『Mother Father Brother Sister』
から窺い知る日本音楽界における
MISIAの功績

『Mother Father Brother Sister』(’98)/MISIA
祝、レコ大・最優秀歌唱賞受賞
とにかくMISIAのテレビ出演は極端に少ない。トーク番組などへの出演もほとんどないが、歌番組への出演も数えるほどである。ライヴの生中継を除けば、最初に歌番組へ出演したのはデビューから実に14年後。2012年の『NHK紅白歌合戦』だったというからちょっと驚きだ。『NHK紅白歌合戦』は3度出場しているが、そのうちのひとつである昨年の『NHK紅白歌合戦』にしても、2015年以来、3年振りだっだ。最優秀歌唱賞受賞ということで昨年12月30日、新国立劇場のステージから「逢いたくていま」と「アイノカタチ feat.HIDE(GReeeeN)」を歌う姿が中継されたが、これが民放初ステージだったというのも不思議なくらいである。端からテレビ出演を考えていないタイプのロックアーティストは別にしても、同期/同世代でこれほどまでにテレビ露出のないシンガーは稀だろう。その昔、『ザ・ベストテン』への出演を拒否したシンガーのほうがよっぽどテレビで歌っていたような気がする(気がするだけで未調査)。
TVドラマの主題歌も数多く手掛けているので、テレビ媒体とまったく無縁というわけではないものの、彼女はほとんどテレビに依存することなく、そのポジションを確立してきたアーティストとは言える。そんなMISIAが一時期に比べて視聴率は低下したとは言え、いまだ年末の風物詩的テレビ番組でもある日本レコード大賞において最優秀歌唱賞を受賞したというのは、彼女のその確かな歌唱力が広くお茶の間へ周知した証拠でもあろう。三度目の出場となった昨年の『NHK紅白歌合戦』では、レコ大に続いて「アイノカタチ」と、サプライズでデビュー曲「つつみ込むように…」を歌ったが、それを司会の嵐・櫻井翔が「高校生の頃にフラッシュバックした」と語っていたのも象徴的。国民的グループのメンバーをしてそう言わしめるのだから、MISIAの歌とヴォーカリゼーションもまた国民的なものとなったと言ってもいいのではないかと思う。
R&Bを日本に根付かせた礎
今回『Mother Father Brother Sister』を聴いて感じたのはそこである。どうしたらスムーズにMISIAというアーティストの本質を一般層に届けることができるか。制作サイドがそこを丁寧に考えた様子が伝わってくるような作りであると思う。それが上手くいったからこそ本作はダブルミリオンを記録したのだろうし、そして、それがコンテンポラリーR&Bという音楽ジャンルを日本に根付かせる礎になったという見方は、あながち間違いではなかろう。