矢井田瞳、
デビュー作『daiya-monde』は
ポップでキャッチーで、
しっかりロック!

『daiya-monde』(’00)/矢井田瞳
https://okmusic.jp/news/349444/
デビューアルバムがチャート1位に
で、その会議はどうなったかと言うと、強固な推しも然したる反対意見もないままに、持って来た上司預かりみたいなかたちになり、結局、矢井田瞳の表紙はお流れになった。理由は簡単で、“新人でいきなり表紙はどうなんだろう?”という知名度の問題。他に強力な対抗馬があったような覚えもないので、デビューしたばかりの新人だったので、ディスコグラフィーが少ないとか、コンテンツ的な不安もあったかもしれない。もしかすると、“超新星”とか適当なキャッチコピーを付けて、デビューアルバムと同時に表紙号を発売したとして、“その後、あんまり取り扱う機会がなくなってしまったらどうしよう…”とか、そういう戸惑いがあったのかもしれない。いずれにしても矢井田瞳の表紙号は実現しなかったのだけれども、その後の彼女の快進撃のことはみなさん、よくご存知だろう。その秋、2000年10月4日にリリースされた、2ndシングル「my sweet darlin'」がスマッシュヒット。続いて発表されたメジャー1stアルバム『daiya-monde』はチャート初登場1位を記録して大ヒット。その結果を見て地団駄を踏むようなことはなかったけれど、勝負運がないもんだなとしみじみ思ったし、自らが置かれた状況を何となく悟った(苦笑)。
ロックのマナーに則ったサウンド
M1「How? (U.K. mix)」はギターのフィードバックノイズから始まり、そこからアコギのストローク+歌。オープニングから“ほんと分かってるなぁ”と唸らせるような始まり方だ。サビに重なるギターはノイジーで、リズムはどっしりとしていて、「How? (U.K. mix)」はいい意味でロックバンドの教科書的なサウンドを聴かせる。それに続く、M2「Everything Is In Our Mind」は、アフリカンとアジアンがミックスしたかのようなパーカッシブなリズムが引っ張るナンバー。途中でテンポが落ちる箇所はシタールっぽい音が聴こえるので、明らかにサイケデリックロックの匂いがして、何と言うか、ロックのマナーに則った印象がある。そんなロックらしいナンバー2曲を露払いに置き、お次に登場するのはメジャーデビューシングルM3「B'coz I Love You」だ。カッコ良いロックチューンであることは改めて言うまでもなかろうが、単にアッパーなだけでなく、ブイブイとランニングするベースラインが独特のグルーブを生んでいる。後半の転調も楽曲に勢いに増している感じでとてもいい。
M4「Your Kiss」はメロディラインがカントリー風のサザンロック的ミディアムナンバー。1番はギターもビートも乾いた感じで、M1からM3までとは印象が異なり、“こんなこともできるんだ!?”とリスナーの耳を驚かせる仕掛けが成されている印象を受ける。そして、M5「My Sweet Darlin'」。この楽曲に関してはのちほどまた述べるが、このナンバーの最大の特徴はキャッチーなサビのメロディーではあるものの、Cメロでは逆回転を入れていたりする。明朗活発なガールズアンセムといった表情のみならず、ロック的な小技を忘れていないように思えるところもいい。
M6「Girl's Talk」はノイジーなギターはM1から引き続いている印象だが、ここではエレクトロな音も加味されていて、全体の聴き応えがニューロマ、ニューウェイブを彷彿させる。それでいてサビは独特のダイナミズムで、そのテンションはハードロック的だ。しかも、サビはダンサブルなので面白いミクスチャーだとも言える。M7「もしものうた」も米国南部のテイストはあるが、こちらはニューオーリンズジャズ風味。メロディーがフレンチポップス的で、一発録りっぽい音色も含めて(実際に一発録りかもしれない)、可愛らしいイメージとは裏腹にこれもまたひと筋縄ではいかないナンバーである。シングル「B'coz I Love You」のカップリングでもあったM8「ねえ」も、M7同様に簡単ではない。「ボレロ」っぽマーチングビートから始まって、ピアノと逆回転が全体を支配(逆回転というか、ちょっとバグパイプみたいな音だ)。それでいてギターはノイジーで重いオルタナっぽく、ベースは激しく動く。リズムはサビの後半で3拍子になったりと、実験的な匂いが漂っている。
M9「大阪ジェンヌ」はインストだが、ソロのシンガーソングライターなのにインストをデビューアルバムに収録する辺りが、彼女の指向がロックである証拠だと思える。ファンキーなグルーブでスリリングなハードロック的サウンドを聴けば、それも言わずもがなではなかろうか。M10「I like (U.K. mix)」はM1と同じくインディーズ時代のシングル「Howling」収録曲。ループミュージックっぽいダンスチューンで、メロディアスに跳ねるピアノがShakatakを思い起こさせるが、サビではギターとベースが派手に暴れ、これもまた単純な楽曲では終わらない。ラストはM11「Nothing」。序盤はピアノとアコギが中心で比較的ゆったりとした印象だが、間奏以降、エレキギターが爆裂して、後半はビートもアップテンポとなり、歌もエモーショナルさを増していく。アウトロでラウド感はなくなるのだが、ミディアムバラードでそれらしく終わらせることもできただろうに、そうしなかったところに、スタッフを含めたメジャーデビュー時の矢井田瞳のアグレッシブさというか、アッパーな感じが伝わってくるようだ。問答無用にロックだと思う。
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