小野正利の“美声”の原点と言える
『VOICE of HEART』は、
とても丁寧に作られたことが分かる
大人の鑑賞に堪え得る作品

『VOICE of HEART』('92)/小野正利

『VOICE of HEART』('92)/小野正利

今や海外からもアツい注目を浴び、Jメタルシーンを代表するバンドと言っていいGALNERYUSが3月1日、スペシャルアルバム『BETWEEN DREAD AND VALOR』を発表。この機会にヴォーカルのMasatoshi“SHO”Onoのソロワークを紹介してみたい。CDバブル期を只中で体験したリスナーであれば、小野正利と言えば「You're the Only…」と即座に思い浮かべる方も多いのではないだろうか。そのクリアーのハイトーンヴォイスは多くの聴き手を魅了してきた。デビューアルバム『VOICE of HEART』からそのヴォーカリストとしての特徴と、作品の本質を探る本稿である。なお、GALNERYUSの最新インタビューはOKMusicに掲載されているので、併せてお読みいただきたい。
■GALNERYUS最新インタビュー
https://okmusic.jp/news/510346/

癖のないハイトーンヴォイス

以下のことわざの使用方法が微妙に間違っているところは何卒ご容赦いただきたい…と予めお断りさせてもらうが、小野正利の『VOICE of HEART』を聴いて思い浮かんだのは、“芸は身を助く”や“一芸は道に通ずる”という言葉だ。芸とは他ならぬ彼の歌のことである。念を押すと、何も彼の歌の上手さがまったく思わぬところで役に立ったなどというつもりはないし、彼が歌以外のあらゆる芸事に長けていると指摘したいわけでもない。とにかく小野正利の歌唱は優れていて、それにより、彼は歌という芸能において時代もジャンルも超越した。それを言いたいのである。

経歴を見ればよりはっきりする。今回紹介するソロデビュー時に始まり、以降、ポップス、ゲーム主題歌、アニメ主題歌、CMソング、古今東西の名曲のカバー、そしてヘヴィメタルバンド、GALNERYUSのヴォーカリストとしての活動に至るまで、この30年間、彼はプロのシンガーとして、いい意味で型にこだわらずに歌ってきたように見える。マンツーマンレッスンのヴォーカルスクールも行なっているそうなので、(ちょっと大袈裟に言えば)もはや彼は自身の歌を司っていると言っても良かろう。また、何でも最近ではその確かなパフォーマンスと指導力からテレビのバラエティー番組に出演することもあると聞く。そこで言えば、まさに歌が“思わぬところで役立っている”のかもしれない。

そもそも[歌手としてデビューする切っ掛けは、六本木の飲み屋で皿洗いのアルバイトをしていたときに、その会社の社長から「バンドをやっているらしいな、ちょっと歌ってみろ」と言われ、たまに歌っていたところ、音楽事務所・スイートベイジルの社長に「ウチでやらない?」と誘われたことから]だという([]はWikipediaからの引用。原文のまま)。“身を助けた”と言ってしまっていいかどうかは分からないけれど、歌が小野正利の人生を変えてしまったことは確かであろう。

小野正利の歌の上手さは、音域が広い≒高い音域を持っているということで論を待たないと思う。言い換えれば、ハイトーンの魅力だ。だが、それだけというわけでもない。いい意味で癖がないところも彼の歌の特徴だろう。癖がないとは無個性ではない。とても綺麗な歌声であって、クリアーかつシャープである。あと、これは個人的に強調しておきたい推しポイントであるのだが、変なフェイクやアドリブっぽい歌唱がないところにとても好感が持てる。小野正利以前も以後も歌の上手い人はいっぱいいたし、今もいる。彼以上に音域の広いシンガーも珍しくはないだろう。しかしながら、その人たちの中にはその歌唱に独自のニュアンスを入れてくるアーティストも少なくない。まぁ、それも表現のひとつなのであって別にやるなとは言わないけれど、中には歌本来のプレーンなメロディーラインがよく分からなくなるようなビブラートを入れてくる人もいて、流石にそれはどうかと思う。とりわけ2000年頃からのコンテポラリR&Bの隆盛以降、そういうシンガーが増えているような印象がある。R&Bがそういうものと言ってしまえばそこまでだが、個人的にはあまり関心しない。もっと言えば、オクターブの高さをことさらに強調するタイプも馴染めない。メロディーにその必然性があれば構わないのだが、キーの高さを前面に出すだけなら、それは歌唱ではなく、どちらかと言えば曲芸である。こちらは関心しないというよりも、個人的にはまったく関心がない。その点、小野正利の歌にはそうしたところがない。小細工がないと言ってもいいと思う。少なくとも『VOICE of HEART』の印象はそうだ。だからこそ、それ以降、前述のように様々なジャンルを手掛けることができたのではないかと思うし、聴き手を選ばないところもあったのではないかと考える。

OKMusic編集部

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