『終わらない歌』収録の
「天使達の歌」
名曲誕生の背景を
坂本サトル本人に訊く

『終わらない歌』('00)/坂本サトル

『終わらない歌』('00)/坂本サトル

1990年代にメジャーシーンで活躍したロックバンド、JIGGER'S SONのヴォーカリスト、坂本サトルがソロ活動を開始したのが1999年。そのデビュー曲が「天使達の歌」である。当初はインディーズで、しかも北海道・東北地方限定発売の同曲だったが、精力的なライヴ活動が功を奏して、異例のセールスを記録。コンサート動員も増大し、逆輸入的に中央のメディアでも紹介されて、メジャー復帰も果たした。当時、『ミュージックステーション』に出演したり、『情熱大陸』でも密着されたりしたことを覚えていらっしゃる方もいるだろうか。現在の彼は故郷・青森に拠点を移し、シンガーソングライターとしてはもちろんのこと、再結成したJIGGER'S SONの他、バンドやユニットでの活動、他アーティストのプロデュースと、多忙ながらも極めて充実した音楽人生を送っている。坂本サトルがソロ活動開始から四半世紀。2024年は「天使達の歌」が世に出て25周年である。これはお祝いの意味も込めて、直接ご本人に話を訊いてみたい。そう思い立ち、FacebookのDMで取材を申し込んだ。快くお引き受けいただいて、後日インタビューさせてもらったのが以下のテキストである。

振り返ると
激動の25年だった

――1999年2月20日に「天使達の歌」の北海道・東北限定版シングルが発売されました。四半世紀経ちますね。率直に、その四半世紀っていうのは、ざっくり振り返ってどうですか?
「どうだったかなぁ…まぁ、あっと言う間ではなかったですよ。プライベートでも離婚したり再婚したりもしたし、あれから事務所も何個か移ったり、今度は自分たちで独立したり、その(独立した時の)パートナーが死んじゃったり、青森に移住したり…ですね。ほんと振り返ると激動の25年でしたね」

──で、そのシングル「天使達の歌」、そして、アルバム『終わらない歌』の話をうかがっていくんですけど、それを語ってもらうには、やっぱりJIGGER'S SONから軽く振り返ってもらわないといけないと思います。これもざっくりとした質問になりますけど、1990年代のJIGGER'S SONをサトルさん自身はどんなふうに振り返りますか?
「1990年代のJIGGER'S SONねぇ…今デビューしてくる若い子たちの完成度の高い音楽を聴いていると、コロムビアがあんな未完成の状態でよくデビューさせてくれたなって思いますよね。今の子たちは自分で育っているでしょ? みんな、ネットや動画でものすごいスピードで、曲の作り方、いい音で作品を作ることを学んで、形が出来上がったところにレコード会社が声かける…みたいな。そんな感じじゃなくて、当時はデビューさせてから育てるみたいなことをやってたわけですよね。そういう意味では、いい時代だったのかもしれないですけどね。レコード会社にはお金があったっていうか、余裕があったっていうことなんでしょうけど、よくあの状態で(JIGGER'S SONを)デビューさせてくれたな、と(苦笑)」

──日本コロムビア80周年記念コンテストでグランプリを獲って、それがデビューのきっかけだったわけなんですけど、デビューするっていう話になった時に“ちょっと待ってもらえませんか?”って話があったっていうのを他のインタビューでも読みました。ご自身には“まだメジャーへ出ていくにはしんどいだろう”って思いがあったんですね?
「ちょうどその頃に、曲の作り方というか、自分らしさというか、オリジナリティーというか、“自分たちじゃないとできないこと”っていう意味が分かったばっかりだったんですよね。意味が分かって初めて書いた曲(※註:後にデビュー曲となる「お宝」)でいきなりグランプリ獲って、デビューってなっちゃったから、俺としては“ちょっと! 今、分かったばっかりなんですけど…”っていうのがあったんですよ。だから、“始まったばっかりなのにいきなりデビューしちゃう…、何にも分かんないのに…”っていう。今掴みかけたものがあるから、デビュー前にもっと曲を作りたい。グランプリを獲ったことで、その時の感覚が正しいということが分かったわけですからね。“それをもうちょっと突き詰めてからデビューさせて”っていうことだったんですよね。あともうひとつあって、その時が1990年なんでその頃まだ『イカ天』の余波があったんですよ。いわゆるバンドブームですよね(※註:バンドブームをけん引したテレビ番組『三宅裕司のいかすバンド天国』、通称“イカ天”は1989年2月から1990年12月まで放送された)。“この中でデビューしていくのがちょっと危険だな” っていうのを何となく察知して」

──そういうブームにまみれるとダメだなと。それは冷静でしたね、たぶん。
「今考えると…ね。ちょうどそのあたりに、大学の同級生達が就職活動をしてた時期で、僕だけがずっとバンドやって就職活動も何にもしなくて。周りでは内定が決まったの何だのって言ってた時期だったので、“あれ? 俺、どうするんだろう?”と思って時に“デビューできるよ”っていう話になったから、“あっ、じゃあ、これが俺にとっての就職なんだな。だとしたら、一生の仕事にしないとな”と思ったんですよ。仙台ってね、そのころ毎年メジャーデビューするバンドが出てたんですよ。だけど、ほとんどの人たちが(アルバム)1枚だけ出すとか、デビューしたけどすぐいなくなっちゃった…みたいな感じだったから、“デビューするだけじゃダメなんだな”って。そういうところでは、仕事としてすごく真剣に考えてた気がしますね」

──結構面白いですね、その視点は。で、日本コロムビアからデビューしますが、(レーベル移籍後の)TRIADまで入れると、7枚のアルバムをJIGGER'S SONで作っています。今の新人バンドはそれこそ1枚出して終わりとか、2枚も出せない状態だけに、当時はレコード会社にお金があったってこともありますけど、7枚作ったというのは結構頑張ったというか…
「でもね、やっぱり当時は…これは繰り返しになりますけど、レコード会社に余裕があって大らかだったって事が大きかったと思います。今みたいに“1枚出してダメだったらもう次はないよ”っていう感じもなかったから、甘やかせてもらってたっていうか、長い目で見る余裕があったんだと思うんですよね。でも、だんだんその余裕もなくなっていって…まぁ、それが7枚目だったってことだと思うんですけどね。だから、本当に試行錯誤が許されたんですよね」

──ぶっちゃけたところ、言葉を選ばずに言うと、JIGGER'S SONはものすごく売れたわけじゃないんですけど、かといって、全然売れなかったわけでもないっていう感じでした。その“行けそうで行けない感じ”みたいなものにじくじたる想いがありましたよね、ずっと?
「ありましたね。今はもうちょっと客観的に見れるから、いろいろと“原因はあれだったんだろうな、これだったんだろうな”って分かりますけど、当時はそんなことは分かんないですし、タイアップとかが全盛の頃で…タイアップで売れるっていうね。いい話も来るんですよ。でも、最後まで他と競ってダメとか、“決まった”って言われていたのに決まっていなかったとかっていうのがあって、“これは信用できねぇな”っていう感じで(笑)。何かそれに一喜一憂して振り回されてる感じでしたね。今思えば、きっちり4人でライヴができていたから、“それでいい”って思えれば、活動休止しなくて良かったかもしれないし、状況は変わってたかもなぁと思うんですけど」

──調べてみたら、JIGGER'S SONがデビューした1992年っていうのは本当にバンドが世に出てきた時期で。その一方、その後にビジュアル系も出て来てて、本当に混沌としきて。しかも、CDは出せば売れたんですよ。1997年、1998年がCD売上のピークだそうです。いわゆるCDバブル。そりゃ迷いもするし、逡巡もするだろうなと。
「ねぇ? 何と言っても、やっぱり俺が人間的に本当に未熟だったので…“仕事としてデビューするんだ!”っていう、そういうところはすごく冷静だったと思うんですけども、そこからが未熟だったよね。だから、本当に冷静に客観的に、自分たちの状況を判断できなかったと今は思いますよね。本当にいい状況だったと思う、今思えば。でも、当時は全然思えなかった。“一緒にデビューして同じ感じだったのに、何でミスチル、スピッツ、THE YELLOW MONKEYはあんな感じになって、俺たちはまだこうなんだ!?”って。当時はね。今なら、“それはそれでいいんだよ。ちゃんと自分たちには役割もあるし、キャラクターもあるし、続けてればいいんだよ”って考えられるけど、当時は“何でなんだ!?”って思いがやっぱりありましたよね」

OKMusic編集部

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