『夏雲ノイズ』で示された
優れたバランス感覚に
スキマスイッチの秀でた
音楽的才能を見出す

『夏雲ノイズ』('04)/スキマスイッチ

『夏雲ノイズ』('04)/スキマスイッチ

8月19日、“スキマスイッチの音楽で笑顔と元気を”テーマにしたセレクションアルバム『スキマノハナタバ ~Smile Song Selection~』がリリースされる。収録曲は彼らの楽曲の中から“笑顔になれる曲”をテーマに選曲。このコロナ禍ではなかなか曲を書く気持ちにならなかったということだが、[今だからこそかける曲というのがあるのではないかと思い、日記のように思った事を書き留めた曲です]という、書き下ろしの新録「あけたら」も収録されている([]はスキマスイッチ公式サイトより抜粋)。というわけで、今週はスキマスイッチの1stフルアルバムである『夏雲ノイズ』をピックアップしたい。

堂々としたメロディーライン

“スキマスイッチは才能あるアーティストだなぁ”と今言ったところで多くの人に“今頃、何言っての?”と訝しがられるのが落ちだろうが、メジャー1stフルアルバム『夏雲ノイズ』を聴いてみると、やはり“この人たちは早くからその才能を発揮していたんだなぁ”と思わざるを得ない。その優れたポップセンスについては下記で解説していくけれども、とりわけ素晴らしく思ったは、楽曲を構成する要素の塩梅である。親しみやすいが親しみやすさだけでもなく、マニアックな部分もあるにはあるがマニアックになりすぎない。そのバランスが絶妙なのである。キレのいい変化球があるから直球を活かすことができるピッチャーとか、笑える要素を散りばめているから感動的なフィナーレで大いに泣かせる映画や小説とか、そんなふうに喩えてもいいかもしれない。デビュー時からこれをやれたら、そりゃあ大衆の支持を集めるでしょう…と妙に納得してしまった。

まず『夏雲ノイズ』収録曲のメロディから見ていこう。歌の旋律は直球である。変に捻ったところがないと言ってもいいかもしれない。ロックやポップスからその枠をさらに広げて、唱歌や童謡にも近い旋律であるように思う。その分かりやすい例はM3「桜夜風」やM11「えんぴつケシゴム」だろうか。ベテランの作曲家が作ったような堂々としたメロディーラインである。老若男女、聴き手を選ばないと思わせるに十分な親しみやすさを有していると言い切っていいのではなかろうか。また、M6「ドーシタトースター」はクラシック的と言えるように思う。ピアノと歌というシンプルなサウンド構成なので、余計にそう感じるのかもしれないが、ピアノソナタの第○楽章…といった雰囲気すらある。シングルナンバーであるM3「ふれて未来を」、M4「view」、M12「奏(かなで)」のサビのキャッチーさも言うに及ばず、である。いずれも普遍的なメロディーと言っていい。どれがどうとは言わないけれども、もし〇〇〇〇や●●がカバーして、スキマスイッチのことをよく知らないリスナーがそれを聴いたとしたら、それぞれのオリジナル曲だと思ってしまうのではないか。個人的にはそう思うほどに、時代に左右されないメロディーであるような気がする。

歌を邪魔しない絶妙なアレンジ

さて、そうした“メロディーがとても親しみやすい=汎用性がある”ということを前提として、話をサウンド面に移していこうと思う。『夏雲ノイズ』はオープニングM1「螺旋」から見事な聴かせ方をしている。ド頭から跳ねたピアノが鳴るのだ。ご存知の通りスキマスイッチは大橋卓弥(Vo)と常田真太郎(Key)から成るユニットである。M1「螺旋」のイントロはメンバーに鍵盤の弾き手がいることを示しているのは間違いなかろう。メジャーで最初のフルアルバムの1曲目から“こういうユニットです!”と自己紹介しているのである。この人たちの律儀というか、生真面目な性格が反映されているような気がする。総体的に言えばM1「螺旋」は、ブラスも入ってソウル~R&Bの匂いのするナンバー。リズム隊、とりわけ沖山優司が奏でるベースが素晴らしいうねりを見せることで、全体に強烈なグルーブ感を生んでいる。アウトロのしゃがれたサックスも生々しく、そうしたところだけ抜き出してみると、かなり泥臭いサウンドと見ることもできると思う。だが、全体の聴き応えはかなりポップに仕上がっている点がポイントだろう。

M2「ふれて未来を」も同様。基本は4つ打ちのモータウンビート(?)で、ピアノにしてもオルガンにしても鍵盤が活きたポップなサウンド。こちらもホーンセクションが入っている上、さすがにシングル曲であるからかストリングスも配されている。そのストリングスには1番から2番の間ではサイケデリックな要素も入っていたりして、これもまたそうしたところだけを抜き出せば、マニアックな音作りがされていると見ることもできるだろう。しかしながら、全体的な聴き応えとしては小難しくない。そういう聴き方をすればそう聴こえるというだけで、歌を邪魔しない絶妙なアレンジが施されているのだ(M2の方が特にその意識が強いように思われる)。スキマスイッチの音楽はロックであって、しっかりとそのマナーに則ってロック史に敬意を表しつつ、ポップスに仕上がっている。そんな言い方でもいいだろうか。まさしく《これくらいがちょうどいい》(M2「ふれて未来を」)とばかりに音楽好き、ロック好きが喜ぶ要素を実にいい塩梅で注いでいるようである。

そのM1「螺旋」とM2「ふれて未来を」とが『夏雲ノイズ』においては(楽器が多いという意味で)最も派手なサウンドである。そんなところも本作の興味深いところでもある。オープニングでキャッチーに──いわゆる“掴みはOK”にしたかったのかもしれない。M3「桜夜風」以下は抑制の効いたサウンドも散りばめられていく。M3「桜夜風」は大橋、常田の他、事務所の先輩である山崎まさよしの3人でサウンドメイキングされたミッドバラード。そういうところも含めて、前述の通り、堂々とした印象があり、1stフルアルバムにして風格すら感じさせる落ち着いたナンバーである。その一方でM4「view」はメジャーデビューシングルらしい疾走感にあふれている。極めてロック的なギターのストロークがザラっとした音作りによってさらにワイルドに仕上がっている印象で、ドラマチックなサビメロを余計に際立たせているように思う。このテイクはシングル盤とは若干アレンジを変えているとのことで、その辺にもここまで述べてきたスキマスイッチのサウンド、そのバランス感覚がありそうだ。

OKMusic編集部

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