スターダスト☆レビューの
多面性と独自性が発揮された
新人離れのデビューアルバム
『STARDUST REVUE』

『STARDUST REVUE』(’81)/スターダスト☆レビュー

『STARDUST REVUE』(’81)/スターダスト☆レビュー

“根本要、急きょ入院”のニュースには少し驚かされたが、一週間程度で無事に退院し、ニューアルバム『還暦少年』を6月27日に発表したスターダスト☆レビューは、すでに全国ツアー『楽園音楽祭2018』をスタートさせている。

先週末、沖縄県宜野湾市公演を成功させたばかりだが、今週末には長崎県長崎市に登場予定。全国各地で猛暑が続く中での日中の野外コンサートとなるが、ライヴに関しては百戦錬磨のバンドなだけにその辺のケアはしっかりとしているはずなので、参加予定の方はスタッフの指示に従って、くれぐれも身体には気を付けて無理のないように楽しんできてほしい。今週はそのスターダスト☆レビューからのオリジナルアルバムから名盤をセレクトしてみようと思う。

新人らしからぬ完成度を誇る作品

オリジナルアルバムだけで最新作『還暦少年』を含めて実に23作品も発表しているスターダスト☆レビュー(以下スタレビ)だけに、そのアルバムから1作品を選ぶのはなかなかしんどい。セールス的に言えばもっとも売り上げた12thアルバム『艶』(1995年)を取り上げるべきかもしれないし、「今夜だけきっと」収録の4th『VOICE』(1986年)や、「木蘭の涙」収録の10th『SOLA』(1993年)辺りを選ぶのが妥当なのかもしれないが、(全23作品を聴いたわけではないので伝聞からの想像でしかないけれども)おそらくどのアルバムもいい意味で大差がないのではないかと思う。

というのは──結局、どれを選んでいいのかよく分からなかったので、勝手にデビュー盤『STARDUST REVUE』を紹介することに決めたのだが──このバンドはデビュー時からすでに一定以上のクオリティーを発揮していたことが分かったし、早くから完成されていたと思ったからでもある。新人を指す時に“ポテンシャルの高さを感じる”とかいう言葉を使うことがよくある。逆に言えばこれは“潜在能力はあるが、それをまだ出し切ってない”ということでもあるのだが、スタレビの場合、今『STARDUST REVUE』を聴いてもかなり新人離れしていたことが分かる。

だからなのか、自分の印象だけで言うと、リアルタイムで聴いた時にも“すごい新人が現れた!”という感じを持たなかったように思う。筆者が最初にスタレビを耳にしたのはバラエティー番組『もんもんドラエティ』の主題歌だった2ndシングル「銀座ネオン・パラダイス」だったことははっきりと覚えているのだが、何と言うか、あまりにもよく出来すぎていて、“知らない昭和歌謡のカバーかな?”と思ったくらいで、個人的にはバンドそのものに興味が行かなかったような気がする。

1stシングル
「シュガーはお年頃」からして傑作

『STARDUST REVUE』は今、聴くと、根本要(Vo&Gu)、三谷泰弘(Key&Vo)の歌声はさすがに若さを感じるところではあるが、収録曲のレベルは実に高い。デビューシングルでもあるオープニングM1「シュガーはお年頃」からしてよくできた楽曲である。イントロから飛び出すアカペラ調のコーラスにまず耳を惹かれ、軽快なリズムと鍵盤に引っ張られて中へと進んでいくと、歌劇のようなドラマチックさを持つBメロからキャッチーなサビに展開と、その構成がまさにパラダイスである。

間奏でも印象的に響くピアノはトラディショナルなニューオーリンズ・スタイルのポップさ。後半のブレイクから楽器レスになるサビでは完全なアカペラを披露しており、バンド自体の懐の深さを見せつけているようでもある。かわいいらしい締め方も楽曲全体のイメージを損なうことがなく、小技ではあるがとてもいい。ここだけでベテランバンドのような貫禄を感じるところである。

歌詞は、《あなたに抱かれてゆらゆら揺れる/キャンドル・ライトの炎のように/赤く燃える私の心/あなただけにあげちゃうわ》とか、《あなたが星なら私は夜空よ/あなたの瞳にキラキラ光る/いやなことなんて忘れちゃう/二人だけのパラダイス》とか、外連味たっぷりの表現がありつつ、《だからブギウギ わくわく》ともっとも盛り上がるサビで、《揺れる恋でも/あなたと二人なら生きてゆけるわ》《揺れる恋でも/あなたのあとならついてゆけるわ》と、ほんのちょっとの不安さを隠し味のように入れ、それでも前向きに締め括っている。まさしくお年頃の揺れる気持ちと解放感をとても上手く表現していると思う。

随所に奥深さを感じるバンドサウンド

M2「ラッキーレイン」はAOR。サビでソウルフルになる歌メロは昨今のコンテンポラリーR&B的でもあり、明るさの中にも物悲しさを秘めた感じにコンポーザーの非凡さが分かる。サックス~ギターソロ~サックスと流れる間奏は“フュージョンバンドか!?”というほどの手練れ感があり、ここでもまたこのバンドの奥深さを垣間見れる(サックスは“キング・オブ・サックス”と称されたジェイク・コンセプションが演奏している)。

奥深いと言えばM3「気分はセレナーデ」もそうで、ジャジーな落ち着いたサウンドが一転、派手なバンドサウンドに展開。《そんなにテレちゃいや、もう少しこっちへきて》という歌詞やファニーな音作りと相まって、当時はちょっとコミックソング的にとらえられたのかもしれないし、もしかするとこういうところがスタレビのバンド像を分かりづらくしたのかもしれないが、R&Rバンドらしいギミックと考えると合点がいく。ドゥーワップ的なコーラスワークを含めて、バンドとしてあらゆる手法で聴き手に注目させることを考えていたことが想像できる。

オリジナリティあふれる和製ポップス

M4「常夏のジャガタリアン」は、M7「今年の夏こそは」同様、南米系のリズムを取り入れたナンバー。ただ、いずれもよくあるような、あからさまに“ラテンフレイバーを注入しましたよ!”という感じではなく、これもまたともに昭和歌謡的というか、戦後の作曲家がジャズを取り込んで独自のポップスを開発したような面白さがある。コミカルなM7のほうがその傾向がより分かりやすいかもしれないが、M4の構成も興味深い。南米系Aメロからサビでスウィートなメロディーを聴かせつつ、間奏でファニーな音で『おもちゃのチャチャチャ』を引用したと思ったら、Cメロではコーラスを駆使して正調な旋律を持ってくるという、名うての作家のような仕事っぷりを見せている。

当人たちにどこまでその意識があったのか定かではないが、この辺りからは、洋楽コピーではなく、オリジナルの和製ポップスを作ろうという気持ちがあったことを想像してしまうが、実際のところはどうであったのだろうか? 

M5「ラストシーン」はシングル「シュガーはお年頃」のB面だったナンバー。カップリング曲とはいえ、その品質はタイトル曲に見劣りしないばかりか、また別の音楽性を有しているところもスタレビのすごさであろう。浮遊感のあるサビに根本の押しの強いシャウトが重なるところはとてもソウルフルで雄々しく、2Aから聴こえるバックに流れる鍵盤(あれはアコーディオンでしょうか?)の入れ方も素晴らしい。デビューシングルからバンドの多面性をはっきりと示していたことが分かる。

根本、三谷の両コンポーザーが競演

M6「GOOD-BYE, MY LOVE」も頭からアカペラを強調したミディアムナンバーだ。完全なロストラブソングだが、失意を柔らかく包み込むようなメロディーで、世界観のバランスが絶妙だと思う。

M8「READY TO LOVE AGAIN」は1994年までスタレビに在籍していた三谷泰弘が作詞&作曲と、メインヴォーカルを務めた楽曲。根本に比べて線の細い印象の三谷の声だが(根本が太いとも言えるが)、それが楽曲全体を支配するアーバンな匂いを後押ししているようで、これはこれで間違いなくいい。アルバムがフィナーレに向かう中でのアクセントとしても機能していると思う。

M9「たそがれラプソディ」はややスカっぽいリズムに(発表された当時はまだそんな形容はなかったが)王道のメロディーを乗せており、文字通り、黄昏時を感じさせるゆったりとした空気が流れる秀曲。正直に告白すると、最初に聴いた時は間奏のチャイナ感に“?”だったが、まぁ、ラプソディ(=狂詩曲)だとすれば理解できるし、今となってはあの若干緩い感じには愛おしさすらある。サビのリフレインの流されていく様子に身を任せ、このまま漂ってしまいたいくらいの気持ち良さがあり、これもまたよくできた楽曲であることは間違いない。

国内屈指のライヴバンドとして君臨

ザッと収録曲を振り返ってみても、王道もあればギミックもあって、『STARDUST REVUE』はスタレビらしい完成度を持った作品であることが分かるが、発表された当時は期待を超えるセールスを示すことはできなかった。“時代が早かった”と考えがちだが、そうでもない。1979年にサザンオールスターズ、ゴダイゴなどのニューミュージック系ミュージシャンが台頭し、1980年には松山千春のアルバム『起承転結』が年間チャート1位、イエロー・マジック・オーケストラ『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』が同2位となった時代である。

すでに音楽シーンは歌謡曲一辺倒ではなくなっていた時期なので、決してスタレビの音楽性が受け入れられないような土壌ではなかったと思う。「シュガーはお年頃」はCMソングに起用されたし、先述の通り、2ndシングルもテレビ番組のタイアップが付いたので、決してスタッフのプロモーション活動が弱かったわけでもないだろう。今やそのMCの巧みさでも有名な根本だから、そのキャラクターがメディアで受け入れられないこともなかったと思われる。

では、どうしてデビュー時のスタレビがブレイクしなかったのか。その理由は今となってもよく分からないが、肝心なのはそこで彼らが腐ることなく、ライヴ活動に活路を見出したことだ。最初は東名阪のライヴハウスという規模だったそうだが、5thシングル「夢伝説」(1984年)のスマッシュヒットを受けて全国ツアーを展開。1987年に初の日本武道館公演を実現させた以降は、全国各地でほぼソールドアウトさせるほどの動員力を誇り、武道館の連続公演、“24時間でグループによるもっとも多く演奏された”としてギネス世界記録にも認定された『つま恋100曲ライヴ』など、大規模なコンサートも多数実行。

現在までのところ公演本数は2000回を超えるというから、間違いなく国内屈指のライヴバンドと言える。CDバブル期にも特大ヒットのなかったバンドが35年近く音楽シーンで活動し続けられてきたことは、ある側面からみたら奇跡と言っていいのかもしれないが、フィジカルの苦戦が続く業界全体にとって、その突破口となるようなヒントがスタレビの存在そのものにあるかもしれない。そんなことも含めて考えると、今だからこそ、デビュー作『STARDUST REVUE』は広く多くの人たちに聴かれてもいいアルバムなのかもしれない。

TEXT:帆苅智之

アルバム『STARDUST REVUE』1981年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.シュガーはお年頃
    • 2.ラッキーレイン
    • 3.気分はセレナーデ
    • 4.常夏のジャガタリアン
    • 5.ラストシーン
    • 6.GOOD-BYE, MY LOVE
    • 7.今年の夏こそは
    • 8.READY TO LOVE AGAIN
    • 9.たそがれラプソディ
アルバム『STARDUST REVUE』

OKMusic編集部

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