【ライヴアルバム傑作選 Vol.10】
アリスの偉大さを実感できる
『栄光への脱出〜武道館ライヴ』

アリスの代表的作風を再確認

『栄光への脱出~』の内容へと話を移すと、本作はLP2枚組で収録時間約1時間50分という大ボリュームでコンサートをほぼ丸っと1本収録している代物だけに、最も勢いのあった時のアリスのコンサートがどういったものであったかがよく分かる作品だ。もっと言えば、先ほど“1978年は音楽シーンがニューミュージックへ傾倒していった境”と言ったけれども、この時期を境にライヴコンサート自体もまた変貌していったのではないか…などと想像させるアルバムである……ような気がする。その考察はのちほど述べるとして、まずは『栄光への脱出~』で再確認できるアリスの音楽性を記してみたい。

アリスの歌詞は、独特…とは言わないまでも、最近あまり見ないタイプではないかと改めて感じたところである。アリスの最大のヒット曲は言うまでもなく「チャンピオン」である。[ボクシングのベテランチャンピオンが若き挑戦者に敗れゆく姿を表現した曲]で、[主人公であるチャンピオンのモデルはカシアス内藤]とのことだ([]はWikipediaからの引用)。ボクサーを主人公とした物語が珍しいだけじゃなく、物語性を持った歌詞自体に少し新鮮味を感じないだろうか。こうしたタイプは演歌、歌謡曲にはまだあるかもしれないが、フォーク、ロック――いわゆるニューミュージックに分類される音楽では、少なくなってきているような気がする。物語は物語でも、恋愛物語を綴った歌詞はまだある。まだある…どころか豊富にある。だが、「チャンピオン」のような内容は少なくなっているし、シングルヒットには見受けられないように思う。しかしながら、アリスにはその辺がやや色濃いように感じられる。実質、本作の1曲目であるM2「スナイパー〜つむじ風」の「スナイパー」(=谷村新司のソロ楽曲「狙撃者」)がまさにそれだ。

《青いライトが俺を照らし出す/震える指で引き金がひけるか/見ろよ目の前にいるぜ!/撃ち抜けるか この胸が/Shoot me! サイレンサー》(M2「スナイパー〜つむじ風」)。

《俺の歌は誰にも聞こえぬララバイ》や《俺には聞こえるこの歌だけは》というフレーズもあるので、“スナイパー”を音楽やライヴコンサートの比喩として使ったとも考えられるが、それにしても物語性は強い。

恋愛ものにしても確実に架空の物語というか、少なくとも作者の心情のストレートな吐露といったものではないものもある。本作でのその代表は以下の2曲だろう。

《泣きながらすがりつけば終る/そんなキザな優しい愛じゃなかった/もう二度と消えない手首の傷あと》(M11「涙の誓い」)。

《酒びたりの日も今日限り/私は一人で死んでゆく/この手の中の夢だけを/じっと握りしめて》《貴方の声が遠ざかる/こんなに安らかに/夕暮れが近づいてくる/私の人生の》(M16「帰らざる日々」)。

間接、直接の違いはあるものの、どちらも“死”を描きながら、ともにシングル曲で――しかも、M11はチャート4位、M16は15位とヒットしているし、M16はコンサートの本編ラストで披露されているのが興味深い。サビの《Bye,Bye,Bye》のリフレインが意外にもポップでシンガロングしやすいところでライヴの盛り上がりには適切と言えるのかもしれないが、こうして歌詞を見ると、“それにしても…”と思わざるを得ない。だが、それこそがアリスという見方もできるかもしれない。愛憎入り混じるどころではない、愛と死が交錯する物語を、ポピュラーミュージックに乗せる。これはアリスの特徴だったと言ってもいいだろう。

OKMusic編集部

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