あぶらだこの一口では語れない
音楽性が詰まった“木盤”は
異端派パンクバンドならではの逸品

『あぶらだこ』('85)/あぶらだこ
影響を公言するアーティスト多し
そして、それと同時に、そこには単なる音楽の方向性──例えば、ギターポップだとかダンスエレクトロとかいう、そういったジャンル的なインフルエンスがあったわけではないこともよく分かる。大きく分ければ、あぶらだこはやはりパンクに括られるだろうが、彼らの音源が再発される度に “80年代に彗星の如く現れた異端派パンクバンド”なるキャッチコピーが付けられていることがまさしくその証左で、少なくともディストリビューション側には、パンクはパンクでも正統派パンクではないという認識はあったようだ。確かに今回“木盤”を聴いてもその印象は初期パンクでもハードコアパンクでもなかった。
個人的に最初にあぶらだこを聴いたのは、今や伝説的オムニバスアルバムとなっている『GREAT PUNK HITS』(1983年)だったはずだが、正直言ってその時の印象は薄かった。それは多分、そこに収録されていたGISMの如何にもハーコーな音像と、LAUGHIN' NOSEの「GET THE GLORY」のストレートなポップさに惹かれたからだったのだろうけれど、今回『GREAT PUNK HITS』も聴き直してみたら、ここに収録されたあぶらだこの2曲「米ニスト」「クリスタル・ナハト」は、これはこれでこのバンドらしい個性が十分に発揮されていたことを改めて確認した。決しておとなしいというイメージのものではないけれど、他のバンドの荒々しいまでのワイルドさ、ガツンとくるサウンドに比べて、 “子供の頃の自分には物足りなく感じたんだろうなぁ”などと思ったところではある。当時は、分かりやすいほどにディストーションが効いたギターの音が好きだったんだろう…と個人的な思い出話はさておき、そんなあぶらだこの特徴をメジャー流通の第一弾である通称“木盤”で探っていこうというのが今週のコラムの主旨である。
ちなみに通称“木盤”というのは、あぶらだこのファンならばご存知の通り、彼らのアルバム作品には、“Abbey Road”や“Presence”といったタイトルが存在しない。そのため、ジャケットに由来した名前──“木盤”の他、“青盤”“亀盤”“釣盤”などと呼ばれて認識されているのだ。