【ライヴアルバム傑作選 Vol.2】
ソウル・フラワー・
モノノケ・サミット
『アジール・チンドン』は
阪神淡路大震災の被災地から生まれた
日本の流行歌の正統なる後継

『アジール・チンドン』('95)/ソウル・フラワー・モノノケ・サミット
慰問ライヴで醸成された楽曲
本作が録音されたのは1995年夏から秋にかけてであるが、収録曲が醸成されていったのは1995年2月以降のことである。同年1月17日に発生した阪神淡路大震災。その被災地で行なわれた慰問ライヴにて披露された楽曲群だ。披露というと、自分たちの持ち歌、予め決まったレパートリーを演奏したものと思われるかもしれないが、それだけでなく、慰問ライヴに集まった人々から教わった楽曲も相当数あったという。集った人たちは高齢者も多かったというし、何しろ被災者であるから、楽器を持ち寄って丁寧に楽曲を教えるなんてことはなかっただろう。口伝も多かったに違いないし、サビのメロディーだけ教わってそこから楽曲に仕上げていったものもあったかもしれない。そう考えると、ソウル・フラワー・モノノケ・サミット(以下モノノケ・サミット)の楽曲は、まさに“現場”で“醸成”されたものだと言える。本作発表時点でのレパートリーは50曲以上あったそうで、『アジール・チンドン』にはその中から選りすぐりの9曲が収められている。
ご存知の方も多いとは思うが、まずは本作ならびにモノノケ・サミットの経緯を改めて記す。モノノケ・サミットは、ソウル・フラワー・ユニオン(以下SFU)の別ユニット。念のために説明すると、SFUは1993年にニューエスト・モデルとメスカリン・ドライヴの統合という形で結成されたバンドで、この時点で2枚のオリジナルアルバムを発表していた。
SFUがどういうバンドであるか。乱暴に説明すると、その音楽性はミクスチャーと言うことができる(本来であれば過去の記事を引用するのがいいのだろうが、当コラムではかつてSFUを取り上げていなかった…。その内、書きます)。そう言うと、パンク+ヒップホップ辺りを想像させるかもしれないが、彼らの場合はそうではない。それだけに止まらない。かなり広義のミクスチャーだ。Wikipedia先生の力をお借りすれば、[日本列島周辺に住む民族の民謡(ヤマト、琉球、朝鮮、アイヌ等)や大衆歌謡(壮士演歌、労働歌、革命歌等)、アイリッシュ・トラッドやロマ音楽などのマージナル・ミュージックをロックンロール、リズム・アンド・ブルース、スウィング・ジャズ、サイケデリック・ロック、カントリー、レゲエ、パンク・ロックなどと融合させた音楽を展開]とある([]はWikipediaからの引用)。しかも、それら雑多な音楽を単に合わせるだけではなく、実に巧みに編み上げているというか、多彩な音楽性を違和感なくシームレスに重ね合わせている。簡単にミクスチャーという言葉を用いたが、これはもうハイブリッドと言ったほうがいいだろう。そういうバンドである(ちなみに、SFUの前身であるニューエスト・モデル はそれぞれ当コラムでも紹介している)。
https://okmusic.jp/news/68162/
■『スプーニー・セルフィッシュ・アニマルズ』/メスカリン
・ドライヴ
https://okmusic.jp/news/100106/