THE BLUE HEARTSのデビュー作
『THE BLUE HEARTS』は
リスナーの人生を変えてしまうような
力を持ったアルバムだ
世界を変えるような音楽は多分ないが、聴く人の世界観や価値観を変えてくれる音楽は確実に存在する。このアルバム『THE BLUE HEARTS』もそのひとつだ。リリース以来、多くのリスナーに勇気を与え、その背中を押してきたに違いない。日本のロックの金字塔。名盤中の名盤である。
衝撃だったTHE BLUE HEARTSの登場
1987年、東京都内某私鉄沿線の学生街。今はほとんど見なくなったが、学生街には1ゲーム50円のゲームセンターが必ずあり、筆者もご多分に漏れずよくゲーセンで遊んでいた。この10年も前なら不良の溜まり場にもなっていただろうゲーセンだが、当時はそんなことはまったくなく、すでにオタク化したゲーマーも少なくなかったと思うし、当然高校生も多かった。ある日、人気のゲームをプレイしていた私の隣の席にイヤホンをした学生服姿の高校生が座り、さらにその友だちが数名、彼を取り囲むように座った。彼らの髪の色は黒、髪型も極めて普通、学生服も標準タイプ。どこにでもいるような高校生たちであったが、その中のひとりがイヤホンをした子に向かって尋ねた。「何聴いてんの?」「THE BLUE HEARTS」「今度貸してよ」「いいよ」──そんな会話だった。今となっては驚くことは何もない、それこそ何気ない会話だが、筆者にとっては日本のロックシーンの潮目が確実に変わったことを実感させられた瞬間だった。
そもそも初期パンクはR&Rへのカウンターカルチャーでもあった節があるし、日本のパンクがその精神を受け継いでいたとすれば汎用性は低くて当然。一般層が好んで聴くことはないだろうと思っていた。そんなところに現れた、《吐き気がするだろ みんな嫌いだろ まじめに考えた まじめに考えた 僕 パンク・ロックが好きだ 中途ハンパな気持ちじゃなくて 本当に心から好きなんだ 僕 パンク・ロックが好きだ》(「パンク・ロック」)と歌うTHE BLUE HEARTSは衝撃的ではあった。正直言えば当初は相当稀有なバンドに感じられたし、もっと言えば、自分の中では違和感すらあった。これをそれまでのパンクロックとして語るには整合性が取れなかったのだ。それだけTHE BLUE HEARTSの個性は突出していたとも言える。それでも1stアルバム『THE BLUE HEARTS』はよく聴いた。いつも大音量で聴いていた記憶がある。違和感は拭えなかったものの、理屈抜きにその魅力を感じていたということだろう。
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