EARTHSHAKERが
ジャパニーズメタルを提示!
叙情的な歌に重きを置いた
『EARTHSHAKER』

『EARTHSHAKER』(’83)/EARTHSHAKER
HR/HMに日本的な叙情性を
加味した元祖
X JAPANは所謂ビジュアル系バンドという日本のサブカルチャーの代表ではあるものの、そのルーツはハードロック、ヘヴィメタル。欧米から輸入されたこのカテゴリーの音楽が(X JAPAN自体に今やその面影はなくなったが)KISSであったり、ニューウェイブのアーティストであったりの影響でメンバーは派手なメイクや衣装を纏い、さらに日本的な叙情性を加味されて北米へ逆輸入されるようなかたちになったことは、昔を知る者にとっては痛快でもある。
日本のハードロックの元祖は紫やBOWWOWらであり、海外進出ということで言えばLOUDNESSがその先駆けであろうが、日本的な叙情性を加味したバンドという観点で見ればEARTHSHAKERを忘れてはならない。LOUDNESSが世界を標榜し“バカテク”な演奏でそれを実践したバンドならば、EARTHSHAKERは日本のシーンを意識し、“歌”の比重を高めることによって国内を熱くさせたバンドであったと思う。
不世出のヴォーカリスト2名を輩出
初期のメンバーであった二井原がそののち、1981年にLOUDNESSへ参加したことはファンならずともご存知の方は多いのではなかろうか。LOUDNESSに関しては当コラムでその名盤『Thunder In The East』を紹介しているのでバックナンバーをお読みいただけると幸いだが、二井原、西田という不世出のヴォーカリストを擁したEARTHSHAKERの求心力の強さは注目すべきであろう。二井原と石原とは高校の同級生であり、西田もEARTHSHAKER加入前から二井原と交流があったというから、当時、その界隈には独特の磁場があったようである。それがどのようなものであったのかは議論を重ねる余地があるが、80年代前半の日本のハードロック、ヘヴィメタルシーンをけん引するだけでなく、一方は海外でもう一方は国内で活躍することで日本のロックシーンを変革したアーティストが、当時はまだ“村”的であったと言える業界から出現してきたことは間違いない。
https://okmusic.jp/news/83684/
艶やかさ、セクシーな
ハイトーンヴォーカル
もちろんそのヴォイスパフォーマンスを発揮させているメロディーラインのキャッチーさも見逃せない。♪Oh!もう二度と♪(M3「412」)とか、♪エーンドレス・ドリーム・フォーエバー♪(M7「CHILDREN'S DREAM」)とか、♪なにもかもおまえにー Ah-Ha- なにもかも 求めた♪(M9「夢の果てを」)とか、そのハイトーンを再現できるかどうかはともかく、口ずさみやすいものばかりだ。♪アースシェイカー♪(M1「EARTHSHAKER」)、♪アーイ・フィール・オール・サッドネス♪(M4「I FEEL ALL SADNESS」)は、サビが楽曲タイトルであることでさらにキャッチーさが増しているようであり、特に印象的だと思う。これぞ、ジャパメタであろう。
また、きれいに言葉を音符に乗せているのみならず、M6「MARIONETTE」での見せる各小節を《Saturday Night》《Crazy Night》《Back Street》《Rock'n Roll》といった言葉で占める文法(?)であったり、M8「TIME IS GOING」の《yeah yeah》の多用であったりは、R&Rの作法に忠実といった印象で、叙情性だけでない様式美を見ることもできる。
歌を邪魔せずに自己主張する楽器隊
2曲目以降はそうした奥ゆかしさ、楽器隊のヴォーカルを邪魔しないスタンスはそのままに各パートの小技は増えていく。M2「WALL」の間奏でブレイクを連発する箇所やM4「I FEEL ALL SADNESS」のプログレっぽいダイナミズムはバンドとしての面目躍如であろう。もっとも個性的に聴こえてくるのはやはりギター。M4「I FEEL ALL SADNESS」、M7「CHILDREN'S DREAM」辺りのソロは特にいいが、M6「MARIONETTE」のアウトロでのライトハンド奏法、M8「TIME IS GOING」の間奏で聴かせる、ほとんど曲芸のような速弾きは実に素晴らしい。当初からLOUDNESSとの比較で「“バカテク”ではなかった」と言われたEARTHSHAKERだが、いやいやどうして、石原=SHARAは流石に元祖ジャパメタギタリスト。言うまでもないことだが、優れたプレイヤーである。
そのアプローチは世界標準だったか
冒頭で“LOUDNESSは海外でEARTHSHAKERは国内”と表したが、それは戦略において…ということで、EARTHSHAKERにしてもその音楽性は世界標準だったと言っても決して過言でもなかろう。今年デビュー35周年のEARTHSHAKER。音源制作、ライヴともにアニバーサリーに相応しい動きを見せるようで、2018年は再評価熱も高まりそうである。
TEXT:帆苅智之