【ライヴアルバム傑作選 Vol.6】
NUMBER GIRLらしさが
如何なく貫かれた
『シブヤROCKTRANSFORMED状態』

その日の演奏をそのまま収録

向井秀徳のギター。その弾き方やコード感が独特なこともまた有名な話だろう。本作ではその辺を再確認できる音源のようにも感じる。例えば、M8「透明少女」。スタジオ音源である『SCHOOL GIRL~』版も、左から聴こえてくるギターは微妙に不協和音じゃないかと感じるほどに、ほんのわずかに気持ち悪さを覚えるのだが(この“気持ち悪さ”は誉め言葉)、本作のテイクは、これまたほんのわずかではあるが、確実に弾き方が違うように思う。何と言うか、本作のほうがリズミカルで、弾むようにストロークしているように聴こえる。コードそのものが合っているとか合っていないとか、そういうことじゃなく、(大袈裟に言えば)ストローク毎に震わせる弦が異なっているような気がする。筆者はギターを弾けないでその辺の詳しいことはよく分からないのだけど、最初のストロークでは6本ある弦を全部鳴らして、次のストロークでは高いほうの弦を強め、またその次は低いほうの弦をほとんど鳴らさない…といった具合ではなかろうか。すべての弦を同じ強さで震わせるのが上手いギターと言うのであれば、決して上手い演奏ではないかもしれない。それでも、躍動感、テンションの高まりは確実に感じられる。“俺はヤヨイちゃんが好きよ。ヤヨイちゃんに捧げます!”の曲紹介で始まるM11「日常に生きる少女」にもその辺りを感じる。続くM12「我起立一個人」では、田渕ひさ子のギターにも、そうしたNUMBER GIRL特有のアンサンブルを聴くことができるように思う。とりわけ2番のアルペジオ。ポップな中に微妙な違和感を覚える旋律そのものは、スタジオ音源である『SCHOOL GIRL BYE BYE』版とはほぼ変わらないようだが、本作はエッジーになっているようにも思う。中尾憲太郎のベースラインが重要なナンバーでもあり、彼の堅実な仕事っぷりをはっきりと確認できるところでもある。

ここまで持って回ったように“微妙”とか“ほんのわずか”とか“少しばかり”といった形容を多用してきたが、本作は、古今東西のライヴ盤でたまに見かける劇的なアレンジの変化はほとんど見受けられないと言っていい。Deep Purple『Live in Japan』(1972年)での「Smoke on the Water」の超有名なギターリフがオリジナルと変わっているとか、戸川純『裏玉姫』(1984年)で『玉姫様』収録の「蛹化の女」がパンクアレンジの「パンク蛹化の女」になっているとか(共に古くて申し訳ない)、そういう明確に分かる変化は『シブヤROCKTRANSFORMED状態』にはない。イントロやアウトロにスタジオ盤にない要素が足されている楽曲もあるにはあるが、楽曲本編ではそれが見られない。そこにもNUMBER GIRLのバンドとしてのスタンスを垣間見ることができるようにも思う。個人的にはあえてそういうことをしていないのではないかと推測する。

楽曲はそれをレコーディングした時、あるいは最初に演奏した時が生まれたてであり、そこから成長していくものだ…というような話をよく聞く。とりわけライブアーティストがそういうことを言っているように思う。何度も演奏することで楽曲のディテールが変化していくということだろう。だが、どうもNUMBER GIRLの場合、少なくとも『シブヤROCKTRANSFORMED状態』においては、そういうことでもないように思う。分かりやすくアレンジを変えずとも楽曲とは演奏毎に異なるもので、場所も日付も異なればテンションが変わるのも当然で、それがそのまま演奏に反映される。勝手な想像でしかないけれど、その場でしかできない演奏、その時間でしかあり得ない演奏がライヴであり、ライヴアルバムはそれを余すところなく閉じ込めたものという想いがあったのではなかろうか。だとすると、冒頭で述べた、一般的には所謂噛んだと言われるMCをそのまま収録したことにも合点が行くように思う。新聞をあしらった本作のジャケットと歌詞カードである。これもまた後日そこで起こったことを客観的に報じるということに準えたのではなかろうか。

TEXT:帆苅智之

アルバム『シブヤROCKTRANSFORMED状態』1999年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.EIGHT BEATER
    • 2.IGGY POP FANCLUB
    • 3.タッチ
    • 4.桜のダンス
    • 5.SAMURAI
    • 6.裸足の季節
    • 7.Young Girl 17 Sexually Knowing
    • 8.透明少女
    • 9.狂って候
    • 10.DESTRUCTION BABY
    • 11.日常に生きる少女
    • 12.我起立一個人
    • 13.SUPER YOUNG
    • 14.OMOIDE IN MY HEAD
『シブヤROCKTRANSFORMED状態』('99)/NUMBER GIRL

OKMusic編集部

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