中西圭三の
さわやかなハイトーンヴォイスが
自身の方向性を導き、
『Yell』へ辿り着いた
「Woman」制作の背景
今回調べていて、M3には以下のような逸話があることも知った。[当初は「サイレント・メモリー」というタイトルで、歌詞も全く違っていた。急遽三貴『カメリアダイアモンド』タイアップが決まり、CMのイメージに合わせ「前向きな女性を応援するイメージにするため」作詞の売野雅勇が全面的に書き直した]という([]はWikipediaからの引用)。本人がベストアルバム『SINGLES』(1994年)のライナーノーツでそう語っていたそうで、Wikipedia以外でもこの記述を多く見付けたので、ファンの間では有名な話なのだろう。その有名な話を前にこんなことを言うのも恐縮だが、確かにそう思うし、筆者でも同じ選択をするような気がする(売野先生、中西圭三さん、スタッフの皆さま、生意気言ってごめんなさい…)。このサウンドから想像するのは、少なくとも明るさではなかろう。どちらかと言えば、ネガティブ方向をイメージするのではないかと思う。「サイレント・メモリー」がどういう内容だったのかは今となっては知る由もないが、静かなる記憶、沈黙の記憶というタイトルからすれが、内容は推して知るべし、ではあろう。
ちなみに、来生たかおの24thシングルのタイトルが「Silent Memory」(1989年)で、《あなたが歌った Shadow of your smile》という歌詞もあるくらい、まさに影のある内容であった。M3の歌詞にしても、100パーセント元気はつらつではなく、ほんの少し影は感じる。《思うまま生きるのは勇気がいると言ったね》や《大粒の涙だね何を怯えてるの》というフレーズもある。だが、その2つくらいなもので、95パーセントはポジティブシンキングを促すものである。
《Woman 君が探してる/未来は君の中にあるよ…/Woman 何も恐れずに/夢見るように生きてごらん》《自分を信じて歩き出せばいい/心細くても君はもうひとりじゃない》《君がもし夢を棄てようとしても/夢はもう二度と君のこと離さない》(M3「Woman」)。
歌詞だけ見ると有無を言わさぬくらいの圧を感じるかもしれないが、サウンドの効果と、それもまた彼の歌声の爽やかさが糊塗しているのだろう。そこまで押しつけがましくは聴こえない。優しく背中を押すような印象がある。タイアップCMのクライアントは宝飾品販売であって、中西圭三の歌声に女性との親和性があると判断して起用したのだろうと邪推するが、それに応えて歌詞を変更した売野雅勇氏の手腕にも流石の職人技を感じるところでもある。