奥田民生と
SPARKS GO GOのロック熱が注がれた
『THE BAND HAS NO NAME』

『THE BAND HAS NO NAME』('90)/THE BAND HAS NO NAME
ロックの王道を堂々と闊歩
オープニングはM1「Something Wild」。Led Zeppelinによる「Born to Be Wild」のカバーか、はたまたSteppenwolfが「Rock and Roll」をカバーしたのか──そう評すのもどうかと思うけれど、この疾走感とヘヴィなギターサウンドは古今東西ロックの王道、そのど真ん中を堂々と闊歩しているかのように感じられる。ZEP 風のリフであることも、「Born to Be Wild」っぽいキメがあることも承知してやっているはずで、それを指摘したところで、当のメンバーは“カッコ良いでしょ?”くらいの感じだったであろう。こういう音を鳴らすのが楽しくて仕方がなかった様子が伝わってくる。決して複雑な構成ではないものの、メンバーそれぞれにちょいちょい個性的なフレーズを差し込んでいる。個人的には後半はここまで長くなくてもいいような気がしなくもないけれど、ライヴにも近い感覚でアンサンブルを引っ張っているように思う。その辺りからも、バンドで演奏すること自体の楽しさを感じることができる。それは、いい意味でのアマチュアイズムと言い換えることもできようか。
《部屋のスミで時を数える/いつか聞いた言葉浮かぶ/夜が来るのを視線落として/ハナ歌まじりでじっと待ってる》《疲れた体は答えてはくれない/目を閉じて見たものは何物か》《言葉も吐かずに/張り裂けたガラス/隠した姿を/さらけ出す》(M1「Something Wild」)。
歌詞はこんな感じで、景気のいいロックサウンドに相反するかのような、だいぶ内向的な内容である。歌詞とサウンドの対位法と言えなくもないけれど、この時期のこのバンドならでは…と感じるところでもあって、その辺は後述したいと思う。
M2「Rain Song」はM1から一転、気怠い感じのテンポとコード感で始まる。ややルーズと言ってもいいだろうか。ざらついたギターサウンドがワイルドかつ渋めに鳴っていて、M1とはタイプが異なるが、これもまた紛うことなきロックである。八熊慎一(Ba&Vo)のハスキーな声も音に合っている。そうかと思えば、サビでテンポアップして開放的に展開。パンク的でもあるし、モッズ的とも言える。これもまたロックであろう。歌詞もストレートにロックを感じさせるものだ。
《フラフラしてたら吸い込まれ 巻き込まれ/気づいたあげくにゃボロボロにされて》《抜け目の無いヤツにゃ ケツすくわれて/届いた答えは真白な気分さ》《雨がふればすべての事を/洗い流してくれる wow wow.../汚れた静けさ荒んだざわめき/洗い流してくれる wow wow...》(M2「Rain Song」)。
言葉遣いに薄っすらと反骨心が感じられるところにロックっぽさがあるように思うし、雨の使い方もちょっと面白い。
M3「Mistake」は本作中唯一の奥田民生作曲のナンバーで、民生好きのみならず、彼らしさを感じるところではないだろうか。イントロのドラムとベースからしてファンならニヤリとするだろうし、Aメロ、Bメロからサビへのつながり、サビでのコード感等々、随所随所で“ザ・民生”な感触がある。柔らかいと受け取るか、渋いと受け取るか、気怠いと受け取るかは聴き手それぞれだろうが、大衆感がありつつ、単に耳障りがいいだけのポップさに終始していないところに非凡さがあるように思う。ロックバンドならではのダイナミズムがあることは言うまでもない。歌詞が《締めつけられる mistake 消えない》と締め括られているのは“やはり”と言うべきで、ここも注目ポイントとなろう。端的に言えば、適度に後ろ向きなのはこのバンドの味なのであろう。
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