名曲「春夏秋冬」とともに型破りな泉
谷しげるの魅力が堪能できるアルバム
『春夏秋冬』

泉谷しげるの曲を初めて聴いたのはラジオだった。「こんな曲は今まで聴いたことがない」と思った。近年ではNHK『紅白歌合戦』に初出場。代表曲であり、不朽の名曲「春夏秋冬 2014」を歌ったが、その「春夏秋冬」と「黒いカバン」が収録された1972年リリースの2ndアルバム『春夏秋冬』は初期の泉谷しげるの繊細でぶっとんだ世界に触れられる名盤だと思う。

前代未聞なぐらい衝撃的だった「黒いカ
バン」

 1971年にライヴアルバム『泉谷しげる登場』でデビューを飾った泉谷しげる。その後の自由奔放なイメージ、役者としての成功、画家としての活躍など多彩な才能が開花していった人生を思うと、“泉谷しげる登場”というタイトルは相応しい。もちろん、そんなことを予測して付けたわけではないだろうがーー。さて、前述のラジオから流れてきた曲というのは「黒いカバン」である。黒いカバンを持って歩いていたら、「おーい、ちょっと」と警察官に呼び止められ、職質される主人公の歌(歌詞は岡本おさみで作曲は泉谷しげる)なのだが、ふたりのやりとりをまくしたてるように早口で歌うこの曲を初めて聴いた時は爆笑した。上から目線の態度にムカッときて「お前は誰だ?」と訊かれ「僕は人間です」と答える下りなど、ふたりのやりとりが面白おかしく、かつリアルに歌われているのだが、元祖パンクとも言えるし、元祖ラップとも言えるこの曲はとにかく衝撃的というか破壊的だった。2ndアルバム『春夏秋冬』に収録されている曲のイントロにも“なんだこれ!? これ、歌じゃねーんだから、もう”という台詞が入っているが、初めて聴いた時はまさに「なんだ、この歌」だった。それから泉谷しげるというアーティストの存在が猛烈に気になった。かと思うと、歌詞とメロディーのマッチングが秀逸な普遍的魅力を持つ「春夏秋冬」のような曲も歌ってしまう振り幅のデカさ。この2曲が1枚のアルバムに入っているというだけでも凄すぎる。
 ちなみに泉谷しげるが北海道南西沖地震被災者救援のため、全国各地でゲリラライヴを行なっていた1993年当時、インタビューする機会に恵まれたことがある。当然のごとく緊張したし、「変な質問をして気を悪くさせてしまったらどうしよう」とビビッていたのだが、そんな空気を察したかのように全ての質問に予想以上の答えを返してくれて、「たくさん、しゃべってしまったけれど、いいところだけ抜いておいてくれればいいから」と取材を締めたのも強烈な思い出として残っている。雑誌の文字数が限られていることへの配慮までしてくれる優しさとプロフェッショナリズム。決して泉谷しげるが本当はやさしい人だったということを言いたかったわけではない。エキセントリックで尖っているのも、センシティブな面を持っているのも、また泉谷しげるなのである。そのことは初期の作品にも如実に表れていると思う。

アルバム『春夏秋冬』

 サディスティック・ミカ・バンドで当時、活躍していた加藤和彦のプロデュースによる本作は、ドラムにつのだひろ、ギターに高中正義が参加。そのサウンドの質感のせいもあるのかもしれないが、今、聴いてもフォークというカテゴリーには納まり切らない泉谷しげるの魅力を感じる。オープニングナンバーはアコギのストロークにベースが絡んでいくロックンロール「地球がとっても青いから」。その乾いていて男っぽいヴォーカルは70年代の情緒的フォークとは趣を異にしているし、世界を見つめる視点と日常の視点が行ったり来たりする歌詞、ライヴ感たっぷりのシャウト気味の歌にもしびれる。アルペジオで始まる「ねどこのせれなあで」も曲調的には癒し系だが、歌詞は彼女が知らないうちに自分のノウミソをじゃぶじゃぶ洗っているという、ちょっと物騒な泉谷流ラブソングで、どこかトボけていてシュールな「狂走曲21番」から「黒いカバン」へと移行する前半の4曲は型にハマらない資質が炸裂している。その一方で「鏡の前のつぶやき」や、ワークソング「帰り道」「街はぱれえど」では“光と陰”の“陰”の部分、泉谷しげるの繊細な一面が浮き彫りにされ、それらの楽曲たちが名曲中の名曲「春夏秋冬」の奥行きを増す役目を果たしているようにも思える。分析不可能のエネルギーと人間臭ささが未完成なバランスで同居しているのも刺激的である。

著者:山本弘子

OKMusic編集部

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