及川光博はなぜ歌手と俳優の
二刀流を選んだのか?
『嘘とロマン』に見る
“ヤング・ミッチー”の潔さ

『嘘とロマン』('98)/及川光博

『嘘とロマン』('98)/及川光博

今年アーティストデビュー25周年を迎えた及川光博。俳優としてはTBS系ドラマ『日曜劇場 ドラゴン桜』に出演中の上、4月からは(一部公演が中止になったものの)歌手として『及川光博ワンマンショーツアー2021『SOUL TRAVELER』』が進行中。また、デビュー日である5月29日には、本人セレクトのベスト盤『XXV』と、カバーベストアルバム『COVERS ONLY』、スペシャル写真集などがセットになった、25周年アニバーサリーBOX『XXV(ヴァンサンカン)』がリリースと、周年記念に相応しい盛り上がりを見せている。当コラムではそんなミッチーの歌手としての側面にスポットを当ててみた。

ヒット連発の名バイプレイヤー

歌手と俳優の二刀流と言えば、沢田研二、吉川晃司、福山雅治、星野 源、最近では菅田将暉、桐谷健太、北村匠海らの名前が挙がるだろうか。筆者としてはそこに何ら躊躇なく、及川光博(以下ミッチー)を加えたいところだが、世間的な認知はどうだろうかとふと気になって、“及川光博”でニュース検索してみた。すると、さまざまな記事がヒットする中で、“歌手で俳優の及川光博が~”や“今年アーティストデビュー25周年を迎えた及川は~”といった真っ当な形容もあるにはあったが、“俳優の及川光博が~”で始まっているものや、“及川は1996年に歌手デビューしており~”などと、あたかもミッチーは役者のついでに歌手をやっているような紹介もあった。

まぁ、それを何だか失礼なことのように感じてしまうのはデビュー当時のミッチーを知っているからで、ここ10年間、役者での当たり役が多かったミッチーなので、冷静に考えてみると、歌手としての活動を知らない人がいるのも、むべなるかなとは思う。直近で言えば、『ドラゴン桜 第2シリーズ』の教頭役だろうし、何と言っても『半沢直樹』で演じた、主人公の友人、渡真利忍役の印象を強く持っている人も多いことだろう。『グランメゾン東京』でのキムタクをバックアップするシェフ役も記憶に新しいところだ。また、やや古くはなるけれども、『相棒』での神戸尊も決して忘れることができないキャラクターである。とりわけTBS系ドラマ『日曜劇場』のヒット作で2番手の登場人物となっていることが多いことから、“ミスター日曜劇場”と呼ぶメディアもあるようで、もはやミッチーはテレビドラマにおける名バイプレイヤーと言っても過言ではないようだ。それはそれで正しい認識だし、ミッチーの成功の証しであり、喜ばしいところではある。

だけれども…だ。やはり歌手としてのミッチーも多くの人に知ってほしい。というか、知らないのはもったいないと思う。歌手としてのミッチーには、明らかに役者とは異なる、シンガーでしか発揮されない魅力がある。逆に言えば。シンガーからしか感じ取ることができない魅力があるのである。もっと言うのなら、ミッチーのアーティストとしての本質をより深く味わうことができるのは“歌手・ミッチー”ではないかとすら思う。とりわけデビューしたばかりの頃の、言わば“ヤング・ミッチー”の作品は、エッジーというか、役者での当たり役からはちょっと想像しづらいキャラクターを目の当たりにできるのではなかろうか。ミッチー最大のヒットアルバム『嘘とロマン』から、その辺を探ってみよう。

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

新着