SHAKALABBITSが
バンドシーンを盛り上げた『CLUTCH』

2016年12月、SHAKALABBITSのオフィシャルサイトにおいて“SHAKALABBITSより重要なお知らせ”として、2017年内をもってバンドが無期限に活動を休止することが発表された。すでに、Project Nyxの第16回公演『時代はサーカスの象にのって』への参加(1月19日~23日)。2月14日には東京キネマ倶楽部にてアコースティックライヴの開催。そして、4月上旬には5年振りとなる通算8枚目のフルアルバムのリリースとそのリリースツアーの開催(5月13日~)が発表されており、そのファン、リスナーへけじめを示そうとする姿勢は何とも彼女ららしくはあるが、活動休止は残念な出来事であることは間違いない。今回はそのSHAKALABBITSの軌跡を振り返る。

バンドシーンの端境期に出現

ロックシーンを彩ってきたバンドがまたひとつフェードアウトすることとなった。2002年のメジャーデビュー後、幾度かのレーベル移籍、メンバーチェンジを経てきたSHAKALABBITSが今年その活動に終止符を打つ。彼女らの活動を振り返ってみると、何と言うか…上手く言葉にできないが、“よくぞここまで…”とその労をねぎらいたくなってくる。音楽コラムにおいて、したり顔でこんなことを言うのもイヤだが、CD不況が言われて久しい音楽業界。CD販売枚数は1998年をピークに、2010年代に若干持ち直したものの、全体的には右肩下がりが止まることはなく、現在の市場規模はピーク時の半分以下に縮小した。SHAKALABBITSの結成は1999年。前年に引き続き、CD販売は好調でミリオンヒットも数多く生まれた年だ。だが、彼女らがデビューした2002年にはそれも激減。年間アルバムのミリオン作品は前年の22作から7作と大幅減し、シングルのミリオンセラーは浜崎あゆみの「H」1作のみだった。時代はディーヴァ全盛期。浜崎の他、宇多田ヒカル、MISIAの3人でチャート上位を占めていた。バンド勢は、Mr.Children、GLAY、L'Arc〜en〜Ciel、Dragon Ashら20世紀末にブレイクしていたバンドはともかくとして、アルバム『MESSAGE』がインディーズながら200万枚を売り上げたモンゴル800がひとり気を吐いていたことを除くと、総体的に元気がなくなりつつある頃だったと思う。
SHAKALABBITSのデビュー前後には大物バンドの解散も相次いだ。2000年7月にBLANKEY JET CITYが解散。Hi-STANDARDも8月の『AIR JAM 2000』を最後に活動を停止した。LUNA SEAの終幕も2000年だし、JUDY AND MARYはその翌年3月の東京ドームのライヴで解散している。さらには、これはすでに彼女らが人気を博した後ではあるが、2002年にNUMBER GIRLが、2003年にはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTが解散した。だが、とは言っても、これでバンドシーンが完全に停滞したわけもない。漫画『BECK』の台詞──「たぶん今もどっかで…今まで見たこともないようなすげぇバンドが演奏しとるんだわ。今は誰もそいつらのこと知らんけど、いつかシーンに登場して本物の音を聴かせてくれるはずだて」じゃないが、新世代の胎動は始まっていた。前述のモンゴル800以外にも、1997年メジャーデビューのくるりは着々とその知名度と音楽性を高めていったし、2000年デビューのBUMP OF CHICKENは2002年発売のアルバム『jupiter』でチャート初登場1位を記録。ASIAN KUNG-FU GENERATIONが初音源であるミニアルバム『崩壊アンプリファー』を発表したのが2002年である。1998年~2002年、つまりは世紀末から新世紀にかけては邦楽バンドシーンにおける端境期であった。そして、その胎動は後の“青春パンクブーム”や“ネオヴィジュアル系”を含む、俗に言う第4次バンドブームにつながっていった。

デビュー時に175Rとカップリング

さて、前置きが長くなったが、SHAKALABBITSは2000年代前半からの第4次バンドブームをけん引したバンドのひとつである。彼女たちは停滞し始め、景気は悪くなる一方であった音楽業界へ果敢に立ち向かったのだ。忘れ得ない出来事はメジャーデビュー時の175Rとのコラボレーションである。2002年5月、シングル「ROLLIE」でメジャーデビューした直後の同年7月にSHAKALABBITSと175Rとの完全共作のシングル「STAND BY YOU!!」を発表し、発売後も2バンドのカップリングツアーで全国11カ所を回った。今、プロフィールだけを見ると、2001年5月にリリースした2ndシングル「Let's PARTY!!」はインデーズチャート初登場1位、同年10月には1st アルバム『EXPLORING OF THE SPACE』もインディーズチャート1位を獲得した上にメジャーを含めても初登場10位を記録しており、新作をリリースするにしてもツアーを切るにしても間違いなく単独でイケたはずである。しかし、そうではなかったことにSHAKALABBITSの心意気を見る。それまでシングル「From North Nine States」のみのリリースだった175Rは、「STAND BY YOU!!」の翌年の「ハッピーライフ」「空に唄えば」が連続でチャート初登場1位となり、ブレイクを果たすわけだが、これは明らかにSHAKALABBITSとの相乗効果によるものだっただろう。誤解しないでほしいが、何も175RがSHAKALABBITSに便乗したと言ってるわけではない。決してそうではない。手と手と携えて…という言い方は泥臭くてイヤだが、件の通り、CD販売は右肩下がり、当時のバンド勢の元気がなくなる中で、2バンドが手を組んでブレイクスルーを目指したというのが正解だろう。

ポップ感が前面に出たパンクサウンド

それが功を奏したのだろう。2003年、SHAKALABBITSは3枚のシングルを発表し、年に3度の全国ツアー(!)を成功させ、シーンになくてはならないバンドに成長を遂げる。その翌年の2004年2月、まさに満を持して発表されたのが2ndアルバム『CLUTCH』である。チャートリアクションはバンド史上最高位で、セールスもバンド史上最高だった本作は、今聴いても瑞々しい。M1「CAN'T ESCAPE THE CHOCOLATE SYRUP」やM5「IT'S OUR SECRET」、M8「Pivot」など、スカパンクが目立つ気もするが、とにかくポップだ。ライヴ感あふれると言い換えてもいいかもしれない。M2「マッシュルームキャットナンバープレート」辺りは“ちょっとポップすぎやしないか!?”と思うほどだし、M3「WISH OF A VAMPIRE」は最初の聴き応えこそ、“ストレートなポップとは言い難いかな?”なんて思ってしまうが、Bメロからサビにかけては十分にポップだ。アルバムのラスト、M11「SPICE!」からM13「COMEBACK ANYTIME」は言うに及ばず。弾け方っぷりはお見事だ。この辺は、この時期、パンクシーンの頂点は間違いなくSHAKALABBITSであったことを示す好材料だと思う。アルバム発売前にライヴの場数を踏んだことも良かったのだろう。当時のバンドの活き活きとした様子も上手くパッケージされている。

UKIの歌がもたらす力強さ

所謂3ピースのアンサンブルに勢いがあり、しっかりとバンドのボトムを支えていたからこそできた技ではあろうが、当時のSHAKALABBITSのポップ感は、やはりUKI(Vo)の優れたヴォーカルパフォーマンス、そしてメインコンポーザーであるMAH(Dr)のソングライティングの確かさがもたらしたものであろう。まず、UKIの声だが──これは説明不要であろう。ファッション雑誌のモデルとして活躍していた彼女だが、決して可愛さだけではなかった。スイートだが力強い。同性からも多くの共感を得ていたことも頷ける。MAHの作るメロディーラインに関しても、改めてM4「MONSTER TREE」やM7「「ポビーとディンガン」」を聴けば、その大衆性の高さは充分に確認できるところだろう。この2曲は今なおバンドの代表曲としてライヴでは欠かせない楽曲になっている。
《すれ違う君と 手のひらをつなぐもの/目を閉じ恐れない/悲しみが飛び乗って優しさに/生まれ変わる/そしてひとつになれればいい》(M4「MONSTER TREE」)。
《終わらない旅に恋して/生きてゆける いつまでも/握りしめたその手/重ねて空に投げる》《どんな小さな空にだって/想いは届く 足跡残したいから》(M7「「ポビーとディンガン」」)。
そのポピュラリティーの高いメロディーに上記の歌詞が乗ることで生まれる独特の高揚感は、SHAKALABBITSの核心であろう。《手のひらをつなぐもの》や《握りしめたその手》からは否応なく他者との繋がりを感じられるところで、ヒューマニティあふれるバンドであることの証左でもある。
以後のSHAKALABBITSは、2005年に初の日本武道館公演を成功させ、ほぼ毎年、新作のリリース&全国ツアー、イベント出演と順調に活動を展開してきたが、2011年にKING(Ba)が脱退し、TAKE-C(Gu)の実弟であるYOSUKE(Ba)が加入。2014年には自主レーベル兼マネジメント“Hallelujah Circus Inc.”を立ち上げ、翌年にはProject Nyx第13回公演 『新宿版 千一夜物語』に出演するなど、活動のフィールドを広げかけていた。その末での無期限活動休止の発表は若干解せない印象がないわけではないが、「メンバー・スタッフと協議を重ねた結果」とあるのだから、今のところは察するしかないというところか。何よりも今春に通算8枚目のフルアルバムが発表され、そのレコ発ツアーも行なわれるというのだから、作品の中に何かしらのメッセージがあるかもしれないし、ツアーのMCでメンバーから直に話があるかもしれない。今はそれを待つしかないが(「聞きたくない」というファンもいるだろうが)、彼女らの言葉がどうであれ、2000年代前半、ロックシーンを盛り上げた彼女らの功績は失われることはない。もう一度言うが、SHAKALABBITSの当時の頑張りを労いたい。

著者:帆苅智之

OKMusic編集部

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