『リハビリ中断』は分かる人には強烈
に共感できる、 Theピーズならではの
無常感が濃く出た“らしい”一枚

前回の当コラムでカステラを紹介したので、今回はそのヴォーカリストである大木知之(TOMOVSKY)の双子の兄、大木温之率いるTheピーズを紹介せねばなりますまい! Theピーズは今週末の10月29日、岩手県花巻市の花巻なはんプラザ・COMZホールにて開催される『TIKI TIKI VS TUMBLING TOUR 2016 vol.2』にLAUGHIN'NOSE、ニューロティカ、THE PRIVATESらと出演。2017年1月8日から新春ワンマン『Theピーズ「2017新春シリーズ」』をスタートさせることを発表したばかりで、相変わらず元気に活動中だ。一般的な知名度は低いかもしれないが、峯田和伸(銀杏BOYZ)や山口隆(サンボマスター)、あるいは田村亮(ロンドンブーツ1号2号)、小説家の伊坂幸太郎、映画監督の山下敦弘らがリスペクトを公言するロックバンド。そのTheピーズの本質を探ってみたい。

売れてないがシーンから消えないバンド

日本のロックシーンでTheピーズほど特異な存在はいない。何しろ、このバンド、はっきり言って売れたことがない。チャートリアクションはデビュー作のアルバム『グレイテスト・ヒッツ VOL.1』(1989年)と、3rd『マスカキザル』(90年)の28位が最高で、以降リリースした作品でチャート圏外なんてものも少なくない。正確な売上枚数は調べがつかなかったが、恐らく普通ならとっくに干されていても何ら不思議ではない規模だろう。実際、伸び悩んだ末だろう。97年のアルバム『リハビリ中断』を発表後、バンドは活動を休止。その間、バンドの中心人物、大木温之(Vo&Ba)は何と調理師免許を取得して居酒屋の店員をしていたというから、ほぼシーンから消えかけていたと言ってもいい。いや、実質フェードアウトしていた。だが、大木はしぶとかった。活動停止期間中、大木は友人のトータス松本の誘いで、ビートたけし、トータス、ユースケ・サンタマリアが参加した音楽ユニット“ぢ・大黒堂”でベースを弾いたり、真心ブラザーズのライヴサポートを務めたりと、地味ながら音楽活動を継続。01年にはベスト盤も『ブッチーメリー 1989‐1997 SELECTION SIDE A』『同 SIDE B』をリリースする。某音楽専門誌のライターさんもTheピーズの復活を誌面で強烈にアピールしていたような記憶もあるし、そうした後押しを得て、02年に正式に活動再開。現在に至っている。だからと言って、その後にブレイクしたわけではない。でも、今も活動を続けているし、フェス、イベント出演を含めて精力的にライヴ活動を展開している。このバンドの経歴は相当に稀有である。

アーティスト・大木温之特有の空気感

大木温之という人には関わった人たちが放っておけないオーラがあるようだ。それはカリスマ性とかいうことではなく(失礼)、“寄る辺ない”感じと言ったらいいだろうか(これも随分と失礼な言い方ですね…すみません)。大木には何度か取材させてもらっていて、とても人当たりがよく、友好的に受け答えしてくれるアーティストなのだが、インタビューが佳境に差し掛かり、話が精神的な部分に及ぶと、彼は決まって逡巡。長考を始める。言葉を選んでいるといった感じではなく、自分の思考が袋小路にはまっていくことに怯えているような印象で、終いには「…そうか、これはやべぇぞ」なんて呟き始める。そのうち、こちらも訊いてはいけないことを質問をしてしまった気がして、若干気まずい空気がその場を支配し始める。もう10年以上も前の話なので今は違うのだろうが、個人的にはTheピーズというとそんな取材現場を思い出す。他のメンバーが同席している時の大木はそんな素振りを見せなかったような記憶もあるので、これは大木温之単独取材特有の空気感だったのかもしれない。そこには──これも適切な表現ではない気がするので先に謝っておくが、“かまって”オーラもあった気もする。どこか小動物のような人なのであった(変な表現ばかりで本当にすみません。他意はありませんので、何卒ご容赦を)。

健全に屈折した自意識を持つ人に刺さる
歌詞

そんな彼のキャラクターはTheピーズの歌詞にも表れていると思う。“エッチ”だの“バイブレーター”だの“マスカキザル”だの“ラブホ”だの“ザーメン”だの、ろくでもないタイトルの楽曲も少なくなく、ここからも分かる通り、その内容は粗暴なものも多い。特に初期は勢いに任せたとおぼしき歌詞がほとんどのため、このバンドが一般層に受け入れられなかったことも容易に想像できる。だが、その一方で歌詞の主人公がどこかで達観しているというか、悲観しているというか、粗暴さの中にもそこはかとない無常感があるのが大木の書く歌詞の特徴だ。例えば、デビューシングル「バカになったのに」。《自堕落ばかりがもてすぎる/だったら オイラもって いい気になった/中学まではまともだった》主人公が、《さんざんムリしてバカになった/バカになったのに》と嘆く歌だ。ひと言で言えば、負け犬の遠吠えに近いものなのだが、主人公はそれを十分に自覚しているからこそ、情けなさが際立っている。《バカになったのに》で止めているのも何とも味わい深い。昔、「バカになったのに」をして、「どういう意味? 何でムリしてバカになったの?」と訊かれたことがあったが、分からない人にはどうにも分からないだろう。だが、この無常感は、健全に屈折した自意識を持っている一部の人たちには、我がことのように胸に刺さるようだし、それゆえに放っておけなくなるようだ。ブレイクのないTheピーズが今も活動を続けられている理由のひとつはそこにあると思う。大木温之の言葉を欲する人たちは決して多くはないが、確実に存在する。
そのTheピーズの本質は作品毎に大きく変化してきたわけでもないので(特に97年まではそれほど変化してないと思う)、逆に言えば、アルバムはどれもこれもお薦めだが、ここでは下ネタや乱暴な楽曲タイトルがなく、女子にも薦めやすいという理由で、7thアルバム『リハビリ中断』を取り上げようと思う。活動休止前に発表された作品だからか、若干、例の“寄る辺ない”感じや無常感が濃く感じられるところもあり、バンドの特徴を掴みやすいアルバムでもある。
《ピッチャー交代 オラー投げっぞ/交代交代 ブン投げさせろーだ》《Let’s Go オレ がんばれボクちゃん》《根性なし作戦なし愛嬌なし反省なし/見切り発車で十分だべ》(M9「見切り発車」)と勇ましく迫る内容もあるにはあるが、《花火が残ってる/チビチビ生きのばしてる/カラ騒ぎが終わる頃/僕はもういないのさ》(M1「線香花火大会」)とか、《でもひとりで電車は走るよ/下車前途無効だそーだ 急ぐよ/怪しいね どこへ行くんだろう/誰も乗る奴がいねー 走るよ》(M2「鉄道6号」)とか、やはり悲観的だし、《めんどくせー 僕らの船は/まちぼーけ とっくに出て行った/反応ゼロ 反応ゼロ 期待はずれゼロ 便利だ》《えーいもう オチもなさそう/誰かの言うまま 黙ろう くたばろう》《バカに自由だ ひどく自由》(M10「反応ゼロ」)辺りは、ほぼ自暴自棄でもある。
《ドロ沼めぐりドロ舟が進む/やめときゃいいのに 根性で周る》《のりかかった舟 ひっかかった舟/貴様 何様 おたがい様》(M6「ドロ舟」)はシニカルにも聴こえるが、やはり自虐的な印象だ。
《みつけろ 認めろ/似たようで全部違うぞ みつけろ/鳩の群れの中に僕が 見ると奴もいる》《バラバラ バリバリバラバラ/どこにでもいる奴なんて どこにもいねー/鳩の群れの中で僕が まぐれを待っている》(M5「ハトポッポ」)は正鵠を射てはいるが、どこか切ない。このバランスはTheピーズらしい。
ネガティブはネガティブなものの、それ一辺倒というわけでもない。
《飲んでりゃ昨日もみえるだろう/明日が行き止まり/僕らの死ぬまで 考えた/そして最悪の人生を消したい》《ゆーワケで せっかくだし 悪いけど/続くよ まだ二人いる/何かまたつくろう 場所は残ったぜ/君と最悪の人生を消したい》《そして最悪の人生を消したい》と歌われるM3「実験4号」は、「君は僕を好きかい」(4th『クズんなってGO』収録)、「日が暮れても彼女と歩いてた」(5th『とどめをハデにくれ』収録)と並ぶ、Theピーズ史上屈指のラブソングである。

ポピュラリティーの高いメロディアスな

ここまでサウンド面について触れてこなかったが、Theピーズは大木を中心とした3ピースバンドである。何度もメンバーチェンジを経ているが、3ピースであることは変わらない(現在のメンバーは大木の他、結成時のメンバーである盟友、安孫子義一(Gu)と、the pillowsでも活動する佐藤シンイチロウ(Dr))。レゲエがあったりもするが(M 10「反応ゼロ」がそう)、基本はR&R。3ピースのR&Rバンドに大きなこだわりがあることは間違いない。大木のみの“1人ピーズ”や佐藤または安孫子との“2人ピーズ”で活動することもあるが、かといってメンバーを固定しないユニット的な身の置き方をしない辺り、そのバンドマンとしての立ち位置はカッコ良い。最後に強調しておきたいのはメロディー。大木の書くメロディーはキャッチーなものがほとんどで、疾走感あるサウンドのわりには歌メロの音符の数が少なく、しっかりと抑揚がある=メロディアスである。このメロディーに関しては、Theピーズは過小評価されている──いや、未だ真っ当に評価されていないのでは、と考える。歌詞は前述の通り、聴く人を選ぶものが多いことは疑いようがないが、歌メロは結構ポピュラリティーが高いと思う。触れていない人が多いだけで、大木の作るメロディーを気に入るリスナーは老若男女問わず、まだまだ結構いるはずだ。何年か後に巷の多くの人が口ずさんでいるような、それこそそれで紅白歌合戦に初出場するようなヒット曲が出てもおかしくないと、わりと真面目に思っている。

著者:帆苅智之

OKMusic編集部

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