【ライヴアルバム傑作選 Vol.6】
NUMBER GIRLらしさが
如何なく貫かれた
『シブヤROCKTRANSFORMED状態』

ライヴ盤ならではの狂気の音像

そんなMCのこともあってか(?)、「SAMURAI」はオリジナルアルバムには収録されていないものの、ファンには馴染み深いナンバー。オリジナル音源(というか、スタジオ収録音源)は、2016年に1stアルバム『SCHOOL GIRL DISTORTIONAL ADDICT』、2nd『SAPPUKEI』、3rd『NUM-HEAVYMETALLIC』がアナログ盤としてリリースされた際に、この3タイトルの同時購入者向けの特典である7インチ盤に収められた。それにもかかわらず、2002年のNUMBER GIRL解散後にリリースされたベストアルバム『OMOIDE IN MY HEAD 1 〜BEST & B-SIDES〜』(2005年)には、この『シブヤROCKTRANSFORMED状態』の音源が収録されている。これもおもしろい。未発表音源をベストアルバムに収録することもできたはずだが、そうはならなかった。たぶん、そうしなかったのだろう。ファンにとってはM5こそが自分たちの「SAMURAI」という想いが強かったことも関係しているかもしれない。この機会に7インチ盤のバージョンを聴いてみたが、こちらも決して悪くはない。むしろ音がクリアでシャープな印象もある。これはこれで十分にカッコいいと思うが、M5の粗さこそがこのバンドらしさのようにも思う。NUMBER GIRL直撃世代ではない筆者ですら、そう感じる。M5に続く、M6「裸足の季節」も、ベスト盤にはスタジオ音源である『SCHOOL GIRL~』版ではなく、本作のテイクを収録。M5からM6までほぼ途切れることなく演奏されているためかと考えられる。今聴いてもこれは切り離すのはいろんな意味で困難ではある。それも本作のライヴアルバムとしての優秀さを物語っているように思う。

そもそも『シブヤROCKTRANSFORMED状態』の音像は、粗いというか、ライヴ録音ならでは…と言うべき音像だ。“籠っている”という言い方は少し違うかもしれないけれど、オリジナルアルバムなどでは各パートの音が個別かつ直線的に鳴っているのに対して、本作ではバンドの音がより一塊になっているように思う。例えば、M7「Young Girl 17 Sexually Knowing」。途中、《空の色はUFOを見た》のあと、歌に重なる田渕ひさ子の単音弾きのリフレインは、『SCHOOL GIRL~』版のほうがほんのわずか後ろにあるように感じる。それは、『SCHOOL GIRL~』版での左から聴こえる向井秀徳のギターの音のクリアさにも関係しているのかもしれないけれど、音が散漫…とまでは行かないまでも、少しばかり離れているような気もする。その点では、本作のM7のほうがより音がまとまっているように思う。特に《赤の中へずっと》以降のバンドサウンドの密集具合はカオティックさに拍車をかけているようでもある。

その点では、M9「狂って候」も相当にいい。イントロはギターのアルペジオで始まるものの、アヒト・イナザワの“鋭角!”のカウントから始まるバンドサウンドがそれを引き裂く。そこから聴いているこちら側にも息継ぎをさせないような演奏が続いていく。構成、展開自体はM9も『SCHOOL GIRL~』版もそう変わらないが、テンションはまるで違うように感じる。本作を聴いたあととなっては、(こう言っちゃ失礼かもしれないが)後者はややお行儀がいい印象すら受ける。一方でM9はまさにタイトル通り。アヒトのドラミングがかかり気味にグイグイと進み、他のメンバーは誰ひとりそれに置いていかれぬように弦楽器をかき鳴らす。そのアンサンブルに当てられたかのように、端から『SCHOOL GIRL~』版以上の暴れっぷりを見せている向井秀徳のボーカルはもはや狂気の沙汰と言っていいだろう。素晴らしいテイクである。

OKMusic編集部

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