ブルース・クリエイションの
『悪魔と11人の子供達』は
洋楽と遜色のない日本のロックを
響かせた歴史的名盤

『悪魔と11人の子供達』(’71)/ブルース・クリエイション

『悪魔と11人の子供達』(’71)/ブルース・クリエイション

先週6月20日、1971年に発表されたブルース・クリエイションの2ndアルバム『悪魔と11人の子供達』が再発された。詳しくは本文で書いたが、“ニューロック”と言われた、まさに新しいロックの波をリードした作品であると同時に、今となっては日本のロックの起点となった最重要作のひとつであろう。再発を記念して本作にスポットを当ててみた。

アナログ盤が高値で取引された名盤

この『悪魔と11人の子供達』は、帯付のオリジナル・アナログ盤が一時期10万円以上で取り引きされていたのは好事家の間では有名な話で、過去に発売された再発CDですら高値が付いていたというから、今回の紙ジャケットはまさに待望の再発だったと言える。ロック、とりわけ日本の古いロックに興味がある人には──いや、そこまで古いものに興味がなくとも今このコラムを読んでちょっとでも興味を持った人には、ぜひ『悪魔と11人の子供達』の購入をおすすめしたい。再度、品薄にならないとも限らない。税込み3,024円。そんなに損はしないと思う。サブスクで聴くのも悪くないが、本作は名盤に相応しくジャケットも味わい深いので、やはりマテリアルを手元に置いてほしい(その意味ではアナログ盤が最適だが、それは高額になるのでそこまではお勧めいたしません)。

推す理由は『悪魔と11人の子供達』がスーパーギタリスト、竹田和夫の圧倒的な力量を見せつけたアルバムであり、のちにクリエイションへとつながるブルース・クリエイションのバンド像を盤に焼き付けた作品であるからだが、そうした作品の素晴らしさ以上に、このアルバムが日本ロック史、ひいては日本の芸能史における最重要作のひとつだからである。何しろ本作が発売されたのは1971年なのだ。以下で、『悪魔と11人の子供達』の音像を頑張ってテキスト化していくが、この拙文よりも何よりも、未聴の人が本作を一聴すれば分かると思う。これが1971年発表の作品であることに驚くことは間違いない。当時の日本人にこういうことができたと考えると、かなり感慨深い作品であり、正しき歴史的名盤なのである。

欧米では名盤と言われる作品が
続出した時代

1971年が芸能史的にどういう年だったかと言うと、その年の日本レコード大賞が尾崎紀世彦の「また逢う日まで」で、最優秀歌唱賞が森進一の「おふくろさん」、最優秀新人賞は小柳ルミ子の「わたしの城下町」。年間シングルチャート1位はその「わたしの城下町」であった。ザ・タイガースを解散した沢田研二がソロ活動を開始したのもこの年で、井上順之、堺正章のソロデビューもそうだ。野口五郎や八代亜紀のデビューも同じで、五木ひろしが芸名を変えて再デビューしているのもこの年。泉谷しげるや大滝詠一のソロデビューも同年だが、シーンの中心は演歌、歌謡曲で、しかも、同年にデビューしたメンバーの顔触れを見ると、本格的に隆盛を迎えるのはまだまだ先といった時期だった。

一方、1971年の洋楽はどうだったかというと(この辺は四人囃子『一触即発』を紹介した時にも書いたが)、1970年4月にポール・マッカートニーが脱退を表明し、The Beatlesが事実上解散。1969年にブライアン・ジョーンズ(The Rolling Stones)が、1970年にはジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリンが相次いで亡くなったあとだ。Creamはそれ以前の1968年に解散している。しかしながら、ロックミュージックの人気はまったく衰えることなく、King Crimsonの『クリムゾン・キングの宮殿』(1969年)、The Whoの『ロックオペラ“トミー”』(1969年)、BLACK SABBATHの『黒い安息日』『パラノイド』(共に1970年)、Pink Floydの『原子心母』(1970年)、T.Rexの『電気の武者』(1971年)、Led Zeppelinの『レッド・ツェッペリン IV』(1971年)と歴史的名盤が次々と生まれていた。所謂“ロック黄金期”であった。

洋楽ロックに引けを取らない傑作

日本のメインと欧米のメインに大分違いがあったわけだが、今みたいに情報が世界中に行き渡るような時代ではなかったのでこれは致し方ない(今も大分違うと言えば大分違うし)。ただ、そんな状況の中でも、新しい刺激に敏感な人たちは国内に飽き足りず、国外にそれを求めたのだろう。聴くだけにとどまらず、自らの音楽に新たな刺激を積極的に取り込んだ竹田和夫らはその筆頭であったと言える。氏がギターを始めたのは1965年、13歳の時。これはベンチャーズ人気に端を発した“エレキブーム”の渦中であったのでそれほど早熟と言えるものではないが、プロになったのが1968年で16歳の時というのは驚きだ。その翌年にはブルース・クリエイションを結成してデビューしているのだからさらに驚くし、『悪魔と11人の子供達』にしても氏が19歳の時の作品なのだ。その感性が相当に鋭かったことに加えて、研鑽を重ねた末のギタープレイに圧倒的な説得力があった結果なのだが、それがBLACK SABBATHやLed Zeppelinと同時期にそれとほぼ同等のことをやっていたのは、今となっては驚異的を通り越して不可思議さを感じるほどである。

全てが同時期の洋楽と同等とは言わないが、少なくとも『悪魔と11人の子供達』で聴ける演奏はそれらと遜色がないものと言わざるを得ない。M1「原爆落し」からしてそのギターリフはThe Rolling StonesやCreamを彷彿させるキャッチーさで、全体的な感触は初期のBLACK SABBATHの近いだろうか。M2「ミシシッピー・マウンテン・ブルース」は文字通りのブルースナンバーで(John Mayall & The Bluesbreakersの楽曲からの引用だとか)、ここで一旦ルーツミュージック寄りになるが、それ以後は完全にハードロック、当時の日本で言われた“ニューロック”のサウンドが続く。M3「ジャスト・アイ・ワズ・ボーン」はキメやタメがとても“らしい”感じで、途中リズムが変化するところはプログレの匂いもするし、アウトロ近くではジミヘンばりに弾きまくるギターも飛び出す。M4「悲しみ」では2本のメロディアスなギターがイントロから絡み合い、間奏、アウトロでは鳴きのフレーズが登場。アナログ盤ではB面1曲目にあたるM5「ワン・サマー・デイ」はミディアム~スローで少しテンポは落ち着くものの、そのアウトロから重なるM6「脳天杭打ち」以降はエンジン全開、本領発揮だ。インストのM6「脳天杭打ち」はフリーキーな演奏からキレのいいユニゾンを聴かせ、三拍子に展開するパートもあるという、このバンドの演奏力の確かさをダメ押ししているかのようである。M7「スーナー・オア・レイター」は歌に絡むギターがやはりジミヘンっぽい印象。また、ベースもかなりブイブイとした音をさせて、実にカッコ良い。フィナーレM8「悪魔と11人の子供達」もまた全体にはBLACK SABBATHな感じだが、ギターはジミー・ペイジ、ドラムスはジョン・ボーナムを彷彿させるところもあるし、テンポの変化はプログレ的だ。

個人的にはSteppenwolfの軽快さがあるような気もしていて、9分を超える大作だが、まったく飽きさせない。全てが一発録りであったとは思わないが、そう簡単にパンチインできなかった時代だし、フレーズに細切れ感がないことからすると、少なくとも楽器の演奏は取り直しの効かない状態での収録であろう。昔はロックに限らず、それが普通だったのだろうが、それにしてもそんな中で堂々とした音を鳴らしたこのバンドのすごさ、その様子は十二分にパッケージされていると思う。

随所に感じられる日本人らしさもいい

洋楽からの影響をものすごいレベルで、しかもほぼタイムラグがないほどに素早く落とし込んだだけでも、それは凄まじいことだとは思う。しかし、『悪魔と11人の子供達』で確認できるブルース・クリエイションのすごさはそれだけではない。日本ならでは…というと語弊があるかもしれないが、欧米にはなかったであろう独自の要素をしっかりと聴くことができる。M4「悲しみ」やM5「ワン・サマー・デイ」のメロディーは明らかに和の匂いがある。特にM5は日本語を乗せても十分にイケると思わせるものだ。M7「スーナー・オア・レイター」はリズムとギターリフが若干和風。この楽曲にあるどこかジャングルビートっぽいリズムは、そう思って聴けばそう聴こえるという類のものかもしれないが、斎太郎節のお囃子っぽい気もする。また、これは和風ではないけれども、M3「ジャスト・アイ・ワズ・ボーン」ではロシア民謡風の音階を取り入れており、それが絶妙なポップさを生んでいるのが面白い。

日本ならでは…と言えば、本作を聴いた人が十中八九指摘するのがその日本的な歌い方(?)ではなかろうか。収録曲はどれも英語詞なのだが、発音が完全に日本語なのである。これに対しては賛否ある…というか、大方は否定的な見方で、肯定組も完全な賛同というより、“時代を考えれば仕方がない。ご愛敬ご愛敬”と擁護しているような意見がほとんどだ。初めて聴く人は事前に知っておいたほうがいい事柄だろう。

あと、これは余談だが、タイトルがプロレス寄りであることは多分、日本人らしさであろう。プロレス好きを公言する海外のアーティストというのはあんまりいない気がするが、日本人アーティストでプロレス好きは多い。M1「原爆落し」、M6「脳天杭打ち」はともにプロレス技。前者はアトミック・ドロップ=尾てい骨割り。後者はパイルドライバー…と言いたいところだが、英語タイトルはブレイン・バスターとなっているので、昔は“脳天杭打ち”と言えばブレイン・バスターだったのだろう。ちなみに、のちにクリエイションとなってから制作した「スピニング・トーホールド」はザ・ファンクスの同名の技をイメージしたもので、その入場テーマともなった。竹田和夫のプロレス好きは筋金入りであった。

この『悪魔と11人の子供達』が発売されたのと同じ年に、もう1枚、日本のロックの名盤中の名盤が発売されている。はっぴいえんどの2ndアルバム『風街ろまん』だ。興味のある人はぜひバックナンバーにも目を通していただきたいが、ひと言で言えば“日本語のロックを確立した作品”であり、日本におけるポピュラー音楽の流れを変えた革命的なアルバムである。また、沢田研二、岸部一徳(ex. タイガース)、萩原健一、大口広司(ex. テンプターズ)、井上堯之、大野克夫(ex. スパイダース)らが結集したバンド、PYGを結成して、それがすでに終焉していたと言われるGSブームに決定的なとどめを刺したと言われているが、それも1971年である。今回の『悪魔と11人の子供達』再発の惹句に“70年代ニュー・ロック黎明期を代表するブルース・クリエイションの名盤”とある。それはそれで間違いではないだろうが、『風街ろまん』の発売やPYGの結成と併せてもっと広く考えると、1971年は日本のロックの起点のような年だったと言えないだろうか? その意味でもロックファンを自称する人なら、『悪魔と11人の子供達』は絶対に聴き逃せないアルバムだと思う。

TEXT:帆苅智之

アルバム『悪魔と11人の子供達』1971年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.原爆落し
    • 2.ミシシッピー・マウンテン・ブルース
    • 3.ジャスト・アイ・ワズ・ボーン
    • 4.悲しみ
    • 5.ワン・サマー・デイ
    • 6.脳天杭打ち
    • 7.スーナー・オア・レイター
    • 8.悪魔と11人の子供達
『悪魔と11人の子供達』(’71)/ブルース・クリエイション

OKMusic編集部

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