ロックシンガー、ショーケンの第一歩
となったマイルストーン『DONJUAN』

ショーケンこと萩原健一。俳優として大成功したせいか、ロックシンガーとして語られる機会は減ってきたが、日本を代表するロックシンガーの一人である。その魅力を、もっとも音楽活動が充実していた80年代の第一歩となった隠れた名盤とともに振り返ってみたい。

ロックの名盤ガイドの類では、ショーケンと言えば、大概、79年発表のライヴアルバム『熱狂雷舞』ということになっているが、そうなんだろうか?という疑問をずっと拭えずにいる。もちろん、『熱狂雷舞』は彼の代表作のひとつに違いないと思う。しかし、誰が何と言おうと、これこそがロックの名盤だと断言するには、時代の反映なのか、アダルト・オリエンテッドなサウンドが個人的には、どうにもしっくりこない。
『太陽に吠えろ!』('72~'73)で演じたマカロニ刑事役をきっかけに俳優として、すでに成功していたショーケンが再び音楽活動に取り組み、77~79年に立て続けにリリースしたアダルト・オリエンテッドな作風の『Nadja』3部作の物足りなさに比べれば、狂おしい歌唱とハーモニカの演奏で、まさに“雷舞”という表現が相応しいものに生まれ変わらせた『Nadja』の収録曲の数々からは、その後の活躍を予感させる十二分な凄みさえ感じられ、アダルト・オリエンテッドな魅力も含めたスケールのデカさがショーケンはロックなんだと思う。
とは言え、『熱狂雷舞』のリリースから36年が過ぎた今、『熱狂雷舞』の帯に記されているように“スピリットがロックだ”と言っても、その後のロックシーンの変化を思えば、どれだけ説得力があるだろうか。しかも、前述したマカロニ刑事や『傷だらけの天使』('74~'75)の探偵事務所の調査員・木暮修役を通して、70年代のショーケンが体現していた時代を象徴するアウトローとしての抜群のカッコ良さや影響力を知らない人たちに改めて、稀代のロックシンガー、萩原健一のカッコ良さを伝えるなら、もっとストレートにロックと言えるアルバムを紹介したほうがいい。
そう考えたものの、『熱狂雷舞』をステップにロックシンガーとして活躍を始めたショーケンが80年代にリリースしたアルバムは、どれもそれぞれに魅力や、かえって愛着が沸くようなほころびがあって、どれか1枚選ぶとなると思いの外、難しい。今では俳優というイメージが強いショーケンだが、80年代の音楽活動がいかに充実していたかは、10年間で4枚のライヴ盤を含む9枚のアルバムをリリースしていることからうかがえる。その中から1枚選ぶとしたらやはり、レイ・チャールズ、マディ・ウォーターズ、スティーヴィー・ワンダー、ボブ・マーリー、ボブ・ディラン、ローリング・ストーンズを愛するショーケンが同じ時代を生きてきた盟友達と作り上げた、この『DONJUAN』だろう。
レコーディングにはフラワー・トラヴェリン・バンドやハプニングス・フォー、ミッキー・カーチスとサムライといったグループ・サウンズを経て、日本のロックの黎明期から活躍している名うてのミュージシャンが招集されている。ここではまだDONJUAN SUPER SESSIONとなっているが、その後、ツインギター、ツインドラムス編成のDONJUAN ROCK’N ROLL BANDに発展。ショーケンはバンドと一丸となって、本作収録の「ローリング・オン・ザ・ロード」で“自由を求め転りつづける”と宣言しているように自分なりのロックを追求していくわけだが、その後の10年にわたる活動の第一歩になったという意味でも「テンダー・ナイト」をはじめ、その後、ライヴの定番になる曲が多いという意味でも、この『DONJUAN』は忘れられない作品だ。
ディスコビートを取り入れたロックンロールの「テンダー・ナイト」、レゲエのリズムを使った「お元気ですか」といった曲からは、同時代のローリング・ストーンズを意識していたことがうかえる。いや、スライドギターが唸る「ルーシー」のようなロックンロールがあることを思えば、ストーンズにケンカを売ってやろうぐらいの気概はあったかもしれない。
もちろん、ロックンロールだけが聴きどころではない。青春時代への決別をロマンチックに歌った「今夜きりさ」「砂時計」「ララバイ」といったバラードおよび、メロウなナンバーで聴かせるショーケンの歌はロックンロールのそれとは違う味わいがある。テクニックに頼らず、体当たりの歌をダイナミックに聴かせるショーケンのヴォーカルからは明らかにロックシンガーであることに目覚めたことがうかえるが(「ローリング・オン・ザ・ロード」のイントロと間奏のアドリブが気絶してしまいそうになるぐらいカッコ良い)、その後、どんどん楽譜から解き放たれ、クセの強いヴォーカリストになっていくことを思えば、まだまだ聴きやすい。
1年間の活動休止の後、ショーケン自ら歌詞を書き、活動休止に至る顛末やその時の心境を歌った『Thank You My Dear Friends』('84)、一旦、音楽活動に終止符を打った、異様なテンションの『Shining With You』('88)も重要な作品だと思うが、ほころびが少ないことや、前述したようにストレートにロックと言える、ある意味、分かりやすさを考えると、本作を代表作と言ってもいいと思う。

著者:山口智男

OKMusic編集部

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7コメント
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