デビュー作にして
トリプルミリオンを記録
CHEMISTRY
『The Way We Are』の巧みさ

『The Way We Are』(’01)/CHEMISTRY

『The Way We Are』(’01)/CHEMISTRY

9月25日に何と7年半ぶりとなるアルバム『CHEMISTRY』を発表したCHEMISTRY 。10月から全国24公演の全国ツアー『CHEMISTRY LIVE TOUR 2019 「CHEMISTRY~Still Walking~」』をスタート予定と再び精力的に動き始めたわけだが、今週は彼らのデビューを振り返ると共に、1stアルバムにしてトリプルミリオンを記録した『The Way We Are』を解説してみたいと思う。

リアリティショウから生まれたデュオ

《死ぬの生きるのと/さんざんもめて/三月(みつき)で別れる奴もありゃ/いやだいやだと云いながら/五十年そってる人もいる/いろいろあるよ いろいろね/ハー そんなこたあ どうでもいいじゃねえか》(「いろいろ節」/ハナ肇とクレージーキャッツ・1962年)。

青島幸雄が遺したハナ肇とクレージーキャッツの歌詞には、軽薄そうな言葉の中に真理(めいたもの)をぶっこんだ作品がチラホラ見受けられるのだが、この「いろいろ節」もそうである。その内容については多くの説明は不要だろう。こういうカップル、貴方の周りにいないだろうか。「いろいろ節」は、人生の機微を思わせるに十分なナンバーだ。

男女の仲に限らず、この歌詞のようなことは様々なものに当てはまる気がする。意気込むだけ意気込んで始めた事柄が上手く行かないなんてことは多々あるし、その逆で、スタート地点ではそこまで力が入っていなかったことが案外長く続いたりするものだ。音楽業界で言えば、ものすごく宣伝費をかけ(た感じで)鳴り物入りでメジャーデビューしたのもののさっぱり芽が出ない…なんてことがある一方で、リリース時は誰もがノーマークだった楽曲が有線放送からジワジワと火がついてロングセラーを記録する…ということもある。後者の事例はそれほど多く見聞きしてきた気はしないけど確実に何度かあった気がするし、前者もわりと目の当たりにしてきたように思う。もちろん、大量に宣伝を投下してその期待通りビッグヒットを記録する作品も多いし、誰にも注目されないままに業界をフェードアウトするケースもある(こちらのほうが圧倒的に多いはず)。まぁ、それこそ“いろいろ”である。

さて、そのことに照らし合わせて考えると、CHEMISTRYというユニットの成り立ちはちょっとおもしろい。ご存知の方も多いだろうが、彼らはテレビのオーディション番組から生まれたユニットである。つんく♂プロデュースのモーニング娘。や太陽とシスコムーン、小室哲哉プロデュースによる鈴木あみ、dosらアーティストを生み出したことでも知られる番組だけに、その宣伝効果は絶大であったことは間違いないので、その意味では鳴り物入りのメジャーデビューであったことは疑う余地がない。しかしながら、これまたファンならよくご存じの通り、もともと2人は共にソロデビューを夢見ていた。それが(詳しくは端折るけれど)途中からデュオを組んでデビューするという展開になった。厳密に言えば、作られたデュオである。そこには合意があったとは言え、2人共、デュオであることを前提に歌い始めたわけではないユニットなのだ。

The Monkeesを例に挙げるまでもなく、純粋なアイドルはともかく、そこに音楽的な要素が濃く反映されると、企画から生まれたグループはそれほど長続きしないイメージがある。そもそもテレビ番組の企画と音楽ユニットやバンドとの相性はそれほどよくないのではないかと思ったりもする。その昔、 “これが売れなかったら解散”みたいな企画があったけれど、オンエア中は解散を免れたものの、その後の活動歴の長短はあれども、結局、ほとんどが番組終了後に解散している。しかし、CHEMISTRYはそうではない。2012年に一度活動を休止して5年ほど各々ソロで活動したが、再びデュオに戻ってきた。今年9月25日にはセルフタイトルアルバム『CHEMISTRY』を発表することになったのは前述の通りである。リアリティショー内の企画としてスタートしたユニットで15年以上も活動し続けている。これは結構なレアケースと言えるのではなかろうか。

ポピュラリティをたたえたR&B

CHEMISTRYが長きに渡って続いているのは、確かな歌唱力を持つ川畑要、堂珍嘉邦両名のケミストリー(=相性)がよくて、それが多くのリスナーに支持されたことに他ならないわけだが、今回デビューアルバム『The Way We Are』を聴いてみたところ、いろんな面で聴き手を惹き付ける工夫(?)がなされた、言うなれば“巧みな作品”であることを理解した。正直言うと、ここまで筆者はそれほど真剣に彼らの音源を聴いたことはなかったのだが、そういう身からしても、CHEMISTRYはジャンルとしてコンテポラリーR&B、ソウルに分類されるグループであるという漠然としたイメージがあった。無論それはそれで間違いはないだろうが、少なくともこの1stの時点では、そうしたジャンルが突出した感じがないというか、いい塩梅にJ-POOPとして昇華させている印象だ。

そのサウンドは、概ね…というよりも大半の収録曲でリズムが硬い。この頃の流行だったのだろうか、スパニッシュ要素を取り込んだ楽曲もいくつか見受けられる(M2「合鍵」、M4「愛しすぎて」、M6「Point of No Return」など)。さらには──これは本作に限ったことではないようだが、いくつかの曲間にInterludeが組み込まれている(M4「愛しすぎて」、M7「C'EST LA VIE」、M10「君をさがしてた 〜The Wedding Song〜」など)。その容姿だけ見るとコンセプチャルであり、洋楽風…とまでは言わないまでも、バックトラックはヒップホップを意識した感じで、確かにコンテポラリーR&Bの匂いはする。結構匂う。だけれども、歌が入るとその匂いが消える。ていうか、ジャンル云々を感じなくなる。この辺は、メロディーラインと、その展開、そして歌唱法にあるような気がする。多分、意識的にそうしたのだと思う。

M3「PIECES OF A DREAM」、M6「Point of No Return」、M8「You Go Your Way」、M10「君をさがしてた 〜The Wedding Song〜」といった一連のシングル曲が顕著で、メロディが分かりやすい。所謂キャッチーとは少し違うかもしれないが、いずれも旋律が素直な印象である。そして──ここが肝心だと思うのだけど、意外なほどに歌い方も素直だ。ストレートな歌い方とかプレーンなヴォーカリゼーションとか言い換えた方がいいかもしれない。R&Bの歌唱というと、その他のジャンルに比べて、歌メロをその音符通りに歌うというよりも、フェイクやアドリブを交えて情感たっぷりに歌い上げるイメージはがある。しかし、『The Way We Are』収録曲、特に一連のシングルナンバーはそうではない。意図的に抑えている感じだ。特にデビュー曲であるM3は、その前のM2「合鍵」がイントロからスキャットを入れるなどヴォーカリゼーションの妙味を見せているので、余計にそう感じる。CメロにはR&Bらしい展開があるにはあるが、(この辺は「PIECES OF A DREAM」がデビュー曲であったからでもあろうが)明らかにフリーキーになり過ぎてない感じがする。

M6「Point of No Return」はM3に比べると、らしい歌い方も聴けるが、M8「You Go Your Way」やM10「君をさがしてた 〜The Wedding Song〜」は、やはりエモーションよりも丁寧さを優先しているように思う。これは、その歌メロとテンポ感からするとフェイクを多用するとそればかりが目立って、R&B臭が強くなり過ぎるとの配慮からではないかと想像する。確証はないけれども、M8は派手なヴォーカリゼーションを加えると(言い方にはかなり語弊があるがここは言わせて)おっさん臭くなるだろうし、M10はサビが繰り返されるのでそこにフェイクが入ると完全にしつこくなる(M10はアウトロに近くのここぞというポイントで歌い上げている)。

そうした抑制された(ように思える)ヴォーカルだけでないところも『The Way We Are』の優れたところ。80年代風ファンキーチューン、M7「C'EST LA VIE」や、Young-Holt Unlimited「Soulful Strut」へのオマージュを感じるポップソウルM12「Motherland」などもいいが、注目はやはり川畑、堂珍それぞれのソロ楽曲であろう。M5「BROTHERHOOD / KAWABATA and DABO」とM11「星たちの距離(ディスタンス) / 堂珍嘉邦 & KEIKO LEE」。NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのMCであるDABOがラップで参加したM5は、親しみやすくない…とは言わないが、ストリート感があってさすがに迫力がある。海外から見た日本観といった面持ちのトラックもおもしろい。M11はやわらかなエレピとアコギを基調としたジャジーなナンバーで、堂珍とKEIKO LEEとの歌唱はR&Bとはまた違った味わいを持つ。いずれもその他の楽曲とは一線を画している。これがあるかないかでこのアルバムの印象は大分変ると思う。仮の話で申し訳ないが、この辺りがなかったとしたら作品の印象は大分変ったであろうし、もし川畑、堂珍それぞれのソロがあと1曲ずつ増えていたとしたらバラエティに富んだ作品にはなったであろうが、随分とその容姿は変わったに違いない。こういうところも『The Way We Are』は“巧み”だと思う。

OKMusic編集部

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