【ライヴアルバム傑作選 Vol.8】
THEE MICHELLE GUN ELEPHANT
らしいライヴの空気が
頭から最後まで詰まった
『CASANOVA SAID “LIVE OR DIE”』

メンバー同士による
奇跡的なアンサンブル

強いてTMGEのサウンドの特徴を挙げればそういうことになろうが、それらが合わさってこそのTMGEである。それぞれのテクニック、スキルは卓越しているし、パーソナリティも申し分ない。だからこそ、メンバーはTMGE解散前からTMGE以外での活動も行なってきたのだろう。とりわけリズム隊のふたりはずっと引く手数多の様子で、さまざまなバンドのサポートを務めてきた。だが、それらが合わさって、初めてTMGEが成立するのだ。当たり前のことを恥ずかしげもなく堂々と述べてしまったけれど、TMGEに限らず、伝説的なバンドのすごさはそういうところにある。個別のプレイのすごいが、それが合わさってさらにすごいことになる(ホントバカみたいな言い方ですみません)。『CASANOVA SAID~』で強く感じたのはそこである。

本作から少し離れるが、筆者がTMGEのアンサンブル、その比類のなさを確信したのは、この『CASANOVA SAID~』の約2年3カ月後に発表された7thアルバム『SABRINA HEAVEN』(2003年)の「ブラック・ラブ・ホール」においてである。正確に言えば、その演奏をライヴで体験した時のことだ(つまり、だいぶ遅い)。同曲のイントロではチバが弾くギターを含めて4つの音が同時に、比較的長めの間隔を空けて、4度鳴らされる。フレーズと言うほど複雑なものではなく、誤解を恐れずに言うなら、コードさえ抑えられれば素人でもできそうな演奏である。少なくともレコーディングにおいてクリックを聴きながらやれば、プロならズレることもないものであろう。ただ、逆に言えば、リズムのガイドがなければ、4人が4人、同タイミングで音を鳴らすのは困難と思われる。そういう独特の間がある演奏ではあると思う。

自分が観たライヴでは、クリックはもちろん、クハラがカウントするでもなく、アイコンタクトだけで──いや、下手するとアイコンタクトすらなかったかもしれないままに、4人が鳴らす音をジャストに合わすのである。音符の長さもほとんどズレなかったと思う。呼吸が合っている…なんてもんじゃなく、4人の体内時計がピタリ合っている。どこか空恐ろしさを感じるほどのバンドアンサンブルを目の当たりにした。イントロのド頭での短い演奏ではあるものの、独特の間が醸し出す緊張感が半端なく、見ているこちら側もヒリヒリとした空気を感じたものだ。余談ではあるが、その後、TMGEの解散が発表された時、“あそこまで4人の息が合ってしまうと、確かにこのバンドではもうやることがなくなってしまうと感じたのかもなー”と思ったことも我がことながらよく覚えている。

さて、そんな──言わば、コンマ何秒単位までもメンバーの体内時計が合っているようなTMGEのバンドアンサンブル。無論、『CASANOVA SAID~』の収録曲はすべてそれで構成されている。個人的な推しはM12「アウト・ブルーズ」だ。本作では7分47秒と最も長く演奏されている楽曲。ちなみに、1998年にリリースされたシングルでのタイムは4分14秒だったので、それより3分半も長い。ライヴではスタジオ音源とアレンジが異なることでタイムが延びたり縮んだりすることは他のアーティストでもたまにあるけれど、このM12は、例えばミドルにテンポを下げてバラードにするとか、そういった変化はない。3分半も延びているのは、間奏以降の違いである。スタジオ音源もそれなりに間奏は長い「アウト・ブルーズ」だが、M12はさらに長くしている。明らかに意図的だろう。ベースが辛うじてコードを循環させているようにも思うので、そうではないかもしれないが、M12での間奏はおそらくアドリブだろう。チバのシャウトやスキャットは完全にフリーキーだし、ギターもたぶんそうだと思う。ドラムもテンポこそ崩れてはないものの、手数が相当多いし、同じフィルが繰り返されているようには聴こえない。ベースにしても後半では高音に昇っていくような箇所も聴こえてくる。要するに各メンバーが自らのテンションの赴くままに演奏しているように思える。思えるのだが、決して散漫ではないのである。それどころか、決めるところではピシャリと決めている。特に最もテンションが高まっている6分18秒から6分48秒頃までの演奏を経て、再び歌が始まる演奏はタイミングといいグループといい本当に素晴らしい。メンバー間の呼吸が奇跡的な合い方をしていると思うし、これこそがTMGEの真骨頂であろう。

OKMusic編集部

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