浜田省吾の魅力が凝縮された初期の代
表作『愛の世代の前に』。このアルバ
ムの成功がその後のキャリアを導いた

 日本を代表するロック・シンガー、浜田省吾。先日、10年ぶりとなる新曲「夢のつづき」を、15年1月公開の映画『アゲイン28年目の甲子園』に提供することが発表され、話題になったばかりだが、彼が81年にリリースした7作目のアルバム『愛の世代の前に』を取り上げる。前年にリリースした『Home Bound』とともに現在につながるロック路線を決定付けた、彼のディスコグラフィーの中でも1、2を争う人気作&重要作だ。

 生まれて初めて買ったロックのレコードは浜田省吾の『Home Bound』だった。その頃はまだ、いわゆるニューミュージックを聴いていた、ロックのロの字も知らない中学生。当然、ロックを求めて、『Home Bound』を買ったわけじゃない。
 むしろ、そのちょっと前にカップヌードルのテレビCMで流れていた「風を感じて」の延長にあるようなアルバムをイメージしていた。だから、レコードに針を落として、A面1曲目の「終わりなき疾走」が聴こえてきた時は驚いた。その曲で歌っているように「稲妻が俺の体、駆け抜け」たような衝撃があった。そこにはそれまで聴いていたニューミュージックとは明らかに違う何か――もちろん今思えば、ささやかなものではあるけれど、熱狂とか興奮という言葉で表現できる感覚があった。
 たぶん、それがロックということだったんだと思う。
 その後、めんたいロックからパンクロックに遡ったことで、より過激なものを求め、過激じゃなければロックじゃないと思い込んでしまい、『Home Bound』以前のアルバムも遡って聴いていた浜田省吾の音楽から段々、気持ちが離れていってしまった。その頃があるから、今の自分があると思うから後悔はしていない。しかし、僕はパンクに出会い、自分の人生が一気に開けた反面、失うもの、あるいは出会えなかったものも多かったんじゃないかと最近、しばしば思うことがある。
 今回、取り上げた『愛の世代の前に』もそのひとつ。ロックをやりたいとずっと思いながら、事務所やレコード会社が望むニューミュージック路線に甘んじていた浜田省吾が6作目にして初めてロックに挑んだ『Home Bound』からわずか11カ月でリリースしたこの『愛の世代の前に』は、“本当のデビューアルバム”と自ら語る『Home Bound』とともにその後のロック路線を決定付けた代表作中の代表作だ。もちろん、それに加え、精力的なツアー活動があったからこそだとは思うが、『Home Bound』とこの『愛の世代の前に』の成功が、その後のキャリアにおいて果たした役割はあまりにも大きい。
 82年1月12日に開催が決まった自身初の日本武道館公演に向けて、“強力なアルバムが作りたい”という想いの下、81年の夏、わずか2週間で作ってしまったそうだ(因みにこのアルバムの発売は81年9月21日)。ヒット曲が「風を感じて」ぐらいしかない当時の浜田省吾の人気では武道館公演は無謀と言われながらチケットは即日完売したという。
 しかし、僕は正直、『Home Bound』ほど、このアルバムにのめり込むことができなかった。1曲目の「愛の世代の前に」こそハードロッキンなギターが唸る力強いロックナンバーだが、『Home Bound』に比べ、「愛という名のもとに」「陽のあたるあたる場所」「センチメンタルクリスマス」「悲しみは雪のように」といった甘い曲が多かったところも、ロックを求めていた僕には受け入れがたかった。
 今となっては、全然ロックじゃねぇぜなんて言いながら、表層的なロックのイメージにこだわりすぎて、いや、とらわれすぎるあまり、浜田省吾というアーティストが持っている豊かな音楽性をちゃんと聴きとることができなかったことに恥じ入るばかりだが、「モダン・ガール」に窺えるウェストコーストロックへの共感や「土曜の夜と日曜の朝」「センチメンタルクリスマス」に顕著なR&Bの影響を、日本語のポップス/ロックのフォーマットで表現するソングライティングの魅力を理解できるようになったのは、どれくらい経ってからだろうか? そして、「愛の世代の前に」で訴えた我々は常に核の恐怖にさらされているというメッセージや「独立記念日」に込めた若者の鬱屈と反抗心に改めてロックを感じ、アルバムの最後を飾る「防波堤の上」で果てしない虚無に戦慄したとき、このアルバムは僕の中で輝き始めたのである。
 『Home Bound』とともに日本が誇るロックシンガーとして、その後、成功を収める浜田省吾の進む道を決定付けた代表作にもかかわらず、洗練も感じられるサウンドとは裏腹に作品の底には、どちらかと言うと、ペシミスティックと言うかメランコリックな感覚があるところが浜田省吾というアーティストの本質を物語っているようでいい。

著者:山口智男

OKMusic編集部

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