『SWEET 19 BLUES』はあらゆる好機が
奇跡的に合致して、
10代最後の安室奈美恵の姿を鮮やかに
映し出した歴史的傑作

『SWEET 19 BLUES』(’96)/安室奈美恵
ルーツミュージックをいち早く導入
個別に見ていこう。冒頭のM3「LET'S DO THE MOTION」、M4「PRIVATE」はラップこそあれ、サウンドそのものはそれほどブラックっぽい感じがないが(M3まではほぼSEだし)、M6「Don't wanna cry (Eighteen's Summer Mix)」からその匂いが漂ってくる。コーラスを含めてルーツミュージック感が前面に出ている。ピアノがブルージーに重なるのもそうだし、このバージョンではベースが生音に差し替えられているそうで、グルーブは増している様子だ。
M7「Rainy DANCE」、M10「I'LL JUMP」、M12「i was a fool」、M13「present」は所謂コンテンポラリーR&B。M13ではシングル「Don't wanna cry」収録バージョンにコーラスとサックスを加えたそうで、よりアーバンなテイストに仕上げているのが興味深い。それ以上に興味深いのは、M15「You're my sunshine (Hollywood Mix)」とM16「Body Feels EXIT (Latin House Mix)」でのラテンフレイバー。ブラックミュージックだけでなく、中南米の伝統音楽要素も取り入れている。両ダンスナンバーに、より土着的なノリを加味したのは送り手の明確な意図が感じられる。極めつけはM18「SWEET 19 BLUES」~M19「...soon nineteen」だろう。彼女の代表曲のひとつであり、もはや説明不要な気もするが、改めて聴いてみると、思っていた以上にゴスペル要素が濃い。M19ではパイプオルガンを使い、ほぼ讃美歌に仕上げている。
その前年から続いていた所謂小室ブームの中、当時のチャート上位はハウスやテクノといったデジタル系のダンスビートだったし、安室自身もまさにその中心にいたことは間違いない。しかしながら、『SWEET 19 BLUES』で示されたものは、ダンスはダンスでも当時の主流とは異なるものであった。生音や生声も取り入れて、アップチューンだけでなく、ミディアム~スローにも挑んだ。言わば転身とも言える。
このルーツミュージック要素の導入は彼女自身が望んだものではあったようだ。1995年の暮れ…つまり、本作の発売前。彼女自身がプロデューサーの小室哲哉に“ミディアムテンポでブラックミュージックを歌ってみたい”と直訴したのだという。米国でMadonnaやTLCがR&B色を強めていたことを意識していたと言われるが、彼女のファッションを真似る“アムラー”なるフォロワーを生み出し、自身が社会現象化する中で、それに甘んじることなく、ネクストレベルを目指したということになる。渦中にいながらも時代の変化を敏感に察した安室もすごいが、それに応えたサウンドを作り、既発のシングル曲も別バージョンに仕上げてしまう小室の手腕もすごいと言わざるを得ないところだ。