西川貴教の潜在能力の高さこそが
T.M.Revolutionの
核であることが分かる
傑作アルバム『triple joker』

『triple joker』('98)/T.M.Revolution

『triple joker』('98)/T.M.Revolution

9月19日は西川貴教の誕生日であり(祝!50歳!)、今年はコロナ禍で初のオンライン開催を余儀なくされたものの、同日13時から『イナズマロックフェス 2020』が行なわれるということで、今回はT.M.Revolutionの名盤をピックアップ! 1998年にリリースされ、自身初のチャート1位となり。ミリオンヒットとなった3rdアルバム『triple joker』を取り上げる。聴けば聴くほど実によくできたアルバムで、この音楽ユニットの本質と、西川貴教のアーティストとしての才能を如何なく示した傑作である。

J-ROCK最高のポップアイコン?

先日、お笑い番組を観ていたら、とある芸人さん(※確かタイムマシーン3号だったと記憶していますが、間違っていたらごめんなさい)が、T.M.Revolution(※以下T.M.R)をネタにしていた。恰幅が良かったので、タイムマシーン3号だったらたぶん関さんであったと思うが、“HOT LIMITスーツ”(※太めの黒ガムテープを身体に巻き付けたようなアレ)に身を包んだ彼が、他の芸人さんたちが手に持ったドライヤーで風を当てられ続ける──そんなネタだった。何を歌っていたのか忘れたけど、その出で立ちからすれば、「HOT LIMIT」であったであろう。「HOT LIMIT」のリリースは1998年なのでで、このネタが面白いか面白くないかと言ったら、正直言って微妙なところではあると思ったのだけれども(※個人の感想です)、わりとウケていたような気はする。そこでハタっと考えた。おおよそ4半世紀も前のMVをお笑いのネタにされるロックアーティストってT.M.R以外にいるだろうか、と。モノマネされるアーティストは多い。最近だと山下達郎一本でモノマネをやられている芸人さんもいらっしゃるし、米津玄師の歌唱を真似る方も何人からおられるようだし、モノマネされるアーティストは枚挙に暇がない。だが、T.M.Rのように、その歌唱を真似されるというのではなく、その演出をネタにされるアーティストは極めて稀ではないだろうか。少し考えてみても、彼の他にはちょっと思い浮かばない。

そんなわけで「HOT LIMIT」のMVを観返してみた。[赤い星形のステージが設置された海上で風を受けて踊るというもの]で、客観的に見れば至って真面目でシャープなMVである(※[]はWikipediaからの引用)。大型扇風機が映っていて、西川貴教の髪をなびかせているのはそいつの仕業であることが分かるなど、いわゆる裏方のスタッフも完全に見切れていて(※あそこまでくると、見切れるというのではなく、わざと映しているのだろうけど)、MVの撮影風景も分かる作りだが、別段、ギャグ要素はない。自分はその方面の関係者でもないので実際のところはどうだか分からないけれども、芸人さんが参考にするようなものではなかろう。それなのに、件のように今でも「HOT LIMIT」のMVがネタにされるというのは──もっと言えば、“風を受けながら歌うことがT.M.Rだ”という演者と視聴者の間での共通認識として成立するというのは(※少なくとも、その芸人さんはそう考えていたからネタにしたのだろう)、そのインパクトが相当に強かったという証左であろう。

また、それをネタにされることをT.M.Rサイドが容認したことも、今も“風を受けながら歌うことがT.M.Rだ”と認識される大きな要因だと思われる。いや、容認どころではない。それはほとんど煽りと言っていいと思う。そもそも風を受けて歌うのは「HOT LIMIT」に始まった話ではなく、5th「HIGH PRESSURE」と6th「WHITE BREATH」(共に1997年)から続いた演出で、むしろ「HOT LIMIT」はセルフパロディー的だったと言える。さらに、2016年に発表したデビュー20周年記念のオールタイムベストアルバム『2020 - T.M.Revolution ALL TIME BEST-』のジャケ写は、“HOT LIMITスーツ”を着た人物の顔を風で飛んできた新聞紙が覆っているという代物で、顔は写っていないけれど、それがT.M.Rであることが分かるデザインが施されている。悪ノリと言えばそうかもしれないが、徹底したその姿勢には感服するばかりである。

西川を支える最重要トリニティー

その姿勢に脱帽したところでT.M.Rのアルバム『triple joker』を聴いてみると、作品作りにおいても──当然と言えば当然だが──かなり徹底的にやっていたことがよく分かる。それは、西川貴教本人の取り組み方が真摯であったことを大前提として、それと同時に彼のポテンシャルを最大限に引き出したスタッフワークのすごさも目の当たりにできるものである。裏に表に数多くのスタッフがT.M.Rを作り上げ、支えていたのだろうから、それはこれまた枚挙に暇がなく、ここで全て取り上げることは困難だが、その中からこと楽曲制作での重要人物を挙げるとすると、浅倉大介、井上秋緒、葛城哲哉の3人で間違いなかろう。T.M.Rは西川貴教の単なるソロワークではなく、彼がフロントを務めるプロジェクトである。そのプロジェクトにおいてこの3人は最重要トリニティーと言っても過言ではないと思う。アルバム『triple joker』はそれが手に取るように分かる作品でもある。

まずは、全楽曲で作曲、編曲を手掛ける浅倉大介のすごさである。彼はT.M.R以前に貴水博之とのユニット、accessでシーンを席巻し、1994年にはアルバムをチャート1位に叩き込んだアーティストであるからして、改めて言うまでもないのだが、『triple joker』ではそのヒットメイカーの手腕を如何なく見せつけている。“捨て曲がない”とはよく言われることだが、ほんと本作もそうで、“よくもまぁ、これだけキャッチーなメロディーを書けるなぁ”と思うほどである。M3「WHITE BREATH -MORE FREEZE MIX-」、M6「LEVEL 4 -LEVEL→V MIX-」、M11「HIGH PRESSURE -MORE HEAT MIX-」といった本作発売時点で既発のシングルナンバー以外もメロが立ったものばかりで、のちにM1「蒼い霹靂」がシングルカットされたというのも十分にうなずけるところである。アルバムのオープニングナンバーがリカットされることもなくはなかろうが、それほど多い事例ではないことであるからして、M1「蒼い霹靂」の事例からも『triple joker』収録曲のメロディーが際立っていることが分かるというものではなかろうか。

アップチューンだけでなく、M4「O.L」、M7「Slight faith」、M10「Twinkle Million Rendezvous」といったミッドナンバーもメロディアスだ。こうなると徹底している…というよりも、これは浅倉大介の資質とも言えるのだろうが、繰り返し聴いていくと、T.M.Rにおける特徴も見えて来る。その旋律にはどこか憂いを秘めた印象のものが少なくない。M9「Joker -G CODE MIX-」が顕著で最も分かりやすいと思うが、M3「WHITE BREATH -MORE FREEZE MIX-」、M6「LEVEL 4 -LEVEL→V MIX-」にしてもそうした面が垣間見える。それこそ「HOT LIMIT」のMVのイメージもあるのだろうが、T.M.Rと言えば、カラッと明るくて、誤解を恐れずに言えば、享楽的な楽曲こそが彼の魅力と勝手に思い込んでいたところがあったけれども(※そうした部分があることも事実であろうが)、そこに覆われたシリアストーンも重要なファクターであることにも気づくのである。それも『triple joker』というアルバムの特徴ではなかろうか。M11「HIGH PRESSURE -MORE HEAT MIX-」がラス前(※というか、M12「JUST A JOKE」がインストなので実質的にラスト)に置かれ、その前がM10「Twinkle Million Rendezvous」なので、M11はどこかライヴコンサートにおけるアンコール曲のような雰囲気があるが、それもそれ以前の楽曲でシリアストーンが感じられるからだろう。

続いて、井上秋緒が手掛ける歌詞について記そう。ファンならずともご存知の方は多いとは思うが、T.M.Rは個性的である。とは言っても、T.M.R以降にはさらに個性的な歌詞を持つ楽曲も生まれてきたので(※ORANGE RANGEなどがそれに当たるだろうか)、今となってはそれほど驚くものではないかもしれないけれど、口語体でかなり砕けた印象の歌詞は当時なかなか興味深くはある。気になったものを以下にいくつかピックアップしてみる。

《凍えそうな 季節に君は/愛を どーこー云うの?/そんなん どーだっていいから/冬のせいにして 暖め合おう》《こんな寒い 時代に僕が/何を どーこーできる?/そんなん どーだっていいよと/云えない君と 淋しさ舐め合うけど》(M3「WHITE BREATH -MORE FREEZE MIX-」)。

《最終電車を見送って 3割増のタクシー/寂しいのは僕より サイフの中身の方かも/「一言 今日多すぎたかな?」/パジャマでうなだれる/「もうちょっと 気を遣っておけば…」/タラレバだけ 繰り返し》《「ビデオの予約忘れてたっ!」/「ここなんで シミ付いてんの?」/「あ~っ!また ウチの犬逃げてるっ!」/真夜中はチョ~忙しい》(M5「MID-NITE WARRIORS」)。

《チカラもナイお金もナイ/ナイナイばっかでキリがない 現状はそんなんで/どうせなら街くらい 綺麗な子と歩きたい/気が付いただけだ》《まるで相手にされてない 痛みがまた刺激だよ》《快楽も 知ってしまえば/ちょっとやそっとじゃ 満たせなくなるよ/ハーレムを作りたいとか/そーいや昔 思ってたっけな》(M6「LEVEL 4 -LEVEL→V MIX-」)。

《カラダを夏にシテ カゲキに さあ行こう/夏を制する者だけが 恋を制する/もう覚悟を決めちゃって》《星の渚で ダンスをいっちょ踊るような/(笑)(カッコワライ)が、一度くらいあっても。》《ウッカリ タカノリの 期待の楽園/経験だけがものを言う 恋を制して/人生観変えちゃって》(M11「HIGH PRESSURE -MORE HEAT MIX-」)。

M5「MID-NITE WARRIORS」が顕著だが、会話文、しかもその辺にいる人が普段何気に話しているような言葉が歌詞になっている。それがラップ的なものならまだ分かるが、しっかりとメロディーに乗っているのが恐るべきところだ。井上秋緒はT.M.R以前にもaccessの楽曲などで浅倉大介とコンビを組んでいたので、この時点ではツーカーの間柄だったのだろうけれど、それにしてもお見事だ。キャッチーなメロディーに乗せた日常会話的センテンスはT.M.Rの親しみやすさに大きく寄与したことは疑うまでもない。

OKMusic編集部

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