松田聖子を
元はっぴいえんどのメンバーが
本格ディーヴァへと導いた
重要作『風立ちぬ』

豪華な作家陣が支えたその才能

そののちに、松田聖子はシングル曲の首位獲得数や首位連続獲得数、あるいはアルバムの首位獲得数において歴代女性アーティストの1位となって、邦楽史にその名を残す大記録を打ち立てることになるのだが(※現在は1位の座を譲っている)、デビュー時からその歌唱力には高い評価があったとはいえ、歌の上手さとキャラクターだけで歴史に名を刻むことができたかと言えば、これまた“否”と言わざるを得ないだろう。歌が上手くてキャラが立ってるというだけなら、アイドルに限らず、わりといる。それを凡百と言うのは失礼かもしれないが、実は結構いたりする。歌唱力とキャラクターだけで40年以上も歌謡界のトップにいられるわけがない。不可能だと断言してもいい。アーティストの確かな才能を支え、ともに作品や世界観を作り上げるスタッフがいてこそ、長きにわたって第一線で活躍が可能なのだと思う。

その点では、松田聖子のスタッフワークは極めて優秀だった。アイドルには“2年目のジンクス”がある。最近、芸能界ではあまり使われていないようなので、そういうジンクスがあった…というべきかもしれないが、当時はまことしやかに言われていた。デビューの翌年にはリスナーから飽きられてしまうという迷信である。松田聖子のマネジメントはデビュー2年目から積極的に動いた。そこまで小田裕一郎が手掛けていた作曲を、チューリップの中心メンバーであり、シンガーソングライターとしても名を馳せていた財津和夫に託した。4th「チェリーブラッサム」、5th「夏の扉」、6th「白いパラソル」といった1981年にリリースしたシングルは氏によるものだ(1982年の11th「野ばらのエチュード」も氏の作曲)。この4th~6thは今聴くと1st~3rdから劇的に変化した感じはないものの(財津氏がそうした主旨の発言をしていたようなのだが、そう意識してあれだけのクオリティーのメロディーを作れるのだから、流石に“和製ポール・マッカートニー”である)、財津が作曲したこと自体も話題となり、ニューミュージック畑のリスナーにも松田聖子の存在を知らしめる効果もあったように思う。作曲家は変わったが、作詞家は変えなかったことも見逃せない。5th「夏の扉」までは三浦徳子が続投。それまでの世界観を損ねなかったことで、従来のファンが離れることもなかったのだと思う。以降もシングルのチャートリアクションはずっと1位のままで、その人気は不動のものとなった。

スタッフはさらに攻めた。7thシングル以降も新たな作家を導入。松任谷由実(呉田軽穂名義)、細野晴臣、佐野元春(Holland Rose名義)、尾崎亜美、土橋安騎夫、大江千里といったアーティストたちとコラボレーションを実現させていく。次々と生み出されるカラーの異なる楽曲はファンを大いに楽しませたし、これもまたリスナーの裾野を広げることに大きく寄与したであろう。また、これによってシンガーとしての表現力が確実に増し、松田聖子自身が大きく成長を遂げたとも思われる。1990年代からはセルフプロデュースを行ない、1996年には自らが作詞作曲したシングル「あなたに逢いたくて〜Missing You〜」がヒット(現在までのところ、この楽曲が松田聖子のシングルでもっとも売り上げたナンバー)。近年はジャズ作品を発表するなど、完全に一アーティストとして突き抜けているが、1980年代にバラエティー豊かな作家たちが手掛けたさまざまなタイプの楽曲を歌いこなしたことがその礎となったことは容易に想像が付く。この頃が、松田聖子がスーパーアイドルからスーパーディーヴァとへと移り行く上で、もっとも重要な時期だったと振り返ることもできよう。

OKMusic編集部

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