『ケツノポリス2』で一気に
ブレイクしたケツメイシが
“こっちおいで”と大衆を巻き込んだ
楽曲の決め手は?
ジャンルを超越したグループ
デビュー作に見る
“All welcome”な空気
自らの表現を模索してメジャー化
《これってrap 駄洒落 いやわからね/ただ これでは お客は沸かんね》
《夜中には都内CLUB遊び 明日の一限は授業なのに/楽しくて断れん誘い まだ慣れないでかめの服を纏い/ライムスター・キングギドラ・ペイジャー/歌詞覚えた 全てを歌えた》
《That's ハーコーラップ/うけねえ ならしょうがねえな 俺らのライブ》(M11「ケツメの作り方」)。
M11「ケツメの作り方」の歌詞は「こっちおいで」の前日譚。文字通りのグループ結成秘話と言っていい。ペイジャーはMICROPHONE PAGERのことで、登場する名称はいずれも1990年代前半に日本のヒップホップをけん引したグループである。ここからは分かることは、ケツメイシの先たちからもろに影響を受けつつも、自分たちなりの表現を模索していた様子だ。楽曲が「こっちおいで」のサビを引用して終わっていくということからすると、極端なことを言えば“子供に戻って朝まで踊れる”ような音楽性を目指したということだろう。初めてケツメイシのステージを観る人を半ば強引に乗せること。やや語弊がある言い方かもしれないが、ある時から彼らは大衆化に舵を切ったことは間違いない。堕ちたのではない。自ら身を投じたのだ。“遠く届くまで叫び、歌い、踊りまくる”ためにはメジャーフィールドが最適だったのだろうし、その判断が正しかったことは、メジャー進出後のシングルの好レスポンスと、メジャーで最初のアルバム『ケツノポリス2』がチャート初登場1位を獲得したことではっきりと証明された。
トラックメイキングの確かさ
彼らの特徴のひとつと言えるレゲエはM5「人は」~M6「侍ジャポン」と続くが、注目はM14「わすれもの」だろう。レゲエと言うと、それこそ“子供に戻って朝まで踊れる”じゃないけれども、楽しさを前面に出すものが多いイメージだが、ロストラブソングに合わせる辺りが粋というか、《恋の終わり》も《冷たい風》も《冷たい雨》もより強調されて、プロフェッショナルが作るサウンドといった感じがする。
アーバンなサウンドもケツメイシの得意技。本作ではM3「ビルの谷間」やM12「よる☆かぜ(album mix)」がそれに当たるだろうか。特にM12「よる☆かぜ(album mix)」のキラキラとした感じは本当によくできている。どなたかのブログだったかで、“この曲をBGMにするといつものドライブも別世界を走っているようになる”みたいなことが書いてあったような覚えがあるが、その気持ちも十分に理解できるほど、この楽曲のトラックは洒落ている。彼らが大ヒットグループになることを大きく後押ししたナンバーであることは間違いなかろう。
また、これは完全な私感ではあるが、洒落たサウンドがある一方で、ソウルっぽいM4「高値の花」や、セカンドラインを導入したM9「雲の上から」、前述したブルージーなM11「ケツメの作り方」など、これまた既存のジャンルへの敬意を払っている感じがするのも『ケツノポリス2』、ひいてはケツメイシの無視できないポイントではないかと考える。トラックの元ネタは分からないが、彼らがヒップホップ・マナーをないがしろにしていない感じは伝わってくる。M6「侍ジャポン」の《新しい物 古き良き物も この音に乗せて探し出そう/忘れず取り戻そう》は言い得て妙である。また、音のアナログ感も手伝ってか、何となく人力感があるのもいいところだと思う。
汎用性が高く、前向きなリリック
《日が昇って朝の目覚め/都会への重い扉目掛け/今日の戦いの火蓋はすでに切った/Don't stop fight war ビルの谷間で》(M3「ビルの谷間」)。
《人は悩んで 本当の意味を知る/人は泣き止んで 少しだけ強くなる/人は悩んで 生きてる意味を知る/人は泣き止んで 明日の朝は笑える》(M5「人は」)。
《現在が指す時は常に流れの中で時が君に/もう恐くはないだろう/現在が開けた扉閉めず開けたままの君の心で/もう恐くはない》(M8「手紙~現在~(album version)」)。
《いつもここ広がる雲の上/皆の住む町から遥か遠くで/ただ見守るこの世の行く末/幸せ祈る常に胸の奥で/いつからか自ら雲の上/今日も今日という名の日が暮れ/明日は明日でまた夢見させてくれ/いつまでもいつでも雲の上》(M9「雲の上から」)。
《まだ見たことない 未来で/勇敢に戦う 俺がいる/きっとそうだろ どうなの?/未来の俺らの 状況は》(M13「手紙~未来」)。
《ずっと友だち だが時は経ち/変わりゆく街の中で 共に育ち/この街から力溜め 一からの/スタートを切った君に 幸あれ》(M15「トモダチ」)。
歌詞はほとんど説明不要だと思うほど、分かりやすい。いい意味で時代、状況もほとんど不明であり、これまた前向きなものがほとんどである。汎用性が高い。あるいは置き換えが利くと言ったらいいだろうか。ここもまた、彼らが多くのリスナーから支持される最大の要因だろう。
キャッチーなメロディー。凝ったサウンド。そして、分かりやすく、ポジティブなリリック。これだけ揃えば、例え、まだヒップホップやレゲエが一般的ではない頃だったにしてもミリオンになるだろう…と考えがちだが、それはどうだろうか。そっぽを向かれることはないにしても、“まじめか!?”と思われて、1~2曲でシーンからフェードアウト…なんてことになったかもしれない(知らんけど…)。しなやかな軽さを兼ね備えていたからこそ、ケツメイシの成功があったのではないいかと想像するのだが、その軽さとは、ずばりエロティシズム──所謂エロである。こちらも説明不要だろう。あんまりエロが嫌いな人はいないから、エンターテインメントのアクセントとして、スパイスとしては、ある意味、必須のものとも言える。まぁ、M4「高値の花」の中盤以降とか、歌詞はないけどM7「中出し(inst.)」というタイトルとか、ケツメイシの場合、案外それがエグかったりするのだが、16曲の中の2曲、8分の1=12.5パーセントくらいのバランスだからいいのだろう。その分量が20パーセント以上になると引く人も出てくるし(特に女子は)、特に『ケツノポリス2』はメジャーデビュー作であったからして初見の人も多かっただろうから、それも止むなし……いや、当然のことだったと思う。その辺からもケツメイシが大人のグループで、いい意味でしたたかだったことも推測できる。
TEXT:帆苅智之