ウルフルズを一躍、国民的バンドにし
たアルバム『バンザイ』

ウルフルズの代表作であり、ポップでソウルで今、聴いても“いってまえ”的なエネルギーと勢いにあふれているのがバンド史上最高の大ヒットアルバム(ミリオンセラーを記録)『バンザイ』だろう。大ブレイクの引き金となった「ガッツだぜ!!」をカラオケで歌ったことがある日本人は(筆者も初めてカラオケに行った時、一番歌ってみたかったのがこの曲だった)相当な数にのぼるのではないだろうか。人気が高かったため、のちにシングルカットされて、これまた大ヒットを記録した最高のラブバラード「バンザイ〜好きでよかった〜」も名曲中の名曲で、素直な想いを綴ったトータス松本のシンプルな歌詞とキュンとくるメロディーを聴いていると、ロックの歴史に燦然と輝くRCサクセションに通じる魅力を感じずにはいられない。そして、本作がすごいのはこの強力な2曲に他の曲も負けていないぐらいぐらいにキャラが立っていることだ。

山あり谷ありのバンドライフでアホアホ
パワーを今も更新中!

「4人でこのまま何十年もバンドをやれるかと言ったら自信がない。ちょっと休みたい」と2009年に活動休止を発表したウルフルズは約4年半の活動休止期間を経て、2014年の2月に復活を宣言。大阪の万博記念公園で毎年、行なってきた夏の恒例野外イベントのステージで、「ガッツだぜ!!」を歌った後に当時の疲れ切っていた心境を振り返り、「メンバーが誰ひとり立ち止まらずにそれぞれの音楽をやって、それが行き着いた先がウルフルズだったんですよ。奇跡のような話やと思うわ」と語った。
このエピソードだけで、バンドらしいバンドだなぁと思うが、ウルフルズのヒストリーもめちゃくちゃ人間臭い。1988年に大阪で結成され、メンバーチェンジを経てトータス松本(Vo& Gu)、ウルフルケイスケ(Gu)、ジョン・B・チョッパー(Ba)、サンコンJr.(Dr)の4人が揃い、活動が本格化。1992年にシングル「やぶれかぶれ」でデビューを飾るが、思うようにセールスが伸びず、業界では熱烈な支持を受けていたものの、『バンザイ』のわずか2年前にリリースされた2ndアルバム『すっとばす』はオリコンチャートの50位内にも届かず、プロデューサーの伊藤銀次からヒット曲を生み出すようミッションを出されたという。今と違ってCDが売れていた時代とはいえ、ウルフルズのようなソウル、ファンク色が強いロックバンドが万人にウケる大ヒット曲を出すのは決して簡単なことではなかったと思うが、悩み苦しんでいた時にトータスが替え歌感覚で作ったのが「ガッツだぜ!!」だった。
4つ打ちディスコビートを取り入れた「ガッツだぜ!!」はたちまち大ヒット! アルバム『バンザイ』はオリコンチャートの1位を記録し、ウルフルズは紅白歌合戦にも出場してしまうのである。多くのリスナーを元気づけ笑わせた大阪人スピリッツ炸裂のこのアルバムが彼らにとって血と汗と涙の結晶だったということを思うと、なおさら感慨深い。その後も売れたことによる環境の変化やいろいろなことが彼らを襲い、1999年にジョン・B・チョッパーが一時脱退するなど山あり谷ありのバンドライフ。音楽に対して真摯に繊細に向き合い続けてきたからこそ、これからも続いていくアホアホパワー道。たくさん乗り越えて、最終的にまた4人がウルフルズに行き着いたというのもなんだか彼ららしい。

アルバム『バンザイ』

最初から最後まで飽きさせない。エンターティンメントで、ソウルでロックなナンバーが詰まった本作は3枚目のオリジナルアルバムにしてベストセレクション的な内容の濃さ。「ガッツだぜ!!」や「バンザイ〜好きでよかった〜」は先述したので省くが、ウルフルズのロック魂に血が騒ぐ「暴動チャイル」から一転、シングルとしてリリースされた「SUN SUN SUN’95」ではアロハシャツがハマりのサーフサウンドとナンパな歌詞にニヤニヤさせられ、渋いブルースギターで始まり、トータスの往年のロックンロールスター的ヴォーカルスタイルもシャレが効いている「てんてこまい my mind」ではサラリーマンの多忙な日常をドタバタ喜劇のように描いてみせる。メロディーが立っている踊れるビートの曲にピチピチにイキのいい日本語が乗っかっているところがウルフルズの最大の強みだ。
有名な「大阪ストラット」(シングルとアルバムではヴァージョンが異なる)は大滝詠一の「福生ストラット」のカヴァーであり、舞台を福生から大阪の街に変えて、なにわカルチャー(今でいうTV番組『秘密のケンミンshow』の人気コーナー“秘密の大阪”に通じる)が台詞を混じえてテンポ良く歌われるのが爆笑だ。大滝詠一が中心となったユニット、NIAGARA TRIANGLEに本作のプロデューサー、伊藤銀次が参加していたことから実現したのだと思うが、これはカヴァーの傑作だと思う。
他にもユースケ・サンタマリアがゲスト参加し、ジョン・Bがフィーチャーされている大阪的オチが可笑しいファンクチューン「ダメなものはダメ」や、しんみりさせるラストのバラード「泣きたくないのに」まで全10曲。エナジードリンク並みの効用があり、今なお“ウルフルズ、バンザイ!”と言いたくなる名盤である。

著者:山本弘子

OKMusic編集部

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