『MUSTARD』に残る
ミクスチャーサウンド
シーンに登場するのが早すぎた
M-AGEの革新

『MUSTARD』('92)/M-AGE

『MUSTARD』('92)/M-AGE

昨年、再結成したM-AGEが2月10日にベストアルバム『RE:CONSTRUCTION1991-1994』を発表した。約27年振りの新曲「BIRD CAGE」を含む全30曲という大ボリュームの作品集で、この上ない入門編となっている。当コラムでは彼らのデビュー作とともに、M-AGEの特徴と彼らがいた時代を振り返りたい。

期待を背負った大型新人

1992年にメジャーデビューしたM-AGE は1994年に解散している。活動歴はわずか3年間くらいなので、今、その名前を聞いても“何それ?”という反応が、残念ながら大勢を占めるんじゃないかと思う。ファンだったことを自認する人でもなければ、そんなバンドがいたことすら忘れてしまっていても不思議ではなかろう。彼らが活動していたのはおおよそ27~29年前となるので、この度の再結成のニュースを目にして“誰それ?”と思うほうが普通の反応かもしれない。というか、20代、30代は、余程、特殊な事情をお持ちでなければ、ほとんどの人は“何それ?” “誰それ?”となるとは思う。

ただ、M-AGEが活動していた時期を目の当たりにしていた人たちの中には、彼らを眩しく見つめていた人は多かった気はする。もっと言えば、ある種の羨望の眼差しを向けていたミュージシャンやバンドは決して少なくなかったのではないだろうか。筆者はわりと華々しかった彼らのメジャーデビューを覚えている。ハワイでデビュー記者会見を行なったとか、史上最速でNHK紅白歌合戦に出場したとか、そういうことではない。あくまでも“バンドとしては…”と前置きをしなければならないだろうが、側から見ていてちょっとしたシンデレラストーリーであるように見えた。それは当時の彼らの露出、宣伝戦略などを鑑みて個人的にそう感じていたということなのだが、とりわけ1991年に発表されたコンピレーションアルバム『DANCE 2 NOISE 001』へ参加した時の印象が大きい。

彼らのメジャーデビューは前述の通り1992年。同年1月21日にリリースした1stシングル「WALK ON THE MOON」、1stマキシシングル「3 RE-MIX + 1」がM-AGEのメジャーでの最初の作品である。『DANCE 2 NOISE 001』はその前年に発売されたものだ。このコンピ盤はビクターエンタテインメントのレーベルであるインビテーションからリリースされていたもので、1993年の『006』までシリーズが続いた作品集である。簡単に言ってしまえば、インビテーション所属のアーティストのソロ作品や新人バンドの楽曲を集めたオムニバスであって、とりわけ『001』はシリーズの第一弾ということもあってか、参加面子にも力が入っていた。1曲目がBUCK-TICKの星野英彦のソロ(たぶん、これが彼の初めてのソロ作だったと思う)で、ラストがBUCK-TICKの今井寿とSOFT BALLETの藤井麻輝とのユニット、SCHAFT(こちらもこのユニットの初音源だったように記憶している)。その他、レピッシュのtastuのソロ作もあり、当時のインビテーションの威信を示すような作品で、その雑多かつ斬新な内容もロック好きの間でわりと話題となっていた。その『001』が発売された時はアルバム参加アーティストによるイベントライヴがあったとも記憶している。M-AGEは新人ながらそのコンピに参加していたのである。新人アーティストは彼らの他にも数組いたが、M-AGEは同作の2曲目に置かれていた。通常、単体のアーティストであればシングル曲などを持ってくることが多いのが2曲目だ。お馴染みの曲や推し曲を配置する位置である。コンピなので単純にそれが当てはまるわけでもなかろうが、星野英彦のソロに続いて登場するとは、新人バンドの扱いとしては破格…とは言わないまでも、レーベルサイドからなかなかに力を入れられていたことは想像できるし、その想像は間違ったものではないだろう。

デジタル、ヒップホップ要素の融合

『DANCE 2 NOISE 001』が1991年10月の発売。その3カ月後にシングルとマキシでメジャーデビュー。そして、そこから1カ月を経て、まさに満を持して発表されたのが『MUSTARD』である。コンピ、シングル&マキシで小出しにしてきたM-AGEの音楽性が本作でついに全貌を露わすことになったわけだが、それが何だったかと言えば、端的に言って、ギターサウンドとデジタルとの融合、ロックバンドへのヒップホップ要素の注入ということになるだろう。 “…それが特徴?”と思われた読者もいらっしゃるかもしれないけれど、その反応は半分正しいとは思う。今やバンドサウンドにハウスやテクノを取り入れることは珍しくも何ともない。正式メンバーにDJがいるバンドも少なくなくなってきた。ただ、M-AGEのデビュー、『MUSTARD』のリリースは1991~1992年の出来事である。Dragon Ashのメジャーデビューが1997年だから、それより5、6年も早かったわけで、M-AGEはまずそのスタイル、音楽性が相当画期的なものであった。もっともそれは彼らのオリジナルというものではなく、イギリスのバンド、Jesus Jones辺りがその世界的な先駆者ではあった。彼らもその多大なる影響を当時から公言して憚らなかった(そこはM-AGEの潔いところではあったと思う)。影響をバンドに取り込むのも早かった。Jesus Jonesの1stアルバム『Liquidizer』が1990年の発売で、彼らの代表作でもあり、グラミー賞にもノミネートされたアルバム『Doubt』が発表されたのが1991年だから、気を見るに敏…を地でいった感のあるM-AGEであった。

その取り込み方も巧みだった。随分と堂に入っていたと思う。今となってはこのスタイル自体があまりにも普通のこととなっていて、うっかりしているとその特性を聴き逃してしまいそうだが、ヴォーカル、ギター、ベース、ドラム以外の音を、それらに重ねたり、それらの隙間を埋めるように鳴らしたりしている。どの楽曲が…というのはなく、全編がそうである。味付けの濃淡、メリハリの強弱は若干あるものの、どれもこれもデジタル、ヒップホップ要素との融合を殊更に押し出した印象であって、この時の彼らの意欲が色濃く反映されているように感じられる。とりわけスクラッチとリズムである。どこをどう切り取っても入っている…と言うのは流石に大袈裟かもしれないが、ターンテーブルから出ているであろう♪キュッキュッ〜という鳴りと、明らかに生ドラムとは異なる機械的な拍は、ほぼ全編を支配していると言っていい。そこがJesus Jonesに類似しているため、“お手本通り”と揶揄される向きもあったようだが、いやいや、どうして、時期を考えれば十分に立派なものであっただろう。バンドサウンドの疾走感を増幅させたり、それまでのロックバンドとは異なる躍動感を出したりすることにおいては、問題なく機能していた。その心意気は今となっても大いに買えるところだとも思う。そこまでの日本のロックバンドにはなかった独特のダンサブルさ。それが『MUSTARD』には圧倒的に存在することは間違いない。

歌メロの大衆性も評価したいところではある。当時の最先端だったサウンドを導入しつつも、衒学的にもマニアックにもなっていないにはポピュラリティーのある旋律にあるのは疑うまでもないように思う。オープニングのM1「SILENT FEARS」からして、そのギターサウンドはかなりラウドで、KOICHIRO(Vo)の歌唱もワイルドな側面を見せながら進んでいくが、《夜は青く逃げる者には 足跡残す月明りだけ/朽ち果ていく 枯れた日々から /目をさませと 声がひびく》辺りで一気にポップに転じる。その後の《Silent Fears》のリフレインは、ロック的なカタルシスを持ちながらもキャッチーではあって、分かりやすいというか、親しみやすいナンバーではある。メロウな歌も少なくない。M2「CALL ME (REMIX)」もそうだろうし、ミディアムテンポのM4「BLOOMING OUT OF SEASON」やM9「VISITOR」ではゆったりとした歌唱を聴くことができて、なかなかいい。この辺りからはどこかグラムロック的な匂いを感じなくもなく、KOICHIROのヴォーカリストとしての資質はそのセクシーさにあったのではないかと思ったりもした。ゆったりした…というところで言えば、M6「UNDER THE CUBIC SKY」などもミディアムに分類されるものではあって、こちらもヴォーカルラインはゆるやかなのだが、気怠い感じのノイズギターと合わさって、どこかポジティブパンク的な雰囲気を醸し出しているのも面白い(サビで歌メロが開放的に突き抜けていく感じはさらに面白いし、ここもまた歌の大衆性を感じさせるところではある)。

OKMusic編集部

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