとした風を吹かせてくれる。パンキッシュなサウンドと抜けるメロディーが混ざり合う高揚感に持っていかれる「My Way」、スーパーカーの音像をそのままにストリングスを取り入れた名曲と評価の高いミドルバラード「PLANET」、《笑いたいときに笑えないし、眠りたいときに眠れないよ。》と悩ましい日々を生き生きとした言葉で綴ったアッパーチューン「Hello」などセンスが光る曲が多く、アルバムの最後は描いた夢は浮かんでは消えていくと歌う12分超えの「TRIP NOTE」で締められ、まるで夢から覚めるようにプツッと音が途切れる。10代にしてこんなにみずみずしく荒削りながら冴えた曲たちを生み出した彼らが同じところにとどまらず、この後、シフトチェンジしていくのは当然のことだったのかもしれない。

著者:山本弘子

OKMusic編集部

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