フジファブリックが
若者の光と影を描いた
『TEENAGER』は
ゼロ年代邦楽の大傑作

『TEENAGER』(’08)/フジファブリック

『TEENAGER』(’08)/フジファブリック

8月28日、フジファブリック初のプレイリストアルバム『FAB LIST 1』『FAB LIST 2』が発売された。過去に在籍していたレベールの音源が『FAB LIST 1』、そして現在在籍しているSony Musicの音源が『FAB LIST 2』に、それぞれファン投票による投票上位15曲がそのまま収録されているので、ビギナーにもおすすめの作品集と言える。そのフジファブリックの名盤と言えば、やはりメジャー3rdアルバム『TEENAGER』だろう。

10代のパワーと集中力

フジファブリックのアルバム『TEENAGER』について書くにあたって、何となく“10代”でググってみたら、まずは、30本塁打&85打点を記録している東京ヤクルトスワローズの村上宗隆選手や、レアル・マドリードからマジョルカへレンタル移籍した久保建英選手といった若きアスリートのニュースが上位に出てきた(8月24日時点)。なるほど。現時点で話題の10代と言えば確かにこのふたりだろう。異論があろうはずもない。清々しい気持ちにさせてくれる明るいニュースだ。だが、その一方で、それらに続く“10代”の検索結果としては、“「どうか生き延びて」中川翔子が夏休み終盤を迎えた学生にメッセージ”や、“「個性が持てない」悩む10代に、霜降り・せいやさん「自分も欲しい」”といったニュースが続く。“インスタで「いいね!」中毒に陥った10代モデルの告白”とか、“どうして日本の10代の少女は容姿に自信がないのか?”というものもあって、何だか穏やかではない。ニュース以外には、『10代のうちに知っておきたい折れない心の作り方』(水島広子著)や『10代のうちに考えておくこと』(香山リカ著)、『10代のための疲れた心がラクになる本』(長沼睦雄著)といった書籍を紹介するサイトも比較的上位に表示される。ネット内での“10代”は、華々しいものというよりは、どちらかとそれとは逆ベクトルでとらえられているようだ。

そのグーグル先生の見立ては、2019年8月後半の時点だけの限定的なものであることも否定できないけれども、普通に考えれば、こちらが普遍的な“10代”のとらえ方であるとは思う。甲子園で決勝近くまで進むようなスポーツエリートなどの(この言い方は好みではないけれども)、いわゆるヒエラルキー上位のごく一部の人たちを除いては、普通の“10代”の多くは《自分の存在が何なのかさえ 解らず震えている》といったところではなかろうか(《》は尾崎豊「15の夜」より引用)。自我の未成熟さゆえに、時に無軌道であったり無鉄砲であったりしながら事を進めたり、その逆に答えの出ない自問自答について悩んだり、他者との距離の取り方に苦しんだりもする。すでに“10代”を通過した人であれば、これにはある程度、同意してもらえるのではないかと思う。たまに“もし10代の頃に戻れるとしたら…”といった問答を見聞きすることがあるけれども、個人的には、後先考えずに突き進める向こう見ずなところはちょっと欲しいかもと思ったり、人生の経験値は現在のままで身体だけが若返るようならそれも悪くないかもと思ったりする一方で、もう一度あの時期を丸っと過ごすのは正直しんどいかなと思ったりと、ちょっと複雑だ(あくまでも個人的には…です)。読者のみなさんはそれぞれの“10代”をどんな風に振り返るだろうか。

アルバム『TEENAGER』リリース後のインタビューで、志村正彦(Vo&Gu)はそのタイトルについて以下のように語っている。

“中学生~高校生のはちきれんばかりのパワーってあるじゃないですか。あの集中力に負けてはいけないと思ったんです。いろんなことを経験して、あの時とまったく同じことはできないけれど、これからも追い続けていくっていうことを象徴した曲が「TEENAGER」。アルバムもそうしたいと思ったんです。ロックをやる限り、永遠にロック少年でいたいという決意がありますから。26~27歳で少年というのもどうかと思いますけど(笑)、潔く言っちゃう。ジャケット写真は女の子がぶら下っていて、顔も引きつってる。それがロック。ロックの定義は重力に逆らうことなんです。丸くならないで尖っていたい、逆らい続けることがロックですから!”
(2008年1月:https://okmusic.jp/news/178540
《どっかにスリルはないかい?/刺激を求めてエブリデイ/方向指示器はないやい/行勤しなけりゃ分からない》《僕らはいつも満たされたい》《僕らはいつも求めたい 君にも僕は求めたい》《ティーンネイジャー ティーンネイジャー 何年先だって/いつでも追いかけてたいのです/難解です 難解です 君のアンサー/今すぐ教えてほしいよ》(M13「TEENAGER」)。

OKMusic編集部

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