初々しくも才能あふれる尾崎豊が記録
されている デビューアルバム『十七
歳の地図』

没後20余年を経てもその楽曲の人気は衰えることを知らない不世出のロックシンガー、尾崎豊。今もなお多くのリスナーを魅了し続けるのは、そのメロディーと、強烈なメッセージを湛えた歌詞の確かさに他ならないが、その才能はデビューアルバム『十七歳の地図』から全開に発揮されている。

 「ロックは単なる音楽ではなく、若い世代の時代意識やイデオロギーを反映したメッセージである」とは、とある高名な評論家の言葉だが、正鵠を射た論評であろう。その意味において、尾崎豊の音楽はまさしくロックであり、こと日本において尾崎豊は最もロック足り得る音楽を創り出したアーティストと言えるのではなかろうか。“一億総中流”という少し前の言葉に象徴されるように、日本社会には明確なる階級が存在しない(ように見える)ため、日本人は欧米から輸入される“ロック=反抗の音楽”に内包される階級闘争の意味を真に理解できない──これは誰が言ったことか忘れたが、確かに一理ある話で、例えばザ・クラッシュの「White Riot」の歌詞の意味は分かっても、ジョー・ストラマーがあの時、何故そう叫ぶ必要があったかを正しく理解できる日本人は今も稀であろう。尾崎豊のすごさは、当時、彼と同世代の若者の多くが潜在的に抱いていた時代意識やイデオロギーをストレートに音楽に反映させたことに他ならない。尾崎以前も日本ならではの反抗の物語をロックミュージックに乗せる試みがないわけではなかった。例えばアナーキーがそうで、彼らはロンドンパンクをいち早く日本のロックシーンに輸入したが、初期作には「TOKYO IS BURNING」や「シティ・サーファー」、「団地のオバサン」等、パンクの持つ反抗のエネルギーを日本社会のどこにぶつけていいか逡巡しているものも少なくなく、時代が早かったと言えばそこまでだが、一部熱狂的なファンを生み出したものの、多くの若者の共感を得るところまではいかなかった。多くの大人たちが日本社会の行く末を順風満帆だと考えて疑わなかった1980年代初頭。好調な経済の陰で若者たちの心に溜まっていた社会生活への不安、鬱屈した心情を尾崎豊は見事に切り取った。それはほとんど発明だったとも言える。カウンターカルチャーとしてのロックミュージックの面目躍如でもあり、ポップな音楽性に乗せたというのはロックの持つ自由さを最大限に発揮した行為でもあった。
 もう一点、尾崎豊に関して特筆しなければならないのは、メジャーシーンの第一線で活動中に急逝したことだ。ブライアン・ジョーンズ、ジミー・ヘンドリックス、ジャニス・ジョップリン、ジム・モリソン、カート・コバーンら、欧米にはその絶頂期に夭折したアーティストも少なくなく、それゆえに伝説化してしまったようなきらいがあるが、不幸なことに、尾崎豊は日本のロックシーンにおける初めてのケースとなってしまった。それまでですでにファンの間でカリスマ視されていた尾崎だが、彼の死を受けてその名はさらに拡散されていき、死の直後の92年5月、最新作であった『放熱への証』がチャート1位を獲得したほか、アルバム5作品がトップ10入りを果たす。これは快挙というよりも彼の死を受けた混乱の表れではなかったのかと思う。何しろそれまでトップアーティストが急逝することなどなかったのである。当時はメディアもどう扱っていいか手探り状態だったのだろう。普段積極的にロックを取り上げないような媒体まで尾崎を取り上げたことで、尾崎は社会現象化してしまった。これをきっかけに初めて尾崎を聴いた人も少なくなかったと思う。逝去しなければ尾崎の音楽が世間に広まらなかったかと言えば決してそんなことはなかっただろうが、急逝をきっかけにリスナーの裾野が広がったのは間違いない。例えば、「I LOVE YOU」は彼の生前からドラマやCMに使用されていたが、「僕が僕であるために」や──記憶に新しいところでは映画『ホットロード』の主題歌となった「OH MY LITTLE GIRL」など、彼の死後にタイアップが決まった楽曲の方が圧倒的に多いのである。
 さて、そんな尾崎豊の作品から1枚を挙げるのは、これまたなかなか難しい作業だが、個人的にはデビュー作『十七歳の地図』を推したい。収録曲に上記の通り、「I LOVE YOU」「OH MY LITTLE GIRL」「僕が僕であるために」といった尾崎を代表するナンバーが多いことに加えて、デビューシングル「15の夜」、2ndシングル「十七歳の地図」、3rdシングル「はじまりさえ歌えない」も収録されていて、デビューアルバムでありながら初期ベスト盤的内容となっている(ちなみに「OH MY LITTLE GIRL」も後にシングル作品としてリリースされているので今となってはほぼシングルベスト的様相だ)。まぁ、そうした商業面を除いても、このアルバムにはデビュー作品ならでは初々しさと尾崎豊らしさの両面が詰まっている。具体的に言えばピュアなメロディーと声だ。名バラード「I LOVE YOU」「OH MY LITTLE GIRL」の美メロは言うに及ばずだが、「はじまりさえ歌えない」「ハイスクールRock'n'Roll」「傷付けた人々へ」「僕が僕であるために」辺りのポップさは時代に左右されない不変さを湛えている。ビートの重い「十七歳の地図」「愛の消えた街」にしても抑揚のあるメロディが特徴的だし、A~Bメロには語りに近い部分がある「15の夜」にしても、サビメロの高揚感は強い。要するにこのアルバム収録曲は全てメロディーが立っていて、尾崎が若い頃からメロディーメーカーとして確かな資質を持っていたことが分かるのだ。声については、概ねどの楽曲でも言えることだが、高音域で聴くことができる特有なしゃがれ声が実に素晴らしい。「15の夜」や「十七歳の地図」ではやや辛そうな部分も感じられるが、それを含めて10代ならではのパフォーマンスが感じられる。レコードとはよく言ったもので、アルバム『十七歳の地図』にはデビュー時の尾崎豊がそのまま記録(レコード)されているのである。
 尾崎豊の歌詞については冒頭でも少し触れたし、何より筆者以上に詳しい論客は多いのであえて掘り下げる必要もないだろうが、久しぶりにアルバム『十七歳の地図』を聴いて思ったことを少しだけ記したい。尾崎豊と言うと、《盗んだバイクで走り出す 行き先も解らぬまま 暗い夜の帳りの中へ 誰にも縛られたくないと 逃げ込んだこの夜に 自由になれた気がした 15の夜》(「15の夜」)や、2ndアルバム『回帰線』収録曲「卒業」の《行儀よくまじめなんて 出来やしなかった 夜の校舎 窓ガラス壊してまわった》というフレーズが有名で、一般的にはこのイメージが強いと思われる。“社会に抑圧された末の無軌道な若者”と言ったところだろう。それはそれで間違いではないだろうが、もちろんそれが全てではない。全てではないどころか、アルバム『十七歳の地図』では、《この街じゃ俺達 まだまだ世間知らずさ 情熱は空回りの 把みどころのない影 走り出してはいつも 路頭に迷い込んで 把むものも何もなくて はじまりさえ歌えない俺がいる》(「はじまりさえ歌えない」)と将来への不安は隠せないものの、《愛の消えた街さ 昔からそうなのだろうか それがあたりまえと言うには俺はまだ若すぎる 見つけたい 見つけたい 愛の光を》(「愛の消えた街」)、《心すれちがう悲しい生き様に ため息もらしていた だけど この目に映る この街で僕はずっと生きてゆかなければ》《僕が僕であるために勝ち続けなきゃならない 正しいものは何なのか それがこの胸に解るまで 僕は街にのまれて 少し心許しながら この冷たい街の風に歌い続けてる》(「僕が僕であるために」)と、しっかりと前を見据えている。《電車の中 押しあう人の背中にいくつものドラマを感じて 親の背中にひたむきさを感じて このごろふと涙こぼした》(「十七歳の地図」)と、社会や家族にも視線を向けていることにも注目したい。私見だが、「十七歳の地図」とは“ティーンネイジャー周辺の心模様”としての地図であると同時に、“ティーンネイジャーの道標”としての地図でもあると思う。

著者:帆苅竜太郎

OKMusic編集部

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