『TRICERATOPS』は、リフ、リズム、
メロディーの三位一体で、1stアルバ
ムにしてTRICERATOPSの才能を如何な
く示した名盤!

不倫だ、解散だと、ここまで余り景気のいい話題のなかったように思う芸能シーンのなかで、TRICERATOPSの和田唱と女優の上野樹里との結婚発表は数少ない明るい話題だったように思う。ただ、ワイドショーでの和田の取り上げられ方が、“料理愛好家の平野レミの息子”と言ったような形容も少なくなかったようで(まぁ、あのお母さんのインパクトからすると詮無きことかとも思うが)、それを見聞きして「ちょっと待て!」と思ったのは自分だけではあるまい。和田唱はそんな軽い扱いでいいわけがない。日本を代表する3ピースロックバンド、TRICERATOPSのヴォーカル&ギタリストなのである。今回の慶事を機に平野レミさんが開発した多機能鍋“平野レミの鍋 ドゥ! レミ・パン”(通称:レミパン)を使用している方々にも、ぜひTRICERATOPSを聴いてほしいものである。

ロックの条件を満たす3ピースバンド

「ロックとは何か?」なんてことはここで軽々に語れるものではないが、漠としながらも「これはロックだ!」と断言できるものがいくつかある。そのひとつにディストーションの効いたエレキギターの音が挙げられると思う。まぁ、歪んでいりゃいいのかという問題もあろうが、あのガツンとした音色、音圧はロックの十分条件と言える。さらに付け加えるならば、それがキャッチーなメロディーの繰り返し──所謂リフによって成り立っているなら、それはもう完璧なロックと言っていいのではないだろうか。例えば…なんて具体例を挙げようと考えたが、枚挙に暇がないとはまさにこのこと。100曲や200曲では足りないだろうし、ロックファンそれぞれに「これだ!」というギターリフがあるだろう。もちろん、日本のロックバンドの中にもカッコ良いリフを持っているバンドは少なくない。BOØWYがそうであるし、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTやくるり、あるいはBUCK-TICKやX JAPANもそうだ。そこから代表的なバンドを挙げるのはこれまた至難の業であることは間違いないが、TRICERATOPSにその名を挙げても異論は少ないのではなかろうか。僭越ながら個人的には、TRICERATOPSは邦楽ロックバンド史上トップクラスの“リフ番長”ではないかと思うほど、彼らのギターリフはカッコ良い。
加えて、ダンサブルなリズムとキャッチーな歌メロがそこに絡まってくるのがTRICERATOPSの特徴(ダンサブルなリズムとキャッチーな歌メロに、カッコ良いギターリフが絡まっているとも言える)。まず、リズム。メンバー自身、“ロックで踊る”ということがバンドのテーマであることを公言しており、彼らの楽曲には4つ打ちリズムを用いた楽曲が多い。所謂ディスコビートと言われるものだが、このディスコビートは単純なだけに案外使い方が難しい。4つ打ちが執拗なまでに繰り返されると、ディスコビート本来の原始的なトランス感を生み出して、それはそれで気持ちがいいのだが、3分間のポップミュージックで単に♪ドンドンドンドン♪を繰り返すと、抑揚のなさが仇になってか、わりと馬鹿っぽく聴こえることがなくもない。だが、そうではなく、ロックミュージックならではの高揚感を与えてくれるのがTRICERATOPSの楽曲だ。歌メロのキャッチーさについては、「今さらここで説明する必要があるだろうか?」と言いたくなるほど、和田唱(Vo&Gu)の作る旋律は親しみやすく、分かりやすい──そう書くと、TRICERATOPSの楽曲を耳にしたことがない人には、それこそ馬鹿っぽいメロディーと思われるかもしれないが、さにあらず。今も多くのミュージシャンが腐心している、シンプルかつ、文字通り“掴みはOK”なメロディーを実現させている。このカッコ良いギターリフ、ダンサブルなリズム、キャッチーな歌メロの三位一体こそがTRICERATOPSなのである。

名曲「Raspberry」の衝撃

彼らのすごさはそれをデビュー時から成立させていたところだとも思う。1997年7月に発表されたデビューシングル「Raspberry」を耳にした時の衝撃は、今も生々しく思い出される。イントロのエレキギターの音色と旋律。決してキレがいいわけではないが、そこがまた何ともロックっぽいリズム。そこに和田のシャウトが重なってからのAメロ。少年っぽさを残したその声が奏でるメロディーはしっかりと抑揚がある。そしてサビ。
《ラズベリー踊ろうよ 全て忘れ身をゆだねて/ラズベリー踊ろうよ それで全てうまくいく》。
このメロディーとサウンドに身を委ねたら本当に全てうまくと思ってしまうような多幸感。そこから転じて生まれる無敵感。正直言うと、しばらくの間、歌詞は“ラズベリーを穫ろうよ”だと思っていたし、バンド名を“トリケラトプス”って読んでいたくらいなので、当時、筆者はバンドの概要にはあまり興味がなかったのだが、それ以前に楽曲のほうが耳をこじ開けて飛び込んできた感じだった。(ちなみに今回調べて初めて知ったのだが、今でこそ彼らの代表曲でもある名曲「Raspberry」は発売時チャートにも入らなかったらしい。たまげた)
そして、2ndシングル「彼女のシニヨン」、3rd「ロケットに乗って」に続いて、98年3月に発表された1stアルバム『TRICERATOPS』は、ファーストインパクトを少しも裏切ることがない、リフ、リズム、歌の三位一体感を十二分に堪能できる名盤であった。M1「Two Chairs」のイントロからして、今聴いてもゾクゾクするようなロック体験ができる代物である。吉田佳史(Dr)が刻む、抜けのいいスネアドラム。和田の分厚いエレキギター。そこに絡まる林幸治(Ba)のベースライン。3ピースのロックバンドであることをそのサウンドが雄弁に語っている。以降、全楽曲が上記の三位一体感を持続しながら連なっていく。これまた、そう書くと単調に思われるかもしれないが、無論そうではない。M3「オレンジライター」でテンポが落ち着き、グルービーなサウンドを聴かせるほか、M8「プレゼント」ではシャッフル、M10「My Skywalker's T-Shirt」ではファンクと、流石にバラエティーに富んでいる。また、ローリング・ストーンズ、セックス・ピストルズ、ザ・フー等々、オールドスクールのロックへの敬愛を忘れないフレーズが随所にあるところも聴いていて飽きないポイントだろう。さらには、ここまで述べてこなかったが、彼らのもうひとつの特徴であるコーラスワークも、1stアルバム『TRICERATOPS』をカラフルに仕上げている大きなファクターだ。和田本人も「世の中の3ピースバンドの中で恐らく一番ハーモニーを多用するバンド」と公言しているそうで、早くからバンドの武器でコーラスワークがバンドの武器であることに自覚的だったと言える。

少年らしさを感じさせるラブソング

歌詞はラブソングがほとんど──というか、全編がラブソングだ。だが、それがいい。ロックも多様性を増し、パンクの登場以降は反体制を叫んだりすることも当たり前となったが、初期ビートルズで分かるようにロックのリリックは基本ラブソング。1stアルバム『TRICERATOPS』の歌詞はそれを踏襲したかのような作りだ。とりわけ、飾らない少年心(?)とでも言おうか、その素直さは大いに買える。
《今では片方のこのイスに座って 僕は考える/この部屋に君以外のコ呼んでさ/気に入ってくれたらいいな hey hey》(M1「Two Chairs」)。
《君のオレンジのライター/それに貼ってる シールには/誰かと彼が写ってるのさ 今でもずっと/早いうち ちゃんと付き合おう/そうすれば そんなライター 気にしないさ》(M3「オレンジライター」)。
《まさか君が前 彼としてたなんて/過去なんか割り切れる/強い心が必要/正直に言うのが 僕のためだって言う/君の意見なんて そんなに感謝できない》(M9「アイ・ラヴ・エスカレーター」)。
《だから僕のルーク・スカイウォーカーのTシャツは君だけを抱くのさ/その時はまた宇宙の彼方 飛んで行けるんだろうね》(M10「My Skywalker's T-Shirt」)。
 強がりと揺るぎ、そしてあどけなさが同居している様子が素晴らしいと思う。素直な心情をポップに昇華させた和田唱は、やはり只者ではない。1stアルバム『TRICERATOPS』を聴き直して、「そりゃあ、人気女優さんのハートも射止めるわけだ」と妙に納得させられた。

著者:帆苅智之

OKMusic編集部

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