松田聖子を
元はっぴいえんどのメンバーが
本格ディーヴァへと導いた
重要作『風立ちぬ』

『風立ちぬ』('81)/松田聖子
社会現象となったトップアイドル
しかしながら、もしその後そうしたイメージだけが継続されていたとしたら、松田聖子が現在のような老若男女問わず誰にも愛されるシンガーとなっていたかどうかというと、それははっきり“否”だと思う。その後の彼女の歌手人生が長続きしなかったとまでは思わないけれども、幅広い支持を集めていたかというと疑問は残る。こんなことがあった。松田聖子がチョコレートのCMの中で同じ年にデビューした田原俊彦と共演。1980年のことだ。若いアベック(※死語)の仲睦まじい姿が描かれた、今思ってもさわやか以外の何物でもない映像なのだが、そこは当時のトップアイドル同士のこと。特に田原俊彦=トシちゃんのファンの拒絶反応が半端なかったという。スポンサーへの抗議が殺到した挙句、CMは早々に打ち切られることになった。心ないファンからカミソリの入った脅迫状が届いたとも聞く。
ふたりが共演したことをスポンサーに抗議すること自体、呆れるばかりの出来事なのだが、それほどまで各々の人気が過熱していたのである。当時“聖子ちゃんカット”が大流行したので彼女に憧れる女性も相当数いたことは確かだが、一方で、アンチも多かった。そのアンチが女性ファンを相殺するほどにいたかどうかは分からないけれども、少なくとも1981年頃まで、すなわちデビューから1年間程度は圧倒的に男性ファンが支えていたことは間違いない。それは彼女のコケティッシュなキャラクターがストレートに作用した結果であっただろし、デビューシングル「裸足の季節」からブレイクを果たした2ndシングル「青い珊瑚礁」、そして3rdシングル「風は秋色」辺りまでは、今サッと聴き返しても、そのキャラクターを定着させるために腐心した作品群であったことが分かる。