AIがR&Bの真髄と
その潜在能力の高さを見せた
佳作『ORIGINAL A.I.』

『ORIGINAL A.I.』('03)/AI

『ORIGINAL A.I.』('03)/AI

2月24日、AIの新しいミニアルバム『IT’S ALL ME – Vol.2』がリリースされた。その3日後の2月27日には、コロナ禍で延期になっていた『AI 20周年記念TOUR “IT’S ALL ME”』の振替公演も、感染対策をしっかりと講じた上でひとまず無事に開催されたようである。2000年、シングル「Cry, just Cry」でデビューし、翌年の2001年に1stアルバム『my name is AI』をリリースしたAIは、デビュー20周年を迎えた。海外生活時のゴスペル・クワイア体験を活かした迫力ある歌唱で、日本の音楽シーンに本格的なブラックミュージック要素を紹介した第一人者と言っていい女性アーティスト。そんなAIのアルバムを紹介する。

Def Jam Japanの
女性アーティスト第一弾

AIのアルバム作品の中からひとつ選ぶとなると、彼女の最大のヒット曲「Story」が収録された4th『MIC-A-HOLIC A.I.』が順当なところだろうか。もしかすると、最初にチャートトップ10入りを果たした3rd『2004 A.I.』、あるいはチャート最高位ということで言えば5th『What's goin' on A.I.』かもしれない。筆者はデビュー前からAIを追いかけてきた…みたいなことが一切ないばかりか、彼女の代表曲をいくつか知っているくらいの半可通も半可通なので、本来ならば上記から選ぶのが筋だろうが、半可通は半可通なりに2nd『ORIGINAL A.I.』をチョイスした。

まずこのアルバム、タイトルがいい。当たり前のように人工知能が生活の入り込んでいる現代社会を先取りしたような…といった冗談はさておき、本作が発表された頃を振り返ると、何とも挑発的なタイトルだったように思えてならない。というのも、この時期“AI”がたくさんいたのだ。実名を書き出すと若干角が立ちそうなのでここでは詳しく述べないが(気になる方はググってください)、同時期に同じような名前のアーティストが何組かデビューしていたのである。とりわけ珍しい名前でもないし、ありふれた…と言ったら失礼だけど、今でも“あい○○○”や“△△あい”というシンガーはいらっしゃるわけで、あれはたまたま偶然に重なっただけだったのだろう。だとしても、当事者たちにとっては死活問題ではあったように思う。CDショップの棚はどうやって分けてたんだろうとか、ラジオで楽曲をオンエアする時にはパーソナリティやディレクターはさぞかし混乱しただろうとか、今となっても余計な心配すらしてしまうほどだ。

そんな状況をどこまで意識していたのか分からないけれど、その中にあって自作に“ORIGINAL”を持ってきたこと、しかも(ピリオドを付けてはいるものの)自分の名前の前に“オリジナル”と付けたことに強烈なプライドを感じてしまう。もちろん、当時の彼女のスタッフたちが他の“AI”を意識していたというのはこちらの勝手な想像だし、過度に差別化を図るような意図はなかったとは思う。しかしながら、時は、RIP SLYME、ケツメイシ、KICK THE CAN CREW、RHYMESTERなどがメジャーデビューを果たし、キングギドラが再結成した2000年代前半。日本のヒップホップ、R&Bシーンがロック、ポップスを凌駕せんと胎動し始めた時期である。『ORIGINAL A.I.』というタイトルにも似たようなメンタリティがあったことを思わず空想してしまうのだ。

『ORIGINAL A.I.』はDef Jam Japanからのリリースであった。Def Jam Japanは現在のDef Jam Recordings。AK-69、BTSらが所属していることでも知られるヒップホップ、R&Bを中心としたレコードレーベル、その日本支社である。そもそもDef Jam Recordingsとは、1980年代後半から1990年代にかけて米国で隆盛を誇ったレーベルで、全盛期にはPublic Enemy、LL Cool Jが所属しており、現在はKanye Westが在籍。その界隈に明るくない自分でもその名を知っているバリバリのヒップホップ、R&B専門レーベルである。日本支社は2000年に設立され、その第一弾アーティストとしてNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDが同年10月にアルバムをリリース。そのメンバーであるDABO、S-WORDもアーティスト契約を行なった(※S-WORDは2020年にグループを脱退)。AIはそのレーベルで女性として最初に契約したアーティストである。少なくともその2000年代前半において、Def Jam Japanがヒップホップ、R&Bシーンをそれまで以上に日本に根付かせようという志しを抱いていたのは疑うべきところではないだろう。まぁ、女性アーティストが所属することによってリスナーの裾野を広げようとしたと考えるのも自然だろう。NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのメンバーらと並んで、彼女は日本の音楽シーンへ切り込む先兵、切り込み隊長を担ったという見方は決して穿ったものではないだろう。

多彩なトラックと圧倒的な歌唱力

実際に『ORIGINAL A.I.』を聴いてみて、自説に対して確信に近い手応えを得た。収録曲は想像以上にヒップホップであり、想像以上にコンテンポラリーR&Bである。外形的なところで見ると、M2「2HOT(feat.SPHERE of INFLUENCE)」でKool & the Gang「Too Hot」を、M3「Summer Time」ではR. Kelly「Ignition (REMIX)」を、それぞれサンプリングしていること。あとは、M2とM6「PLAYBOY(feat.DABO)」とに客演があるとうことが、何ともそれらしい特徴として挙げられる。[過去の曲や音源の一部を流用し、再構築して新たな楽曲を製作する音楽製作法・表現技法のこと。または楽器音や自然界の音をサンプラーで録音し、楽曲の中に組み入れること]ーーすなわちサンプリングは、ヒップホップを語る上で欠かせない技術である([]はWikipediaからの引用)。今では手法も多岐に渡り、その是非が議論されているようではあるものの、サンプリングというテクニックが音楽に限らずその他のポップカルチャーに与えた影響は計り知れない。それをM2、M3のようにサラッと、しかもアルバム前半でやって見せたのはスマートだと思う。M2ではチリチリとアナログ盤特有のノイズが聴こえてくるのもいい感じだ。もしかすると加工した音をあとから加えたのかもしれないが、仮にそうだったにしても、オールドスクールなものへの敬意、愛情が感じられるところだと理解出来る。

また、M2でSPHERE of INFLUENCE、M6でDABOという、レーベルメイトのラッパーが客演していることに関して言えば、両名のヴォーカリゼーションはドスが効いていると言ったらいいか、言葉を選ばずに言えば、悪い奴な感じ(言葉を選べば、ストリートな感じ)で、AIのヴォーカルとのコントラストとして十分すぎるほどに機能しているのもいいところだ。これは後程、述べると思うが、本作の収録曲で垣間見える物語性においても重要な役割を担っている気もする。

いい意味でサウンドが雑多なのもヒップホップ、R&Bならでは…なところで、それもまた『ORIGINAL A.I.』のいいところだろう。アーバンな雰囲気のM2やM5「PARADISE」、アコースティックな音を取り入れたM11「My Friend」などは普遍的な印象。その一方で、5thシングルにもなったM4「Thank U」では、ラジオのチューニング音や和風な弦楽器(ハープかもしれない)など、まさに雑多な、いろいろなサウンドを聴くことができる。M7「Girls’Talk」は古のSF映画のような電子音から始まったかと思えば、全体にはハードロック的ギターサウンドをベースにしているところが、プログレ風味が感じられて面白い。

面白いと言えば、M9「言ノ音」。いなたさすら感じられるシンセの音が1980年代風と言えば言えるのだけれども、メロディー感はエスニックであって、時代も地域も超越するかのような不思議な雰囲気を醸し出している。オープニングがM1「最終宣告」で、ラストがその英語版のM12「LAST WORDS(feat.JOE BUDDEN)」であって、アルバムの頭とお尻が同じ曲という手法自体は本作発表の時点でも決して新しいものではなかったものの、バラエティーに富んだアルバムをまとめ上げるには有効であったことは間違いない。律儀な感じというか、几帳面な性格が垣間見えるようで楽しくもある。

それらのトラックはやはりループが多い。概ねループで構成されていると言ってもいいかもしれない。それがコンテンポラリーR&Bであると言ってしまえばそれまでなのであるが、やはり若干単調な印象ではある。が、そこを補って余りある…どころか、トラックのループ感を感じさせないだけの歌唱力が、これまた全曲にあると言ってもいい。全曲なのでことさらどの楽曲がこうだと話を限るものではないけれども、強いて推しを挙げるなら、M4「Thank U」だろうか。雑多なサウンドに対抗してか、シングルチューンだけあって端からその辺を意識していたのか、それは分からないが、フェイクが多く、聴いていて飽きない。高音の自ハモではレンジの広さが分かるし、ラップもあるのでヴォーカリゼーションの巧みさも分かる。

M9「言ノ音」辺りもそうで、これはトラックだけでなく、ヴォーカルの主旋律も淡々としているタイプだが、その背後のコーラスでレンジの広さを聴かせるという工夫が見られる。巧みだと思う。また、徹頭徹尾、本場のヒップホップに則っているかというと、そうでもない。個人的には、未だにゴリゴリのヒップホップに慣れないところもあって、正直言って中盤くらいはやや食傷気味に感じるところもなくはなかったのだが、後半でそう思ったことを反省することになった。

M10「LIFE」では現在のAIに通じると言っていい、ゴスペル調の迫力のある歌唱を聴かせ、M11「My Friend」は曲の展開そのものがJ-POP的で、サビメロのポップさ、キャッチーさで尻上がりに盛り上がっていく(?)。アルバム全体を通しての抑揚を計算しているという見方もでき、一アルバム作品としての功名さだけでなく、ヒップホップ、コンテンポラリーR&Bだけに留まらないAIというアーティストの潜在能力を示していたようにも思える。

OKMusic編集部

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