まさに無敵! Xのメジャー1stアルバ
ム『BLUE BLOOD』は問答無用に素晴ら
しい作品だ!

80年代後半のバンドブーム期に登場し、シーンの話題を独占するほどのムーブメントを起こしたX。ハードロック、ヘヴィメタルをベースに持ちながらも、ハイスパートなサウンドメイキングだけでなく、美しい旋律を多様に聴かせる方法論を携えた実に懐に深いバンドだ。その天賦の才はメジャー1作目から余すところなく発揮されている。

 1980年代後半に所謂ハードロック、ヘヴィメタルという音楽性でシーンに切り込み、そのトップに上り詰めたばかりか、折からのバンドブームの頂点に君臨したX(現:X JAPAN)は、邦楽ロック史において一目も二目も置かれるべき、まさにモンスターバンドである。少なくとも1980年代後半において、ロック好き、音楽好きを除く一般リスナーにとってのハードロック、ヘヴィメタルというジャンルは敬遠傾向にあった。当時ガンズ・アンド・ローゼズが世界的ブレイクを果たしていたとはいえ、日本はまさにバブル期の真っ只中。DCブランドが持て囃され、学生までがソフトスーツに身を包み、ウォーターフロントのカフェバーで洒落たカクテルを傾けることがナウいとされていた頃である。人々を熱狂させていた音楽は、芝浦ゴールドやマハラジャといった高級ディスコでかかるユーロビートか、トレンディドラマの主題歌が関の山。長髪にバンドロゴの入ったTシャツ、あるいはスタッドを付けた革ジャンにブーツというファッションは嘲笑の対象であったし、ハイトーンのヴォーカル、ギターの速弾き、長尺な各パートのソロタイムは一部好事家の嗜好品といったイメージを持つ人が多かったに違いない。
 Xがメジャーデビュー前に人気バラエティーTV番組『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』に出演したエピソードは有名で、当時はこれをきっかけに「ヘビィメタルをお笑いネタにした」と同業者から疎まれることになったそうだが、そもそも“早朝ヘビメタ”や“ヘビメタ運動会”という企画自体、すでにヘビィメタルが一般視聴者からはお笑い対象となっていた証拠だろう。Xがきっかけで当該ジャンルがお茶の間の笑いネタになったという指摘は少々お門違いではなかろうか。「いくら良い曲を作っていても聴いてもらえなければ意味がない」という考えから“知名度が必要”と判断してバラエティー番組に出演したバンド側の判断は個人的には正しかったと思うし、今となってはあの時期にお茶の間に分け入った彼らの勇気を讃えたいほどだ。というか、このエピソードの裏には「出自がどうであれ、いい楽曲を持つバンドは必ず世間に認知される」といったメンバーの確信があったのではないかと想像する。実際、1988年に自らのレーベル“エクスタシーレコード”から発表したアルバム『Vanishing Vision』からすでに他の追随を許さないポピュラリティーの高さを発揮。そして、翌年リリースしたメジャーデビューアルバム『BLUE BLOOD』ではさらなるハイクオリティーをまざまざと見せつけ、その年だけで60万枚のセールスを記録し、邦楽シーンに地殻変動を起こした。
 このアルバム『BLUE BLOOD』。オープニングナンバー「PROLOGUE (~WORLD ANTHEM)」からして素晴らしい。これはフランク・マリノ&マホガニーラッシュのカバー曲でテンポは原曲とほぼ変わらないが、フルオーケストラとの相性がよほど良かったのか、X版にはオリジナル以上の雄大さと開放感がある。オープニングとしては満点の出来である。そして、後半のTOSHIのナレーションから続く2曲目「BLUE BLOOD」がこれまた超絶にカッコ良い! 何よりも演奏の緊張感がXというバンドのスタンスを雄弁に物語っている。手数、足数の多い性急なリズムを刻むYOSHIKIのドラムに、HIDE、PATA、TAIJIの弦楽器が折り重なるように乗り、その上にTOSHIが歌う日本らしい情緒感あふれるメロディー──これぞXだ。そのアレンジの妙が最後まで持続するためか、この楽曲に限らず、Xの楽曲には所謂ハードロック、ヘヴィメタル特有の長めの間奏も少なくないのだが、聴いていて飽きない。2曲目まででXの世界にグッと引き込まれる『BLUE BLOOD』であるが、このあとがまたすごい。「WEEK END」では8ビートR&R、「EASY FIGHT RAMBLING」ではシャッフルと、楽曲毎にリズムが変化。そこから「X」で再びヘヴィメタルに回帰したかと思ったら、「ENDLESS RAIN」ではバラードと、バンドとしての懐の深さを露呈させる。また、リズムこそ異なるものの、5つのパートの相互関係は大きく変わることはなく、バンドサウンドの巧みさも確認できる。ここでアルバムの半分なのだが、ここに「ENDLESS RAIN」を配置してあるのも心憎い。めまぐるしくリズムが変わってきたところにピアノ&フルオーケストラの美メロ──本能的に感動する。
 そして、「紅」である。ストリングス、ギターのアルペジオからの歌メロ(しかも自ハモ)と前曲の流れからうっとりと聴き入りそうな流れから一転、ご存知の通り、疾走感あふれるリズムに展開するナンバー。絡み合うザクザクしたギターリフとベースライン、ドラムのフィルが拮抗するさすがのバンドアレンジを聴くことができるが、サビメロのキャッチーさも秀逸だ。Xの歌には日本土着のメロディー感があると個人的には思っている(煎じ詰めればXのすごさとは、和メロとヘヴィメタルとを融合させたことではないかとも思う)。特にこの「紅」はその最たるものといった印象で、アレンジを変えてテンポを落とせば北島三郎御大や五木ひろし御大が歌っていてもおかしくないとすら思うほどである。まぁ、それは個人的な感想としても、Xが大衆から受け入れられた要因は間違いなく、老若男女が親しめるメロディーにあったことは疑う余地がなく、「紅」はベスト盤を制作する際のファンの人気投票で1位にもなった楽曲であり、Xナンバーのなかで最も大衆性のあるメロディーを備えていたと言っても過言ではないだろう。その「紅」に続いて、民族音楽風のインスト曲「XCLAMATION」〜本作中最速最短で駆け抜ける「オルガスム」〜HIDE作曲のHIDEらしいポップさにあふれた「CELEBRATION」と、これまたバラエティー豊かに突き進み、10曲目「ROSE OF PAIN」に辿り着く。バッハの「フーガ ト短調」を随所に取り入れた11分を超える大作で、メロディアスさに重厚感が加わり、耽美と退廃を併せ持った、これもXにしかできない楽曲である。組曲的な構成だが、クラシカルな手法に留まることなく、後半でヘヴィメタルに展開するのはバンドとしての面目躍如だろうか。聴き応え十分。本作のハイライトである。そして、前作『Vanishing Vision』に未完成のまま収録されていたミディアムバラード「UNFINISHED」、その完全版でアルバムは締め括られる。
 静と動、秩序と混沌、古典とニュータイプ、大衆性とアバンギャルド──あらゆる相反する要素を一枚のアルバムにまとめ上げ、それらが一塊になって聴く人を刺激する芸術性。ハードロック、ヘヴィメタルを出発点としながらも、そこに留まることのないポジティブな若きスピリッツ。多くの人たちに愛されないわけがない大傑作である。懺悔の意味を込めて正直に告白すると、筆者自身、『BLUE BLOOD』のレビューを依頼された時点ではやや半笑いの対応であった。「X? 随分聴いてないけど、メロディックなドコドコ(=ツーバス)でしょ?」くらいの感覚だった。だが、しかし──半笑いだったことを本当に申し訳なく思うのだが、本稿作成にあたって約15年振りに『BLUE BLOOD』を聴いたら、もうアドレナリンが出っ放し、アガりっぱなしで、図らずもこの原稿は全曲解説のようになってしまった次第である。駄文ではあるが、その熱量が少しでも読者に伝われば幸いである。そして、今一度、嘲笑したことを謝ります。すみませんでした。さて、そのX(現:X JAPAN)。大ブレイク後は解散、TOSHIのスキャンダル、HIDEとTAIJIの急逝等、いろいろあったが、現在は海外ツアー、ドームやアリーナ公演という大規模なライヴを中心に活動を展開しているのは皆さんもご存知の通り。今秋には横浜アリーナでのライヴを行なったあと、初の米国ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン公演を実現させる予定だ。日本のサブカルチャーを代表する存在として今以上に世界各国に分け入ってもらいたいし、日本を席巻した80年代後半のムーブメントの再来とばかりに今度は世界中にX旋風を巻き起こしてほしい。

著者:帆苅竜太郎

OKMusic編集部

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