BUCK-TICKが『Six/Nine』で示した、
ギターロックバンドのスタンス

昨年、櫻井敦司が新ソロ・プロジェクト“THE MORTAL”をスタート。今井寿は藤井麻輝(minus(-)、ex.SOFT BALLET)とのユニット“SCHAFT”を約20年振りに本格始動させ、1月20日にアルバム『ULTRA』をリリースしたばかり、というソロ活動の話題の他、バンド本体も、自身のレーベル“Lingua Sounda”をビクターエンタテインメント内に移すことを報告し、早くも9月11日の横浜アリーナ公演を発表と、ここに来て精力的な動きを見せるBUCK-TICKである。結成以来、不動のメンバーで活動し、今もなお後進のバンドに有形無形の影響を与え続ける、邦楽ロックシーンの至宝とも言えるバンドだ。

独自に確立したB-Tならではの世界観

再結成だ、解散だと、年明けから何かと喧(かまび)すしいエンタメ業界だが、この手の騒ぎがある度に思うことがある。再結成はファンにとってこの上なく嬉しいことだろうし、解散となれば極めて悲しい出来事には違いない。だから話題になる。それは分かるし、解散にも再結成にもそれ相応の理由があるので、それ自体を無下には否定するつもりはない。だが、それらと同等に…と言わないまでも、解散と無縁で、それゆえに再結成することもないアーティストにも注目が集まってしかるべきだとは思う。筆頭格はTHE ALFEE。1974年デビューだから40年以上の活動歴を誇る。THE ALFEEは何と1982年からここまで毎年全国ツアーを欠かしていない。驚異的だ。これを鑑みると、久しぶりに再結成して全国数カ所云々なんて、申し訳ないがハナクソ程度にしか感じられない。人呼んで“信頼と実績”のTHE ALFEEは今以上に褒め称えられるべきだろう。それと並んで、個人的に最注目してほしいバンドはBUCK-TICK(以下、B-T)である。1987年のデビュー以降、途中、不祥事による活動自粛や、各メンバーのソロ活動によってバンド自体の動きが滞ったことはあるものの、それにしても音源リリースやライヴを欠かした年はない。それもさることながら、この間、B-Tは一切メンバー・チェンジがない。ただの一度も…だ。これは本当にすごいことだ。メジャーフィールドにおいて、不動のメンバーで28年間、ほとんど止まることなく活動を続けているというのは、もはや偉業と言える。
単に活動歴が長いだけでなく、音楽性の充実っぷりもB-Tの素晴らしさである。デビュー当初は、BOØWYが同郷の先輩バンドであることも影響してか、所謂ビートロック的な括りで語られていたが、徐々にゴシック・ロック、ニューウェイヴの要素を取り入れ出し、3rdアルバム『TABOO』〜4thアルバム『悪の華』でダークな世界観を確立。これらの作品の制作と同時に今井寿(Gu)がプロデューサー、アレンジャーとして頭角を表したことにより、B-Tは完全に独自のサウンドを発信するロックバンドへと成長を遂げる。1992年のセルフカバーアルバム『殺シノ調べ This is NOT Greatest Hits』では、過去の楽曲を脱構築の上、アップデイトさせることに成功し、“今井寿、完全覚醒”を印象付けた。以後、ここに至るまで今井が音楽面でのリーダーとしてバンドをけん引し続け、感性に従ってB-Tサウンドに様々な要素を注入。エレクトロニック、ハードコアテクノ、ミクスチャーロックを取り込んだと思えば、デジタルな要素を極力排除してシンプルなバンドサウンドに回帰したり、かと思えば、その後に80年代ディスコ風サウンドを作り出してみたり、と実に奔放に作品を生み出している。しかも、若干アヴァンギャルドな楽曲が収録されているものの、いずれのアルバムも基本的にポップで大衆性は高い。

ギターが前面に出たダイナミズム

そんなB-Tゆえに、そのアルバムの中から1枚を挙げるのは難しい。例えば、6th『darker than darkness -style 93-』(93年)、12th『Mona Lisa OVERDRIVE』(03年)、16th『RAZZLE DAZZLE』(10年)はそれぞれ感触が異なるが、いずれも名盤と呼ぶに相応しい完成度である。また、彼らは現役であり、今後も新作を発表し続けていくだろうから、最高傑作はこれから制作されることも十分にあり得る(B-Tの場合、10年後辺りに自己ベストを大幅に更新する大傑作を送り出すという、映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』クラスの事態が起こっても何ら不思議ではない)。そこで今回は、今年からB-Tのレーベル“Lingua Sounda”が、彼らがデビューした古巣のビクターエンタテインメント内に移されたというトピックがあったことから、前ビクター時代の最後のオリジナルアルバム『Six/Nine』にスポットを当ててみたいと思う。全16曲で収録時間71分超というB-T史上最大のボリュームで、ビギナーへ気軽に勧められる作品ではないが、先に述べたB-Tの音楽的魅力が十分に詰まった作品である。
このアルバム、多彩である。アンビエントなM1「Loop」とM16「Loop MARK II」、そしてM8「Somewhere Nowhere」。デジロック的なM2「love letter」とM7「細い線」。オリエンタルな雰囲気でサイケデリックなM6「楽園(祈り 希い)」。M10「デタラメ野郎」はパンク。M11「密室」はレゲエ。M12「Kick(大地を蹴る男)」とM13「.愛しのロック・スター」ではグラムロック的なアプローチを見せるし、M9「相変わらずの「アレ」のカタマリがのさばる反吐の底の吹き溜まり」でのヴォーカリゼーションはラップ調だ。これ以外も、スケール感のあるサウンドのメロディアスナンバーM4「鼓動」、メタル的なM5「限りなく鼠」、レッド・ツェッペリンばりのハードロックチューンM14「唄」と、バラエティー豊かと言えばバラエティー豊か、何でもアリと言えば何でもアリ。当時、今井寿に取材したところ、「言葉にできるようなコンセプトを作らず、感覚のまま…「コレ、いいな」と思ったまま、一曲一曲作っていった」ということで、必然的にさまざまなタイプの楽曲が出てきたということだった。ややもすれば散漫にもなったであろう。しかし、今聴いても、とっ散らかった感じがしないのは、ほとんどの楽曲でギターリフが立っており、そのギターサウンドに一本筋が通っているからだ。今井も「ポップさをヴォーカルでなくギターで表現したアルバムと言ってもいい」と語っていた。ギターサウンドはロックの華。ロックのダイナミズムはギターがあってこそ…とは大袈裟な物言いではないであろう。B-Tは今井、星野英彦(Gu)両名のツインギターであり、言わずもがな、ギターバンドである。『Six/Nine』は、多彩な楽曲が収録されつつもギターが前面に出ることで、ギターバンドとしてのB-Tを如何なく感じることができる、ロックアルバムなのである。

不動の5人ならではの楽曲構造

そのギターサウンドは、直接的ではないにしろ、現在のラウドロックに影響を与えたと思われる。それほどに今聴いてもスリリングだし、まったくと言っていいほど古さを感じさせない。いずれも素晴らしいテイクである。また、蛇足ながら補足するが、ギターの良さは、しっかりとしたリズム隊がそれを支えてこそ…である。リズム隊は樋口豊(Ba)、ヤガミトール(Dr)の実兄弟。『darker than darkness -style 93-』の頃から、所謂“横ノリ”を積極的に取り込んだことがこの辺で活きてきたことも強調したい。とりわけボンゾの魂が降りてきたようなM14「唄」のドラミングは必聴である。さらに、これもまた言うまでもないが、櫻井敦司(Vo)の存在感はB-Tの支柱である。どんなにギターが良く、「ポップさをギターで表現した」と言ったところで、B-Tは櫻井敦司が居なければ始まらない。そのヴォーカリゼーションの凄さは勿論だが、歌詞世界の確かさもB-Tの世界観に奥行きを増していることを忘れてはならない。『Six/Nine』では、特にM14「唄」に注目だ。《どうして生きているのか この俺は/そうだ狂いだしたい/生きてる証が欲しい》《この世で美しく/限りないこの命/この世で激しく/燃えろよこの命》。この歌詞のタイトルに“唄”と名付けるセンスは特筆もの。ロックアーティストとしての矜持を示した傑作である。

著者:帆苅智之

OKMusic編集部

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