細野晴臣が
狭山市の自宅でのレコーディングで、
アメリカの空気を創造した
『HOSONO HOUSE』

『HOSONO HOUSE』('73)/細野晴臣
レコーディング環境の重要性
まず、音の件。概ね米国のロスアンゼルスとか西海岸は湿度が日本とは違うと聞いた。物理化学的なことは門外漢なので、あくまでも覚えている範囲の伝聞を述べると、カラッとしている分、高音がスッキリ聴こえるという。アコギの響きがいいという話も聞いた。それはそのスタジオにあった楽器が良かったということもあっただろうけど、湿度が違えばアコギのボディの湿気も違うだろうし、響きも変わってくるのも当然だろう。あと、電気の周波数のせいか、アンプから出る音が違うという話を聞いた記憶もある。今調べたら、日本は東が50 Hzで西が60Hz、欧州が50 Hzで北米が60Hzだそうだから、多分、周波数は関係ない。それは単なる勘違いだろうが、もしかするとそこにも湿度の違いがあったのかもしれない。当時取材したアーティストの返答を思い出すと、海外レコーディングでの音の違いは間違いないようではある。そうは言っても、日本と海外とでまったく同じ状態で録ったものを聴き比べたわけではないので、実際に何がどう違うのかを実感したわけではないのだけれど、大満足しているミュージシャンが多かったところを見ると間違いないようだ。
響きの違いもさることながら、旅行気分(そう言うと若干語弊があるけれど…)が海外レコーディングの利点である話もよく聞いた。リラックスできるのだという。異国に居るという開放感もあるだろう。日本、とりわけ東京都内のスタジオでやっていると、レコーディングが上手く進まずにストレスが溜まったとしても、それを発散できる場所が限られる。ストレスを抱えながら毎日会社に通うビジネスマンとそう変わらない。それでもいい演奏、歌唱ができれば問題ないわけだが、それは稀だろう。会社での長時間の会議のしらけた空気感を知っている会社員ならそこには共感してもらえるのではなかろうか。日常と日本の喧噪から離れた土地で、落ち着いた精神状態で作業に没頭できる。仮に作業が煮詰まっても、スタジオの外に出れば異国情緒がストレスを癒してくれる(らしい)。それは確実にプレイにいい影響を与えるようだ。
あと、コストの問題もあったとか。当時は渡航費や現地スタッフのギャラなどの諸々を含めた海外でのレコーディング費用は、日本の有名スタジオを何週間か借りた時の金額に比べても安かったという話も聞いた。今は円安でその状況も大分変わったのだろう。