ブルース・クリエイションの
『悪魔と11人の子供達』は
洋楽と遜色のない日本のロックを
響かせた歴史的名盤

『悪魔と11人の子供達』(’71)/ブルース・クリエイション
アナログ盤が高値で取引された名盤
推す理由は『悪魔と11人の子供達』がスーパーギタリスト、竹田和夫の圧倒的な力量を見せつけたアルバムであり、のちにクリエイションへとつながるブルース・クリエイションのバンド像を盤に焼き付けた作品であるからだが、そうした作品の素晴らしさ以上に、このアルバムが日本ロック史、ひいては日本の芸能史における最重要作のひとつだからである。何しろ本作が発売されたのは1971年なのだ。以下で、『悪魔と11人の子供達』の音像を頑張ってテキスト化していくが、この拙文よりも何よりも、未聴の人が本作を一聴すれば分かると思う。これが1971年発表の作品であることに驚くことは間違いない。当時の日本人にこういうことができたと考えると、かなり感慨深い作品であり、正しき歴史的名盤なのである。
欧米では名盤と言われる作品が
続出した時代
一方、1971年の洋楽はどうだったかというと(この辺は四人囃子『一触即発』を紹介した時にも書いたが)、1970年4月にポール・マッカートニーが脱退を表明し、The Beatlesが事実上解散。1969年にブライアン・ジョーンズ(The Rolling Stones)が、1970年にはジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリンが相次いで亡くなったあとだ。Creamはそれ以前の1968年に解散している。しかしながら、ロックミュージックの人気はまったく衰えることなく、King Crimsonの『クリムゾン・キングの宮殿』(1969年)、The Whoの『ロックオペラ“トミー”』(1969年)、BLACK SABBATHの『黒い安息日』『パラノイド』(共に1970年)、Pink Floydの『原子心母』(1970年)、T.Rexの『電気の武者』(1971年)、Led Zeppelinの『レッド・ツェッペリン IV』(1971年)と歴史的名盤が次々と生まれていた。所謂“ロック黄金期”であった。
洋楽ロックに引けを取らない傑作
全てが同時期の洋楽と同等とは言わないが、少なくとも『悪魔と11人の子供達』で聴ける演奏はそれらと遜色がないものと言わざるを得ない。M1「原爆落し」からしてそのギターリフはThe Rolling StonesやCreamを彷彿させるキャッチーさで、全体的な感触は初期のBLACK SABBATHの近いだろうか。M2「ミシシッピー・マウンテン・ブルース」は文字通りのブルースナンバーで(John Mayall & The Bluesbreakersの楽曲からの引用だとか)、ここで一旦ルーツミュージック寄りになるが、それ以後は完全にハードロック、当時の日本で言われた“ニューロック”のサウンドが続く。M3「ジャスト・アイ・ワズ・ボーン」はキメやタメがとても“らしい”感じで、途中リズムが変化するところはプログレの匂いもするし、アウトロ近くではジミヘンばりに弾きまくるギターも飛び出す。M4「悲しみ」では2本のメロディアスなギターがイントロから絡み合い、間奏、アウトロでは鳴きのフレーズが登場。アナログ盤ではB面1曲目にあたるM5「ワン・サマー・デイ」はミディアム~スローで少しテンポは落ち着くものの、そのアウトロから重なるM6「脳天杭打ち」以降はエンジン全開、本領発揮だ。インストのM6「脳天杭打ち」はフリーキーな演奏からキレのいいユニゾンを聴かせ、三拍子に展開するパートもあるという、このバンドの演奏力の確かさをダメ押ししているかのようである。M7「スーナー・オア・レイター」は歌に絡むギターがやはりジミヘンっぽい印象。また、ベースもかなりブイブイとした音をさせて、実にカッコ良い。フィナーレM8「悪魔と11人の子供達」もまた全体にはBLACK SABBATHな感じだが、ギターはジミー・ペイジ、ドラムスはジョン・ボーナムを彷彿させるところもあるし、テンポの変化はプログレ的だ。
個人的にはSteppenwolfの軽快さがあるような気もしていて、9分を超える大作だが、まったく飽きさせない。全てが一発録りであったとは思わないが、そう簡単にパンチインできなかった時代だし、フレーズに細切れ感がないことからすると、少なくとも楽器の演奏は取り直しの効かない状態での収録であろう。昔はロックに限らず、それが普通だったのだろうが、それにしてもそんな中で堂々とした音を鳴らしたこのバンドのすごさ、その様子は十二分にパッケージされていると思う。
随所に感じられる日本人らしさもいい
日本ならでは…と言えば、本作を聴いた人が十中八九指摘するのがその日本的な歌い方(?)ではなかろうか。収録曲はどれも英語詞なのだが、発音が完全に日本語なのである。これに対しては賛否ある…というか、大方は否定的な見方で、肯定組も完全な賛同というより、“時代を考えれば仕方がない。ご愛敬ご愛敬”と擁護しているような意見がほとんどだ。初めて聴く人は事前に知っておいたほうがいい事柄だろう。
あと、これは余談だが、タイトルがプロレス寄りであることは多分、日本人らしさであろう。プロレス好きを公言する海外のアーティストというのはあんまりいない気がするが、日本人アーティストでプロレス好きは多い。M1「原爆落し」、M6「脳天杭打ち」はともにプロレス技。前者はアトミック・ドロップ=尾てい骨割り。後者はパイルドライバー…と言いたいところだが、英語タイトルはブレイン・バスターとなっているので、昔は“脳天杭打ち”と言えばブレイン・バスターだったのだろう。ちなみに、のちにクリエイションとなってから制作した「スピニング・トーホールド」はザ・ファンクスの同名の技をイメージしたもので、その入場テーマともなった。竹田和夫のプロレス好きは筋金入りであった。
この『悪魔と11人の子供達』が発売されたのと同じ年に、もう1枚、日本のロックの名盤中の名盤が発売されている。はっぴいえんどの2ndアルバム『風街ろまん』だ。興味のある人はぜひバックナンバーにも目を通していただきたいが、ひと言で言えば“日本語のロックを確立した作品”であり、日本におけるポピュラー音楽の流れを変えた革命的なアルバムである。また、沢田研二、岸部一徳(ex. タイガース)、萩原健一、大口広司(ex. テンプターズ)、井上堯之、大野克夫(ex. スパイダース)らが結集したバンド、PYGを結成して、それがすでに終焉していたと言われるGSブームに決定的なとどめを刺したと言われているが、それも1971年である。今回の『悪魔と11人の子供達』再発の惹句に“70年代ニュー・ロック黎明期を代表するブルース・クリエイションの名盤”とある。それはそれで間違いではないだろうが、『風街ろまん』の発売やPYGの結成と併せてもっと広く考えると、1971年は日本のロックの起点のような年だったと言えないだろうか? その意味でもロックファンを自称する人なら、『悪魔と11人の子供達』は絶対に聴き逃せないアルバムだと思う。
TEXT:帆苅智之