『SCHOOL GIRL DISTORTIONAL ADDICT』/NUMBER GIRL

『SCHOOL GIRL DISTORTIONAL ADDICT』/NUMBER GIRL

『SCHOOL GIRL DISTORTIONAL
ADDICT』でメジャー進出!
日本のロックを根底から覆した、
NUMBER GIRL!

今春公開された映画『ディストラクション・ベイビーズ』がソフト化。12月7日に発売されたばかりだ。今年流行ったアニメや特撮に比べれば大きく話題になった作品ではなし、それゆえにか、それほど公開館数は多くなかったものの、国内外で注目を浴びる気鋭の若手監督、真利子哲也が満を持して発表したメジャーデビュー作。バイオレンス描写の多いR-15指定なので決して万人で勧められる作品というわけではないが、柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎ら当代随一の実力派若手俳優の共演も観どころで、既存の邦画に飽き足りない思いを抱いている人には是非見てほしい傑作である。さて、読者の中には、この“ディストラクション・ベイビーズ”というタイトルを見て、「おや?」と思われた人がいるかもしれない。そう、この映画のタイトルはNUMBER GIRLの3rdシングル「DESTRUCTION BABY」からきている。さらに本作の音楽(劇伴とエンディングテーマ曲「約束」を制作)は他でもない向井秀徳が担当しているのだ。向井本人も本作に携われたことを喜んでいたようで、未見の向井秀徳ファンも必見の作品であるとも言える。というわけで、本コラムでも、向井秀徳が率いたNUMBER GIRLを振り返ってみようと思う。

彼らがいなければ
今の音楽シーンはなかった

1995年結成、99年メジャーデビューのNUMBER GIRLが、後の日本ロックシーンに与えた影響は計り知れない。何がどう計り知れないのか? それについては、あれこれ説明するよりは、14年に彼らのデビュー15周年を記念して未発売・発掘LIVE映像集がソフト化、及び過去のDVD作品4タイトルがBlu-ray化された時の特設サイトでの“著名人の皆様からのコメント”を見てもらうのが手っ取り早いと思う。後藤正文 (ASIAN KUNG-FU GENERATION)、宮藤官九郎、椎名林檎、小出祐介(Base Ball Bear)、岸田繁(くるり)、ホリエアツシ(ストレイテナー)、TK(凛として時雨)等々、そうそうたるアーティストが寄稿している。もし彼らのうち、1~2人でも世に出ていなかったら間違いなく音楽シーンは今とはその容姿が違っていたであろう人たちばかりだ。そんな彼らが何も憚ることなくNUMBER GIRLを絶賛し、その影響を公言しているのだから、それだけでもその偉大さが分かろうというものだろう。

個人的には、今冬、取材させてもらった“そこに鳴る”の楽曲が印象に残っている。今年3月に発表した彼らの2ndEP『YAMINABE』に「少女の音色に導かれ」という楽曲があり、そこに《諸行無常の音色を 冷凍都市に投げ捨てろ》や《「少女」って言っていいのは向井秀徳だけ》といった歌詞が乗っていて結構驚いた。そこに鳴るは11年結成と未だ若いバンドだが、NUMBER GIRLはそんな彼らが仰ぎ見るような存在であり、すでに伝説化しているバンドと言っていい。

聴けば必ず分かる音像のすごさ

さて、NUMBER GIRLのどこがどうすごいのか? それは彼らの音楽を聴いてもらえれば分かる。必ず分かる。そう断言できる。「音楽コラムで“聴いてもらえれば分かる”とは何事だ、コラ!?」とのご指摘もあろうが、こればかりはそうだから仕方がない。そうとしか説明しようがないのである。優れたアート作品の多くがそうであるように、言葉での説明が極めて困難だ。そりゃあ、〈ピクシーズなどのオルタナティヴ・ロックの影響を受けた、いわゆるギターロックの系譜にあり〉云々との説明はできるだろう(〈〉はウイキペディアからの引用)。だが、それは彼らの音楽的なルーツであり、結成から解散まで変遷していったそのサウンドの説明においてはあまり意味を成しているとは思えない。

例えば、The Beatlesの「A Hard Day's Night」のイントロ。あのコード一発の音は、“G7sus4”だとか、“Fadd9”だとか、“A dominant 9th of F in the key of C”だとか言われている(最後のなんてもはやコードであるか何なのかもよく分からない)。そうした謎もThe Beatlesの魅力であることは否定しないが、「A Hard Day's Night」で語るべきは、あの♪ジャーン♪という音が与えてくれる、どこか不思議な世界に誘われるかのような高揚感であって、それを受け取ることが全てであろうし、この説明すら蛇足も蛇足、大蛇足であろう。…とはいえ、当コーナーは音楽コラム故に、そう大上段に構えて終わるわけにもいかないので、以下、NUMBER GIRLの音源を解説をしていくが、ここまで長々と述べたことを踏まえて読んでいただけると幸いである。
NUMBER GIRLがその7年の活動の間に残したアルバムは6枚(2枚はライヴアルバムで、そのうちの1枚は解散後の発表)。ライヴ盤を含めて、いずれも彼らならではの傑作揃いであり、どれを聴いてもNUMBER GIRLを堪能できることは間違いない。大差はない。ゆえに“これ1枚!”となると、かなり意見が分かれるところだろうが、ここはメジャーデビュー作『SCHOOL GIRL DISTORTIONAL ADDICT』でキメよう。このアルバム、オープニングのM1「タッチ」からグイグイと楽曲を引っ張るリズム隊にノイジーなギターが合わさったバンドの本領が大爆裂しているのだが、楽曲の頭に入るアヒト・イナザワ(Dr)のカウントからしてイッちゃってる。“カウント”と言うとドラムスティックを叩き、「1、2、3!」とかいう辺りが相場だが、彼の場合、「殺、伐!」である(多分そう言っている)。開始1~2秒でいきなりやられる。この人たち、普通じゃない。そこから剥き出しのバンドサウンドが洪水のように押し寄せる。ヴォーカルを含めて金属音を強調したような尋常ならざる音世界。M4「YOUNG GIRL SEVENTEEN SEXUALLY KNOWING」で若干テンポは落ちるが、M10「EIGHT BEATER」まで全10曲、収録時間35分28秒、NUMBER GIRLとしか言いようがない音像が駆け抜けていく。それまで勝手にロックと思い込んでいたものが実は全然ロックではなかったような価値観の瓦解。そして、改めて再構築されていくかのような高ぶりがある。問答無用にカッコ良い。

OKMusic編集部

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