中村中がゼロ年代の
最後の年に創り上げた、
人智を超えた大傑作
アルバム『少年少女』

『少年少女』('10)/中村中

『少年少女』('10)/中村中

2月16日、中村中、初のオールタイムベストアルバム『妙齢』がリリースされた。2006年のメジャーデビュー以来の代表曲14曲に加えて、昨年12月に配信された「一杯の焼酎」の新バージョン、新曲「あいつはいつかのあなたかもしれない」も収録しており、入門編としてだけではなく、ファンも必聴の作品集と言えそうだ。当コラムもこのタイミングで彼女のアルバム作品を紹介するのだが、中村中のアルバムと言えば、話題性や売上で考えたらデビュー作『天までとどけ』になるのかもしれないけれど、その作品性において、個人的には『少年少女』を強く推したい。これぞ、名盤と呼ぶに相応しいアルバムだと思う。

歌のメロディーラインの太さ

この『少年少女』は発表された2010年に聴いてすごいアルバムだと思っていたことがわりと鮮明に記憶に残っているのだが、今回改めて聴いてみて、これは2000年代邦楽の中で屈指の名作と言っていいのではないかと思った。個人的には、本作をゼロ年代ベスト10に推すことに何ら躊躇しないアルバムである。それほどの傑作だと思う。いや、自分でもかなり大袈裟な物言いであることを承知でさらに調子に乗って言うならば、邦楽オールタイムベストの一作品として推してもいいのではないかとすら思わなくもない。まさに名盤と呼べるアルバムではないだろうか。メロディー、サウンド、歌詞、そのすべてが上質である上に、それらが三位一体となり、音楽ならではの高揚感を聴き手に与えてくれる。その楽曲群がひとつにまとまることで、アルバムならではのテーマ、アーティストが抱くメッセージを浮き立たせる。音楽作品ならでは総合芸術性とでも言おうか、そういうものが確実に内在しているアルバムだと思う。未聴の人にはぜひ一度聴くことを強くお勧めしたい作品である。

本作のどこかどう素晴らしいのか、以下、解説していきたい。まずメロディー。これは『少年少女』収録曲に限らず、中村中楽曲の大きな特徴と言っていいと思うが、彼女が歌う主旋律はとても太い。“[太い]って何だよ?”と訝しがられると思う。自分で言っておいて何だが、自分でもそう感じる。だが、いわゆる個性的とも違うし、単にキャッチーというのとも違うし、その存在感がはっきりとしているという点で“メロディーが太い”と形容するのがいいような気がする。M1「家出少女」、M6「人間失格」、M11「不良少年」という本作の中心と言っていいナンバーが最も太いとは思うが、M4「初恋」にしてもM5「秘密」にしても、M8「戦争を知らない僕らの戦争」、M9「青春でした。」もそのメロディーは印象的だ。アルバムとなると、10数曲中1曲くらいはメロディーに重きを置かないタイプがあっても不思議ではないけれど、そういうこともない。M3「独白」は文字通りモノローグが大半を占めているものの、歌メロがコンスタントに襲ってくるし、それがまたパンチが効いている。歌手としてまったく逃げていないのは当然として、メロディーメーカーとして真っ向から音楽に向き合っていることを受け止めざるを得ないのである。

中村中の楽曲は昭和歌謡に近いとよく言われる。彼女自身もその影響を公言しているから、それはそうなのだろう。確かに、昭和っぽさを感じさせることも事実だし、『少年少女』にもその要素はある。一聴き手として素人なりに分析すると、音符の数が決して多くなく、音階の幅もそれほどあるわけではないけれども、耳に残る旋律という感じだ。落ち着いていながら、しっかりと自己主張している。そんな言い方でもいいだろうか。本作では(本作でも?)コンテポラリR&Bなどでよく見受けられるフェイクを使った歌唱法は見受けられず、しっかりと音符を追ったヴォーカルがほとんどだが、それも歌のメロディーがそこに鎮座しているからだろう。随分と独りよがりで抽象的な説明をしてしまったけれども、彼女の音楽ルーツを示せば、その辺りはよりはっきりとすると思う。中村中が最初に自分で買ったCDは研ナオコのベストアルバムだという。「泣かせて」(小椋佳作曲)、「あばよ」(中島みゆき作曲)、「愚図」(宇崎竜童作曲)などに衝撃を受けたと聞くが、この顔触れをみたら(もちろん、それらの作家陣の模倣をしているという意味ではなく)自身が歌い手になった時、歌のメロディに重きを置くのは当然だし、旋律がドシっとしたものになるのは自明の理と言っても大袈裟ではあるまい。

OKMusic編集部

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