中西圭三の
さわやかなハイトーンヴォイスが
自身の方向性を導き、
『Yell』へ辿り着いた
過渡期ならではのバラエティーさ
《弱さを許してほしいと/君から届いたWeddin' Card/君といるだけで幸せになれた/別の未来生きるとも知らずに……》《Ah Diamond Rain/君に帰りたい/叶わない夢に虹を架けてくれよ/君はダイヤモンド・レイン》(M2「ダイヤモンド・レイン」)。
《壁ぎわに肘をつき招んだ君を恨んだよ/明かりが点くと君があいつとキスしてた…》《背中でドアのノブを探して部屋を出た/割れたハートのペンダントをバスルームに残して》《僕の弱さだって言いたかったの?/3人で写した海辺の写真は/前髪を切ったまん中の君が/2本の指立てて悲し気に微笑ってる Wow》(M6「片想いのバースデー」)。
M6は2ndシングルだけあって…と言っていいのか、サウンドは当時っぽいデジタル感がありつつも、モータウン仕様でポップな仕上がり。M2も流れるような歌メロに、キラキラのストリングスや派手なブラスセクションも配された、景気の良い楽曲である。それでいて、この歌詞なのだから、メロディー、サウンドと歌詞が乖離していると言ってもいいだろう。それこそモータウンのポップソングにもこういう歌詞の乗せ方をしている楽曲もあるので、その影響があったとも考えられる。チェッカーズのナンバーにもその傾向が見られるし、ポップなロストラブソングは売野氏の得意技なのかもしれない。ただ、本作以後に同じく売野氏が作詞したシングル曲は、5th「Ticket To Paradise」(1992年)にしても11th「A.C.E.」(1994年)にしても、歌詞のメンタリティーは「Woman」の路線を踏襲していることから考えると、やはり「Woman」で中西圭三のイメージが確立されたのは間違いなかろう。『Yell』は方向性を模索していた姿から、イメージが確立された、言わば“ザ・中西圭三”が出来上がるまでの軌跡が収められたアルバムと言う見方もできる。その意味では、過渡期ならではのバラエティーさがあることで、優れた作品に仕上がった面もあると言える。
TEXT:帆苅智之