これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!

これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!

De+LAXの名盤『NEUROMANCER』は
サイバーパンクを注入した
80年代の傑作

『NEUROMANCER』(’89)/De+LAX

『NEUROMANCER』(’89)/De+LAX

今年2月、かつてのホームグラウンドでもあった新宿LOFTにてメジャーデビュー30周年記念ライヴを開催したDe-LAX。今週はその代表作のひとつと言える『NEUROMANCER』を紹介する。世紀末に近い1989年、邦楽シーンではいち早くSFのサブジャンルである“サイバーパンク”を取り入れることで、独自の世界観を提示した傑作であり、発売から約30年を経た今でも、De-LAXというバンドの秀でた才能を示す名盤である。

“サイバーパンク”の邦楽への影響

ウィリアム・ギブスンの小説『ニューロマンサー』の映画化が報じられたり、士郎正宗の漫画『攻殻機動隊』原作のハリウッド版映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』、そして世界的なカルトSF映画『ブレードランナー』の続編『ブレードランナー 2049』が公開されたりと、昨年の映画界は何気に“サイバーパンク”がクローズアップされた年であった気もする。本稿は音楽コラムゆえにその詳しい説明や、それが映画史にどんな影響を与えたのかはここでは割愛するが、“サイバーパンク”は日本の音楽にも少なからず影響を与えているので、そこだけは少し記しておこう。

有名なところはBUCK-TICKの「疾風のブレードランナー」(アルバム『極東 I LOVE YOU』収録)。タイトルからしてモロであるが、歌詞も映画作品へのオマージュを感じさせるもので影響は明らかだ。また、BUCK-TICKが2003年に発表したアルバム『Mona Lisa OVERDRIVE』はギブスンの小説と同名。その小説『モナリザ・オーヴァドライヴ』は、『ニューロマンサー』とその続編である『カウント・ゼロ』と合わせて、“電脳三部作”や“スプロール・シリーズ”と言われる作品のひとつであり、リリース当時、今井寿は直接的な関係はないと言及していたが、何かしらインスピレーションを受けていたのは間違いなかろう。

ギブスン関連ではGLAYの「neuromancer」(シングル「a Boy〜ずっと忘れない〜」C/W)があるし、最近の作品ではサニーデイ・サービスが昨年発表したアルバム『Popcorn Ballads』に収録された「すべての若き動物たち」は『ニューロマンサー』にインスパイアされたものだと曽我部恵一が公言している。映画『ブレードランナー』絡みは豊富だ。布袋寅泰の「レプリカント」(アルバム『AMBIVALENT』収録)、松任谷由実の「今すぐレイチェル」(アルバム『Road Show』収録)をはじめ、いろいろとあるが、この辺はさすがに映画評論家の町山智浩氏が詳しいので、興味を持った方は一度“ブレードランナー歌謡祭”で検索してみることをおすすめしたい。

かように、言わば“サイバーパンク”ロック、“サイバーパンク”ポップはいろいろとあるのだが(そんなジャンルはないよ。念のため、言っておきますが…)、ここでは1989年に発表されたDe-LAXの2ndアルバム『NEUROMANCER』に白羽の矢を立てた。上記の他の作品に先んじて“サイバーパンク”を意識させた作品であり(1986年に『ニューロマンサー』日本語訳版が出た約3年後)、大胆にタイトルを拝借しているところに今も何か漲るものがうかがえる。

De-LAX周りは第二次バンドブームの縮図

De-LAXは1980年代前半に活躍したポストパンクバンド、ALLERGYの宙也(Vo)が中心となり、ALLERGY解散後の1985年に結成されたバンドである。メンバーは宙也、鈴木正美(Ba)、京極輝男(Key&Per)に、PERSONZの本田毅(Gu)、戸川純とヤプーズ(現:ヤプーズ)の小滝満(Key)を加えた5人でスタートした(当初、京極輝男はドラマーとして参加していた)。しかし、時は折しも第二次バンドブームの初期。1985年にはレベッカのアルバム『REBECCA IV 〜Maybe Tomorrow〜』がミリオンセールスを記録し、1986年はBOØWY(ボウイ)がアルバム『JUST A HERO』と『BEAT EMOTION』を発表して大ブレイクを果たしている。

そんな中でバンドシーンがにわかに沸き立っていたのは間違いなく、まずPERSONZとの両立が困難になった本田が脱退(PERSONZは1987年にメジャーデビュー)。小滝も戸川純&ヤプーズに専念するために脱退と、メンバーチェンジを余儀なくされる。そこで、レベッカでもギターを弾いていた友森昭一や、ローザ・ルクセンブルグの玉城宏志、現在GLAYや氷室京介のサポートドラマーでもある永井利光らがサポートしつつ、1988年、榊原秀樹(Gu)と、解散したBOØWYの高橋まこと(Dr)とが加わり、のちに“黄金期”と言われるメンバーが揃うこととなった。PERSONZ、ヤプーズ、レベッカ、ローザ・ルクセンブルグ、そしてBOØWY。こうして眺めてみると、De-LAX周りは第二次バンドブーム初期の縮図のようである。そこに何かしらの磁場が発生していたのであろうか。

ちなみにDe-LAXの結成は1985年であるが、今年2月に行なったライヴを『De-LAX 30th Anniversary』と銘打っていたことからしても、榊原、高橋が加わった1988年がバンドの起点であるようだ。実際、同年8月、1stアルバム『SENSATION』でメジャーデビューを果たしたDe-LAXは、以後ツアーの規模も大きくなっていき、翌年の1989年12月にはバンド初の日本武道館公演を決行。それが2ndアルバム『NEUROMANCER』のレコ発ツアー『De-LAX NEUROMANCER '89 “SPIRITS A GO-GO”』においてのことである。

時代を先取りもしていたSF的世界観

では、ここからはその2ndアルバム『NEUROMANCER』について記していこう。このタイトルを付けただけあって、さすがに歌詞はSF調だ。

《時空を忘れて 視線、釘づけ 頭に残る 乾いた夢/プラスチックの街を蹴飛ばし 酔いどれ天使とあ・い・び・き/T.V. NOISE ネオンの海に溺れてないで》《出会った日から 毎晩のように 離れられない 夢のつづき/セロファンの肌 魔性の泡 月夜に波打つ ま・ぼ・ろ・し/シミュレーション 電飾の罠に 巻き込まれるなよ》(M4「CYBERSEX」)

《世界のまん中/崩れ落ちてゆく廃墟へ/会いに行けるはず/運命のドラマの果てまで》《モノクロの空に広がる/螺旋の夢をかかえ/敵を知る/足元には/めぐりまわる空間(スペース)/とびだせ》《サーチライトに浮かぶ/宙吊りにされた/神が見える/振り返れば/凍りついた街/捨て去れ》《We can run for D.X. Star/自分の中の武器をもって逃げ出せ/We can run for D.X. Star/果てしない旅/今 始まる/Neuromancer》(M8「NEUROMANCER」)。

《地球に落ちたアンドロイド/光の街で錆びついた身体/いやした夜》《追い詰められたレプリカント/宇宙すべての誘惑を込めて/引っ掻き回せ》《STOP!! ミサイル発射/STOP!! 飛行機雲が/STOP!! 火の玉に変わる/STOP!! 頭の上は/STOP!! 雲ひとつない/STOP!! ジェット機が回る/STOP!! 地球が、あ・ぶ・な・い》(M11「CRISIS’99」)。

アンドロイドやレプリカントといった言葉の他にも《T.V. NOISE ネオンの海に溺れてないで》や《めぐりまわる空間(スペース)/とびだせ》、《サーチライトに浮かぶ》など、ギブスンの小説や映画『ブレードランナー』を彷彿させる情景が並んでいる。M8「NEUROMANCER」の“D.X.”とはデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略だろうか。だとすると、相当、時代を先取りしていたことになり、宙也、恐るべしである。

そのごった煮感覚はまさに
“サイバーパンク”

メロディーは…というと、正調なるビートロック──誤解を恐れずに言えば、正調な80年代ロックという印象だ。具体名は挙げないが、これもまた第二次バンドブーム初期の縮図のようでもある。サビの歌メロ、そしてイントロのギターリフがキャッチー。構成は概ねA→B→A→B→サビで、今のJ-POPの礎とも言える。M2「MAYBE SUNDAY」、M8「NEUROMANCER」、M9「BABY BABYLON」辺りはその特徴が強く出ている印象で、メロディーや構成は00年代以降のパンク好きやV系ファンにも十分に受け入れられるものだと思うし、第二次バンドブームを体験したリスナーなら自然と身体を揺らすものであろう。アガる音楽と言っていいと思う。さらに付け加えれば、M12「DAYDREAM」が顕著であるが、サビで歌メロとギターが拮抗するような箇所を随所で聴くことができるのもポイント。この辺も、多くのバンドがヴォーカルとギターとでツートップを成していた第二次バンドブーム初期ならではのことで、大袈裟に言えば、バンドの矜持であろう。

メロディーは正調なるビートロックと書いたが、サウンドはビートロック一辺倒かというとそうでもない。軽快なブラス入りのスカナンバーM3「HAPPY JAP」。ギターはスカ系だが、こちらはブラストビートで引っ張るM4「CYBERSEX」。そして、M6「TREASURE LAND-駱駝の夢-」ではスティールパンも入ったレゲエを聴くことができ、案外と…と言っては変だが、バラエティー豊かだ。ただ、とはいえ、ジャマイカンなそれかと言うと、それもそうではなく、The Clashの『London Calling』に近いスタンスと言えばいいだろうか。M11「CRISIS’99」が分かりやすいのだが、ギターはスカスタイルでタンバリンが印象的なダンサブルな楽曲だが、基本はパンクである。もっと言えば、基本の基本はR&R。M5「TEENAGE WILD」やM7「SUPERCADILLAC」が典型だろうが、かなりベーシックなタイプのロックバンド像が見え隠れしている。のちに榊原と高橋らで結成したGEENAはR&R色が濃く出ていた印象もあるので、この辺りはギターとドラムスのスタイルが反映されていたのかもしれない。これもまたDe+Laxの特徴と言えるだろう。

その辺りと関係しているのかもしれないが、The Beatlesへのオマージュも隠さない。M7「SUPERCADILLAC」後半のコーラス(?)は「Drive My Car」からの引用だし、M10「LONE WOLF」には《まわりを気にするのはやめた/手に入れたTICKET TO RIDE》《天国がベッドの上にあっても/外ではA HARD DAYS NIGHT》なんて歌詞もある。つまり、『NEUROMANCER』、あるいはDe+LAXを因数分解すると、歌詞はSF調、メロディーは80’SのJ-ROCK、そしてそのサウンドはバラエティー豊かながら基本はベーシックなR&Rとなるのだが、それらのごった煮感覚はまさに“サイバーパンク”的と言える。

《踊りだしたら止まらないぜ/星条旗の鼻歌にあわせ/天のお告げをただ待っているだけ》《誰のためだか 3%/頭に来るぜ 灰色 TAX MAN/いつの間にやら吸い取らちまうぜ》《摩訶不思議な伝統/謎ばかりのナショナリズム/忘れた頃に気安く顔を出す》(M3 「HAPPY JAP」)。

3%から8%へと数字は変わったが、その歌詞が指摘している内容は恐ろしいほどに変わっていない。そんな1989年から見た近未来社会(つまり現代)の退廃感と併せて考えると、『NEUROMANCER』は30年を経た今、再評価されなければならない名盤と言っていいはずだ。

TEXT:帆苅智之

アルバム『NEUROMANCER』1989年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. SPIRITS A GO-GO
    • 2. MAYBE SUNDAY
    • 3. HAPPY JAP
    • 4. CYBERSEX
    • 5. TEENAGE WILD
    • 6. TREASURE LAND-駱駝の夢-
    • 7. SUPERCADILLAC
    • 8. NEUROMANCER
    • 9. BABY BABYLON
    • 10. LONE WOLF
    • 11. CRISIS’99
    • 12. DAYDREAM
『NEUROMANCER』(’89)/De+LAX

OKMusic編集部

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